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ヴァナヘイムの不穏分子【4:1:0】【ファンタジー/シリーズもの】

0:登場人物
レギン:男
ロキ:男
バルドル:男
アールヴィル:男
フェンリル:女

所要時間:約30分
 : 
0:現・組織本部
0:地下施設
レギン:けんけんぱっ。けんけんぱっ。
フェンリル:え……?
レギン:けんけんぱっ。けんけんぱっ……と。
レギン:ふぃ~やっと着いたよ!
レギン:ガラスの破片を踏まないようにするのが、大変だったね。
フェンリル:あの……もしかして、レギン上官、ですか?
レギン:僕はレギンだよ?
レギン:君は……うーーん。
0:顔の近くでフェンリルをじっと見つめる
レギン:フェンリル!フェンリルだよね!
レギン:僕、覚えてるよ!
レギン:戦闘部隊の、女の子だ!
レギン:でも、どうして手錠なんか……
フェンリル:(※遮って)ロキ上官ーー!!!
0:フェンリル、走り去っていく
レギン:あ、行っちゃった。
レギン:しっかし、白衣がだいぶ汚れちゃったなあ。
レギン:僕、白衣が汚れるのが、一番嫌なんだけどな。
0:レギン、地下施設を見やる
レギン:……うん、泥臭い。血の匂いがする。
レギン:ここが新しい本部かあ。
0:レギン、楽しそうに
レギン:けんけんぱっ♪けんけんぱっ♪
レギン:今日は久々に、皆に会えそうだなあ!
レギン:こんなにいい日は無いよ!
レギン:……君もきっと、そう思ってるでしょ?(※架空の誰かに語り掛けるように)
レギン:けんけんぱっ♪けんけんぱっ♪
 : 
 : 
0:場面転換
 : 
0:戦場を歩くアールヴィル
アールヴィル:ははっ……僕は、最低だな。
アールヴィル:ヘイムダル、だったか。
アールヴィル:……殺されてあげればよかったかな。
 : 
0:アールヴィル、周囲に人の気配を感じ、警戒する
 : 
アールヴィル:……誰だ、出てこい!
 : 
0:物陰からゆっくりと青年が手をあげて現れる
 : 
バルドル:……アールヴィル上官、ですか……?
アールヴィル:(※息をのむ)君は……
 : 
 : 
0:バルドルのアジト
バルドル:「はっ!アールヴィル上官!諜報部隊・階級Bクラス・W-バルドルと申します!」
アールヴィル:……バルドル、君は、ずっとここに住んでいたのか?
バルドル:はい。そっす。
バルドル:……なんか、運悪く生き残っちゃったんで……。
バルドル:そっからは、ここで生活してるっす。
アールヴィル:そうか。普段はどうしているんだ?
バルドル:……殺したり、盗んだり、いろいろっす。
アールヴィル:君一人なのか?
バルドル:そっすね……今は、ここで一人っす。
バルドル:……あ、すんません。煙草、いっすか。
アールヴィル:構わない。
バルドル:あざっす。
バルドル:俺、煙草無いと駄目で……。
0:以降、バルドルが煙草を吸っている音を適宜入れてください
アールヴィル:煙草はどこから仕入れているんだ。
バルドル:闇商が居て、そっからっす。
バルドル:……すんません。(※気まずそうに)
バルドル:俺、上官との喋り方とか、あんま分かんなくって。
バルドル:失礼っすよね。
バルドル:敬語とか無理なんすよ、昔から……
アールヴィル:もう上官じゃない。
バルドル:は?
アールヴィル:僕はもう上官じゃないから、そんなに畏まる必要はない、バルドル。
アールヴィル:うん……そうだな。
アールヴィル:「アールヴィル」とでも気軽に呼んでくれ。
アールヴィル:敬語も要らないよ。
バルドル:……は!?
バルドル:ちょ、ちょっと、どういうことすか!?
バルドル:どうしちゃったんすか!?アールヴィル上官!!
