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ヴァナヘイムの不愧天地【4:1:0】【ファンタジー/シリーズもの】

0:登場人物
バルドル:男。諜報部隊。ヤニカス
アールヴィル:男。謎
ブラギ:男。年齢感的には高め。おっさん
クヴァシル:女。クソ真面目

(所要時間:約40分) 
: 
0:スコープを覗いているバルドル
バルドル:……おい。

アールヴィル:どうした?

バルドル:……組織の人間だ。またあんたを狙ってくるぞ、アールヴィル。

アールヴィル:んー。困ったね。

バルドル:……一番困ってるのは俺なんだが。

アールヴィル:悪かったよ、バルドル。

バルドル:それで?どーすんだよ。撃っちまうか?

アールヴィル:誰かな?僕にも確認させてくれ。

0:スコープを覗きこむアールヴィル
アールヴィル:……クヴァシルと、あー……ブラギか。厄介だね。

バルドル:俺は知らねーが。戦闘部隊の奴か?

アールヴィル:うん。そうだよ。戦闘部隊の切り込み隊長こと「Y-ブラギ」。そして、補助戦闘を大得意とする「T-クヴァシル」。

バルドル:……ほーん。

0:もう一度スコープを覗きこむバルドル
バルドル:(※舌打ち)クソ。……完璧な連携だな。撃ちにくい。

アールヴィル:まあ、彼らは強いよ。

バルドル:あんたが撃っていいっつーんなら、撃つぞ。

0:煙草に火をつけるバルドル

アールヴィル:……んー、ああ、うん。そうだね……。(※歯切れ悪く)

バルドル:んだよ煮え切らねぇな。

0:煙草をふかすバルドル

バルドル:……こっちか。

0:麻酔銃を取り出し、発砲するバルドル

バルドル:あー……、だりぃ。女の方はともかく、あのオッサンは運びきれねーぞ。

アールヴィル:大丈夫だ。僕がやるよ。

バルドル:へいへい。
 : 
0:バルドルのアジト

0:目を覚ましたクヴァシルと、まだ眠っているブラギ
クヴァシル:アールヴィル上官!一体どういうことなんですか!?……それに、(※無言でバルドルを見下す)

バルドル:(※ため息)……撃っちまって悪かったよ。「諜報部隊・階級Bクラス、W-バルドル」だ。

クヴァシル:……なるほど。それで。(※淡白に)
クヴァシル:どうも、初めまして。バルドルさん。「戦闘部隊・階級Bクラス、T-クヴァシル」です。

バルドル:自己紹介どーも。礼儀正しいんだな。

クヴァシル:当たり前の挨拶です。……それで、アールヴィル上官!

アールヴィル:あー……。えっと、どこから説明しようかな。

クヴァシル:ボスから連絡を受けて驚きましたよ。一体何があったんですか?

アールヴィル:何があったというか……。まあ、簡単に言ってしまえば、組織を追放されたんだよ。

クヴァシル:それは私でも分かります。私はその理由を聞いているんです。

アールヴィル:相変わらず、しっかりしているね。クヴァシルは。

クヴァシル:答えてください!!……私は、アールヴィル上官を信頼していました。だから、納得がいかないんです。そこに寝ているオッサンはともかく。

バルドル:上官をオッサンって……。

アールヴィル:明確な理由は僕にも分からない。でも、オーディンの性格から察するに、僕は「ヴァナヘイムの思想」から外れてしまったのだろう。

クヴァシル:そんな……。では、アールヴィル上官が何かされた訳ではないと。

アールヴィル:……そう、なる、のかな。思い当たる節は無いからね。

クヴァシル:そうですか。……分かりました。ですが、

ブラギ:ぶえっくしょん!!(※思いっきりくしゃみ)

クヴァシル:……あ。起きたんですか。ブラギ上官。麻酔の切れが悪いから死んだのかと思いました。

ブラギ:え、ええ……??酷くない??いつもより扱い、酷くない??