アールヴィル:はっ、上官も敬語も要らないと言ったばかりだろう。
バルドル:だって、そんな!急に言われても……
アールヴィル:オーディンに殺されそうになってな。
0: 
アールヴィル:……つまりは、組織を追放されたんだよ。
 : 
 : 
0:場面転換
 : 
0:現・組織本部
0:地下施設
0:動かないウルド
フェンリル:ちょっと!!ウルド!!ねえ!!
フェンリル:ウルド、どうしちゃったんですか!?ロキ上官!!
ロキ:ん?ああ、電源を落としたんだよ。
フェンリル:どうしてそんな酷いこと!!
ロキ:酷い?何がだ?こいつはただのアンドロイド。
ロキ:そして僕が作った僕の所有物だ。
フェンリル:だからって……どうして急に!!
フェンリル:ロキ上官は、あんなにウルドを必要としていたじゃないですか!!
ロキ:……なんだ、そのことか。その理由なら明白さ。
0:真っ白な白衣を着たレギンが現れる
レギン:ロキだ~!久しぶりだよ~!
0:ロキ、レギンの肩をたたいて
ロキ:こいつ。レギンが、戻ってきてくれたからだよ。
レギン:また一緒に研究ができるのかと思うと、僕、とっても嬉しいよ!
ロキ:僕もだよレギン!
ロキ:レギンの脳みそは、僕が作った高性能アンドロイドなんかより、よっぽど優秀だ。
ロキ:だからウルドは要らない。
レギン:ウルド3号機が完成したら、2号機もバージョンアップをしよう!
ロキ:あぁ、レギン!それがいいな、それがいい!
ロキ:今日はお祝いだな!ちょっといいワインでも開けるか!
レギン:君も僕も、まだ未成年だよ?
ロキ:ちょっとくらいいいじゃないかー♪
0:ロキとレギン、楽しそうに笑いながら去っていく
 : 
フェンリル:……嘘、でしょ、そんな……。(※独り言)
 : 
 : 
0:深夜
0:無人のロキの研究室
フェンリル:(M)誰も居ない、ロキ上官の研究室。
フェンリル:薄気味悪ささえ、感じる。
フェンリル:エイル上官は、ウルドの電源が落ちていても、
フェンリル:裏コードは発動するはずだ、って言ってたけど、
フェンリル:……本当なのだろうか。
フェンリル:それにしても、隠密行動というのは本当に苦手だ。
フェンリル:諜報部隊に配属されなくて、心から良かったと思う。
0:(※喋っているフェンリルは小声で) 
フェンリル:……えっと、ここをこうして……
フェンリル:あっ。
0:フェンリル、書類を落としてしまう
フェンリル:……やばい、書類落としちゃった。拾わなきゃ……
フェンリル:ん……?
0:フェンリル、一枚の書類に気づく
フェンリル:え……この書類って……
0:フェンリル、息をのむ
フェンリル:そんな…………どういうこと?
 : 
 : 
0:場面転換
 : 
0:バルドルのアジト
0:最後の一本の煙草を吸い終えるバルドル
バルドル:……あーくそ煙草切れた……
バルドル:買ってくるか。だりーな。
アールヴィル:僕が行こうか?
バルドル:いやいや!やめてくれ!
バルドル:あんたここら辺、慣れてねえだろ。
バルドル:……また簡単に、死なれちゃ困るしなあ。
アールヴィル:誰か死んだのか?
バルドル:ははっ!!
バルドル:死んだっつったら、いっぱい死んだぜ!?
バルドル:諜報部隊は、ほとんどが死んだ!
バルドル:なんつったって、ボスからの命令は、
バルドル:「諜報部隊は全員玉砕(ぎょくさい)」だからな!
バルドル:俺はおちおち「地下施設」?に帰ることもできず、
バルドル:ここで暮らしてるってわけだ。
アールヴィル:……それは本当にすまなかった。
バルドル:いいんだ!もう終わったことだよ!
アールヴィル:……だが、バルドル。
アールヴィル:さっきの君の物言いには、含みがあった。
アールヴィル:ここ最近で、大切な誰かが死んだんじゃないのか?
バルドル:……。
アールヴィル:言いたくなければ、言わなくていい。
バルドル:…………弟、が。(※ぼそりと)
アールヴィル:弟か。
バルドル:……まあ、弟っつっても、血は繋がってなかったんだけどな。
アールヴィル:そうなのか?
バルドル:ああ。
バルドル:俺もあいつもスラムの育ちでな。
バルドル:親はもちろん、いつ自分が生まれたのかさえ知らねえ、名前も無え。
バルドル:その日一日をしのぐだけで、精一杯だったな。
バルドル:……そんな中、気づいたら、ついてきちまっててさ。
アールヴィル:なるほど。
アールヴィル:……ついてきたってことは、兄として認められたんだろうな。
バルドル:そんで一緒に、この組織に入って、俺ら二人だけ生き残っちまって、
バルドル:ここで生活してたんだけどよ。
バルドル:いつも通り「煙草買ってきてくれ」って頼んでよ、
バルドル:……二度とあいつは、帰って来なかった。
アールヴィル:そうか。
アールヴィル:話してくれてありがとう。バルドル。
アールヴィル:……「兄弟」ってのは、貴重なものだよな。
バルドル:……?
アールヴィル:僕も弟を亡くしてる。
バルドル:……そうだったのか。
アールヴィル:ほとんど僕のせいだよ。
バルドル:……俺も似たようなモンだ。
 : 
 : 
0:場面転換
0:現・組織本部
フェンリル:(M)「N-フェンリルは戸籍不明。出生地不明。本名不明。」
フェンリル:「記憶を失った、国家組織のスパイである可能性が高いため、要観察・要注意人物。」
0: 
フェンリル:……何……これ……
フェンリル:私は……白樺(しらかば)家の、一人娘で……自分の本名だって……覚えて……覚えて……え……??
0:レギンがロキの研究室へ入ってくる
レギン:ロキの研究室で、何をしているんだいフェンリル。
フェンリル:あっ……レギン……上官……
レギン:それはー、フェンリルの個人情報の資料だね。
フェンリル:も、申し訳ありません……。
レギン:別に僕は怒ってないよ。
レギン:ロキがこんなところに、フェンリルの資料を置いておくから悪いんだ。
レギン:……見たところで、何にもいいことなんて無いのに。
フェンリル:はい……なかった、です。
フェンリル:あの……!レギン上官……!
レギン:どうしたの?フェンリル。
フェンリル:えっ……と……。(※言葉に詰まる)
レギン:(※ため息)僕はこの時間に研究をしているんだ。
レギン:物音が聞こえたから、ロキの研究室に来ただけなんだよ。
レギン:邪魔しないで欲しいね。
フェンリル:も、申し訳ありません……。
フェンリル:でも、その、一つだけ……ご質問よろしいですか?
レギン:(※ため息)一つだけだよ?
0: 
フェンリル:…………私は、一体何者なのでしょうか?
 : 
 : 
0:場面転換
0:バルドルのアジト
0:深夜
バルドル:なあ、アールヴィル。起きてるか?
アールヴィル:どうした?バルドル。起きてるよ。
バルドル:……恥ずかしいんだが、寝付けなくてよ。
アールヴィル:付き合うぞ?僕は煙草は吸わないけどね。
0:バルドルのアジト外・暗闇
0:煙草を吸うバルドル
バルドル:……知ってんだろ?
アールヴィル:何がだ?
バルドル:俺と弟が、組織に入った理由。
アールヴィル:知ってるよ。
バルドル:……知ってんだろ?俺の初任務のことも。
アールヴィル:ごめんね、知ってるよ。
アールヴィル:……バルドル。君の大切な恩人を、暗殺させたよね。
バルドル:涙が枯れるくらい泣いたのは、人生で一度きりだったな。
バルドル:……せめて顔を見て、正面から撃ちたかったよ。
0:煙草の煙をゆっくりと吐き出す程度の間
バルドル:スラムに生まれてよ。
バルドル:最初から失うものなんて、何も無い人生だと思ってた。
バルドル:……でも違った!!
バルドル:生きれば生きるほど、大切なものが増えていきやがる!
バルドル:そして俺の元から、零れ落ちるように失くなっていくんだよ!
アールヴィル:……バルドル。
アールヴィル:人間はな、大切にしてきたものを失う度に、強くなっていく。
アールヴィル:失っては絶望し、また光を見つけては、失って絶望する。
アールヴィル:……それでもまた、新たな光を見つけるのが人間なんだよ。
 : 
 : 
0:場面転換
 : 
0:現・組織本部
0:地下施設
ロキ:ああ、おはよう。フェンリル。
ロキ:昨晩はボスとお楽しみだったかい?
フェンリル:(※大きなため息)お!か!げ!さ!ま!で!
ロキ:はっは~何よりだ!
ロキ:そろそろ僕の相手もしてくれてもいいんだよ~?
フェンリル:お断りします!
ロキ:相変わらず元気だねえ。
0:レギンが部屋へ入ってくる
レギン:おはようフェンリル。
フェンリル:おはよう……ございます。レギン上官。
レギン:気持ちの整理はついたかい?
ロキ:気持ちの……整理?
フェンリル:あ……えっと……まだ、ちょっと……
レギン:昨日の夜に、フェンリルがロキの研究室に入って、
レギン:自分の資料を見ちゃったもんだから、
レギン:僕が軽く説明してあげたんだよ。
ロキ:……フェンリル、お前、勝手に僕の研究室に入ったのか?
フェンリル:も、申し訳ありません!
ロキ:何をしようとしていた?いや、「何をした」?
フェンリル:……何も、しておりません。
レギン:フェンリルは何もしていないよ。
レギン:僕が証人だ。
レギン:ただ自分の資料を見て、動揺していただけ。
ロキ:……そうか。
ロキ:自分の資料を見に来たのか。
ロキ:別に見ても、面白いものじゃなかっただろう?
ロキ:……僕は自分の資料なんて、二度と見たくないけどねえ!!
フェンリル:あの……私の、あの資料の情報は、真実なのですか?
ロキ:知らねーよ!!誰が管理してるのかも分かんねぇ!!
ロキ:階級Sクラスの僕でも知らないんだぞ!?
ロキ:……ふっ、ボス以外知らねえんじゃねえのか?
フェンリル:ロキ上官……あなたも……
ロキ:この組織は、偽の情報と嘘だらけだ。
ロキ:何が真実かも分からない。誰が裏切るかも分からない。
ロキ:……ここで生きてくのに、「誰かを信じる」なんて感情はいらないんだよ。
フェンリル:ロキ上官……
ロキ:さあ、研究を始めようか、レギン。
レギン:了解。
 : 
 : 
0:場面転換
 : 
0:バルドルのアジト
0:一人煙草を吸っているバルドル
バルドル:……だりーな。
バルドル:まーた一日が始まっちまったじゃねえか。
アールヴィル:おはようバルドル。
バルドル:うおっ!びっくりさせんなよ!
アールヴィル:ごめんね。
バルドル:いや、てか、アールヴィル、朝早いんだな。
バルドル:……違うか。よく眠れなかっただけか。
バルドル:こんな堅ってー地面じゃ眠れねーよな
アールヴィル:(※遮って)とてもよく眠れたよ。
アールヴィル:ありがとう。バルドル。
バルドル:……。
バルドル:そーかよ。
0:バルドルが煙草を吸って、煙を吐き出す程度の間
アールヴィル:今日は君の仕事を手伝いたいと思う。
アールヴィル:……といっても僕は戦闘は苦手だから、
アールヴィル:お手柔らかにお願いしたいんだけどね。
バルドル:甘っちょろいこと言ってられねえぞ?
アールヴィル:分かってるよ。手は抜かない。(※笑う)
 : 
 : 
0:場面転換
 : 
0:現・組織本部
0:地下施設
レギン:………あ。
ロキ:どうした?レギン。
レギン:ウルド2号機、ミスしてるよ?ロキ。
ロキ:は!?(※取り乱す)
ロキ:何言って……そんなはずはない!!
レギン:ほら、ここ。
レギン:ヒトゲノムが再生しつつある。
ロキ:なんだと……俺は完璧に、完璧に、完璧に作ったはずだ!!
レギン:ちょっと落ち着いてよ、ロキ。
ロキ:うるさいうるさいうるさい!!
ロキ:レギンお前、自分が天才だからって、
ロキ:そうやって凡人の僕を見下しているんだろう!?
レギン:待ってくれよ!ロキだって充分天才だよ!
レギン:僕は生まれつき、サヴァン症候群で、
レギン:一人でできないことも多い。
レギン:でもロキは何でも一人で出来る。
レギン:研究だって一人でちゃんとできてるんだよ。
レギン:僕が今、指摘したミスだって些細なものだ。
レギン:……ロキ……前と変わったよ。
レギン:ずっとイライラしてる。
レギン:どうしてだい?
ロキ:……フリッグが(※震え声)
レギン:フリッグは死んだよ。
ロキ:お前は気楽でいいよなあ!レギン!
ロキ:僕はフリッグから託された意思を、読み解かなきゃいけない!
ロキ:その使命があるんだよ!!
レギン:何を託されたんだよ。
ロキ:シヴだ。W-シヴ。……一人の、人間だよ。
レギン:そうなんだ。
レギン:僕はこれを、フリッグから託された。
ロキ:んん……?
ロキ:見たことも無い石の、ペンダントだな。
レギン:これが「新世界創造計画」の鍵になると言っていた。
ロキ:……お前ッッ!!
ロキ:何故それをもっと早く言わない!!
レギン:……聞かれなかったから言わなかった。
ロキ:とにかく、ボスに報告しにいくぞ。
レギン:ボスのところに持って行っても、解明できないと思うよ?
ロキ:そういうことじゃあないんだよ!
ロキ:まず報告だ!研究の前に報告!物理的に首が飛ぶぞ!
レギン:…………あ。
ロキ:どうした?
レギン:今はボスの部屋にフェンリルが居る時間だよ。
ロキ:くそっ、タイミング悪いなあ……。
 : 
 : 
0:場面転換
 : 
0:戦場
0:近接戦闘中のバルドルとアールヴィル
アールヴィル:…っ!国家組織のっ!連中って……!
アールヴィル:まだこんなにっ……!残っていたのかっ……!!
バルドル:だーから言っただろ!?……おい!!そっち来るぞ!!
アールヴィル:…うぐっ!!…申し訳ないっ!!
バルドル:ほっんと鈍いなあっ!!アールヴィルはよおっ!!
アールヴィル:…ああっ!!昔からっ!よく言われたよっ!!
バルドル:よくそんなんでっ…!!生き残れたよなあっ…!!
アールヴィル:ああっ…!!僕はなっ…!!死ねないんだよっ…!!
バルドル:意味わかんねー虚勢(きょせい)張ってんじゃねーよ!!
バルドル:おい!!そっち来るぞ!!
アールヴィル:おう!!
 : 
0:二人とも息切れ
0:(※戦闘後、二人とも息切れしてる感じで喋ってください)
バルドル:おい、アールヴィル、さっき軽く流したけどよ、
アールヴィル:(※息切れ)……なんだ?
バルドル:…「死ねない」ってどーゆーこった?
アールヴィル:あぁ?
バルドル:いや、虚勢を張るときの、常套句(じょうとうく)ではあるぞ?
バルドル:でもな、あんたがそういうこと言う人に見えなくてよ、
バルドル:なんか、意味があるのかなって
アールヴィル:(※被せて)言葉の通りだ。
バルドル:あ、え、えっと……(※動揺)
アールヴィル:……まずはアジトに戻ろう。
アールヴィル:話はそれからでもいいか?
 : 
0:バルドルのアジト
バルドル:えーーっと……
バルドル:……とり憑いてる……??
アールヴィル:馬鹿馬鹿しいと思うか?
バルドル:い、いいや?……続けてくれ。(※動揺)
アールヴィル:記憶はしっかりあるんだ。
アールヴィル:だから多重人格では無いんだよ。
バルドル:お、おう……?
アールヴィル:死にそうになると、いつももう一人の僕が現れてさ、
アールヴィル:そいつは滅茶苦茶に強いんだ。
バルドル:へ、へえ……。
アールヴィル:……初めて人を殺したのは十二歳のとき。
アールヴィル:クラスのいじめっ子を川に落としてやったんだよ。
バルドル:それは……そのもう一人のアールヴィルがやったってことなのか?
アールヴィル:そうなるね。
アールヴィル:だって僕は当時、そのいじめっ子が怖くて仕方が無かったんだから。
アールヴィル:でも……殺したときの記憶はあるんだ。
アールヴィル:感情もきちんと。
バルドル:なんか、やべえな。
バルドル:……組織の上の方のやつらと関わることなんて、
バルドル:絶対無いと思ってたからさ、
バルドル:……改めて、やべえなって……。
アールヴィル:……やばいのかな。
バルドル:いや、やべーだろ。
アールヴィル:いや、僕ね、オーディンに殺されかけた後、
アールヴィル:また別の構成員に殺されかけたんだ。
バルドル:なんたってそんな仲間割れしてんだよ!怖ええなあ……。
アールヴィル:女の子の構成員だったんだけどさ、滅茶苦茶に強くて。
アールヴィル:あー…もう死ぬかもなー…って思ったときに……
バルドル:もう一人のアールヴィルか?
アールヴィル:うん。
バルドル:やべえな。
アールヴィル:女の子逃げて行っちゃった。
バルドル:そりゃそうなるだろうよ……。
 : 
 : 
0:場面転換
 : 
0:ボスの部屋・フェンリル
0:ノック後入室
フェンリル:……オーディンさん。いえ、ボス。
フェンリル:今日は少し真面目なお話をさせてください。
フェンリル:私は元・戦闘部隊・階級Cクラス・N-フェンリル。
フェンリル:現在は、あなたの「ただの愛人」にまで落ちた身です。
フェンリル:……ですが、十年前の出来事について。
フェンリル:私とY-シグルズ、白樺家とこの組織で起こった出来事について、
フェンリル:どうか、どうか本当のことを、教えていただけませんでしょうか?
フェンリル:この通りです!お願いします!
0:フェンリル、オーディンに頭を下げる
 : 
 : 
0:場面転換
 : 
0:バルドルのアジト
0:休んでいる二人
0:煙草を吸っているバルドル
バルドル:……そういやさ、アールヴィル。
アールヴィル:ん?どうした?バルドル。
バルドル:いや、簡単に戦場に連れて行っちまったけどよ、
バルドル:あんた、ここ来たとき、けっこうな怪我してなかったか……?
アールヴィル:うん。殺されかけたからね。
バルドル:え……も、もう……大丈夫、なのか?
アールヴィル:傷の治りは昔から早い方なんだよ。
バルドル:いやいやいや!!!
バルドル:俺が言ってんのは、一日二日で治る怪我じゃなかっただろ、ってことだよ!
アールヴィル:あー……なるほどね。
アールヴィル:……やっぱりおかしいかな。
バルドル:アールヴィル、あんた本当に、何かとり憑いちまってんのか……?
アールヴィル:これで信じてくれた?
バルドル:いや、そもそも人間?
アールヴィル:アンドロイドに血は流れないよ。
バルドル:そ、そうか……。
バルドル:なんか、あんたもいろいろ大変な人生歩んでんだな……。
アールヴィル:お互い様だよ。
バルドル:……俺、あんたとは仲良くなれそうだよ。
アールヴィル:それは光栄だ。
 : 
 : 
0:場面転換
 : 
0:レギンの研究室
0:レギンの研究室はひどく散らかっている
ロキ:レギン、お前なあ!
ロキ:まだこの施設に来て一週間も経ってないだろ!?
ロキ:どうやったらここまで散らかせるんだ、
ロキ:……まったくもう。
レギン:悪いね、ロキ。歩きにくいのは勘弁しておくれ。
ロキ:そういう、ことじゃ、なくて、だな、っ(※歩きにくそうに)
レギン:この石を研究していて、少し分かったことがある。
ロキ:あー今そっち行くから待ってろ!
0:(少し間)
レギン:まずこれは明確には石、「鉱石」ではないよ。
レギン:……ヒトの眼球と、同じ構造をしてる。
ロキ:なるほど、ヒトの目玉のペンダントってことか?
ロキ:でもフリッグが、そんなものを持ち歩くようには、思えないけどな……。
レギン:いや、正確にはヒトの目玉そのものとも違うんだよ。
レギン:構造が同じってだけでね。
レギン:ほら、ロキ。
レギン:君も見てみるかい?
0:顕微鏡の位置をロキに譲るレギン
ロキ:……本当だ。目玉だな。目玉だけど、……目玉じゃない。
レギン:おそらくは何かの新しい因子によって生み出された、新物質だ。
ロキ:……。
レギン:…?ロキ?どうしたの?
ロキ:……似てる。
レギン:……似てる?何にだい?僕だって初めて見た物質なんだ。
ロキ:……間違いない。これはフリッグからのメッセージだ!
レギン:いったいどうしたっていうの!!
ロキ:「W-シヴ」。
レギン:シヴ?彼女がどうしたんだい?
ロキ:シヴの目玉にそっくりなんだよ!!
ロキ:僕はずっと面倒を見てきたから分かる。
ロキ:……この目玉のペンダントは、シヴ自身を指しているんだ。
レギン:じゃあ、フリッグが僕らに伝えたかったのは、シヴが重要人物ってこと?
ロキ:それ以外あるかよ!
ロキ:さっそくシヴを連れてきて、解剖するぞ。
レギン:ちょ、ちょっと待ってくれよ!!
レギン:ウルド3号機の開発が先だろう!?
ロキ:うるさい!とにかくシヴをここに連れてくるからな!!
 : 
 : 
0:ボスの部屋から帰るフェンリル
フェンリル:(M)十年前の出来事。
フェンリル:ボスが言っていたことすべてが真実なのかどうか、
フェンリル:それは私には分からない。だけど、それでも、
フェンリル:私が大切にしてきた事実は間違っていなかった。
フェンリル:……これだけで、生きていける。
0: 
フェンリル:……シグルズ、頑張るね。私。
0: 
フェンリル:(M)ふとガラス越しに、自分の姿が目に入った。
フェンリル:少しは……女らしくなっただろうか。
フェンリル:今の私の生き方は、さながら娼婦のようなものだ。
フェンリル:戦闘員としての大事なプライドも、女としての大事なものも奪われて、
フェンリル:だけど、それでも生きている。生きていくんだ。
フェンリル:……シグルズが生かしてくれた、この命だから。
0: 
フェンリル:(M)組織内の人間は今、皆、疑心暗鬼になっている。
フェンリル:何が本当で何が嘘なのか。そもそも全部が嘘なんじゃないのか。
フェンリル:勝ち馬に乗った方が本当に勝ち?逆転しない自信は何処から来るの?
フェンリル:……真実を決めるのは簡単。
フェンリル:生きるか死ぬかの殺し合い。生き残った方が「真実」「本当」になる。
 : 
0:フェンリル、深呼吸
フェンリル:……私はN-フェンリル。悪の組織『ヴァナヘイム』の人間だ!!
 : 
 : 
0:場面転換
 : 
0:バルドルのアジト
0:スナイパーライフルを構えるバルドル
バルドル:……5人死んだな。
0:煙草を吸うバルドル
アールヴィル:バルドル、君は本当に凄いな。
アールヴィル:……距離が離れているとはいえ、銃撃音が何も聞こえなかったぞ。
バルドル:そりゃあ、本業スナイパーですからねえ。
バルドル:組織でもこれで食ってきたわけよ!
アールヴィル:近接戦闘でも充分強かったというのに、
アールヴィル:……階級Bか。
アールヴィル:僕が現役なら、Aには上げていたところだぞ。
バルドル:ははっ!ありがとよ。絵空事だろ?
アールヴィル:絵空事だな。(※笑う)
バルドル:……なあ、アールヴィル。これからどうすんだ?
アールヴィル:これから?
バルドル:……おう。
バルドル:あんたのことだから、いろいろ考えてんじゃねーかなって思ってよ。
アールヴィル:いや、考えてないな。
バルドル:……意外だな。
バルドル:生きるつもりか?死ぬつもりか?
アールヴィル:……「死ねない」って説明したの、忘れたか?ふふっ
バルドル:ふふっ…ははっ!はははっ!!(※バルドル大笑い)
バルドル:そーだった!!そーだった!!
バルドル:あんたって本当におもしれーよ!!
バルドル:……なあ、「死ねない」元・上官さんよ。
アールヴィル:なんだ?
バルドル:これから俺と、バディを組んでくれねえか?
アールヴィル:僕は弱いぞ?
バルドル:知ってる。
0:アールヴィル、バルドル、二人でしばらく笑いあう
 : 
 : 
0:場面転換
 : 
0:現・組織本部
0:地下施設
0:折檻室・エイルに暴力を振るうロキ
ロキ:おうおう痛いか~?!エイル!!
ロキ:痛いよなあ!辛いよなあ!
ロキ:死んだ人間はもっと痛かったぞ!?辛かったぞ!?
ロキ:お前のせいでどれだけの人間が死んだか、
ロキ:自覚してるんだろうな!?ああ!?
 : 
 : 
0:レギンの研究室
0:シヴを連れ込むレギン
レギン:……暴力反対だよお。
レギン:僕はあんまりこういう無理矢理なやり方は、
レギン:したくなかったんだけどなあ。
レギン:でも、エイルがシヴを離さなかったから、
レギン:仕方ないのかあ。
レギン:……可哀想に。
0:(少し間)
レギン:よし、メスと、ピンセットと、麻酔の準備もして……
0:遮るように勢いよく研究室に入ってくるロキ(※慌てている)
ロキ:おい!!レギン!!ちょっと来てくれ!!
レギン:はあ!?急になんだよ!?どうしたんだよ!?
レギン:今からシヴの解剖をするところだったのに……
ロキ:いいから早く来い!!(※レギンの腕を引っ張る)
レギン:ちょっとロキ引っ張らないで!!
レギン:痛いってば!!
 : 
 : 
0:監禁室・フェンリル
フェンリル:……ん?なんだろう?この香り……薔薇の香水?
フェンリル:ここに来てから、嗅いだことのない匂いがする。
 : 
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0:ロキの研究室
0:顔面蒼白な二人
ロキ:……これを見てくれよ、レギン。
レギン:この薔薇の香り、まさかとは思ったけど……。
ロキ:……ああ。
ロキ:一輪の薔薇に、手書きのメッセージ。
レギン:……「そろそろ帰るわね」。口紅でキスマークまで……。
 : 
ロキ:……ああ、あの「魔女」。
ロキ:「P-ワルキューレ」が帰って来るぞ……!!!
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