クヴァシル:ここは、諜報部隊のバルドルさんのアジトだそうです。私達は戦闘中、麻酔銃で撃たれて運ばれて来ました。今ここには、バルドルさんとアールヴィル上官がいらっしゃいます。

ブラギ:(※身体を起こして、欠伸をしながら)……ありがとう、クヴァシル。

クヴァシル:いえ、目を覚まされたばかりで状況が掴めないかと思いましたので。変に動揺される前に、説明させて頂きました。

ブラギ:…………で、どういう状況??

クヴァシル:~~っっ!!貴方という人は!!……いえ、違いますね。これだから「オッサン」は。

ブラギ:酷い!!

バルドル:まーまー、お二人さん。コーヒーでも飲んで、落ち着いてくださいよ。

ブラギ:おっ、気が利くねぇ。

バルドル:諜報部隊・階級Bクラス、W-バルドルです。

ブラギ:(※コーヒーをすすって)……諜報部隊!よく生き残ったな!

クヴァシル:……あの、ブラギ上官。お言葉ですが、順応が早すぎませんか?それにこのコーヒー……

バルドル:安心しろ。毒なんぞ入ってねーよ。

クヴァシル:信用なりませんね。

バルドル:殺す気なら、最初(ハナ)っから実弾で撃ってる。

クヴァシル:……そうですか。

ブラギ:美味いぞー?クヴァシル。ちゃんとした「濃い」コーヒーだ。

クヴァシル:ブラギ上官の様子から察するに、大丈夫なようですね。それでは私も、頂きます。

ブラギ:ええ!?俺毒見役!?

アールヴィル:あはは。微笑ましいやり取りだね。

バルドル:仲良さそーだな。

0:アールヴィルに気付くブラギ
ブラギ:ああ!!こりゃどうもどうも!!アールヴィル上官!!ご無沙汰しております!!

アールヴィル:久しぶりだね、ブラギ。健康そうで何よりだ。

ブラギ:いやあ!クヴァシルが煩くてですねぇ!最近は酒も控えてるんですよ。

アールヴィル:そうかそうか。頼りになる部下だね。

ブラギ:もう本当にね!オッサンオッサン言われてしまってますがね!がはは!

0:少しの間、和やかな雰囲気

クヴァシル:……って、いやいや!!何和んじゃってるんですか!!

バルドル:クヴァシルの言う通りだな、……ホント。

クヴァシル:状況は緊迫しているんですよ!?ブラギ上官。しっかりしてく
ださい!!

ブラギ:……ああ、そういえばそう、か。

クヴァシル:もう!!もう!!(※ブラギを叩く)

ブラギ:分かった分かった!!悪かったから!!叩かないで!!地味に痛いのよそれ!!

バルドル:……仲、良いな。

アールヴィル:うん。微笑ましいね。

0:煙草を咥えて、火をつけようとするが、躊躇うバルドル

クヴァシル:…………。(※バルドルを見つめる)

バルドル:……あ、煙草、駄目だったか?

ブラギ:いやいや!吸ってくれ!俺も一本、失礼しようかな。

0:煙草を取り出すブラギ

クヴァシル:……煙草、ですか。一本だけですよ?ブラギ上官。

ブラギ:お?今日は優しいな。クヴァシル。

クヴァシル:たまにはいいんじゃないですか。その、煙草の美味しさというのは私には分かりませんから。

アールヴィル:……ほう。
アールヴィル:そうか。クヴァシルは、本当にしっかりしているんだね。

バルドル:?

0:煙草に火をつけて、ふかすバルドル

アールヴィル:……後で話すよ。バルドル。

バルドル:(※煙草を吸いながら)おう。
 : 
0:煙草を吸っているブラギ
ブラギ:……それでですねぇ、アールヴィル上官。

アールヴィル:組織を追放されたんだよ。

ブラギ:はい??

アールヴィル:さっき君が目を覚ます前、クヴァシルには説明させて貰った。

クヴァシル:……ボスの独断だそうです。アールヴィル上官が、何かされた訳ではないと。

ブラギ:そう、ですか……。ですが……

アールヴィル:僕を殺すまで地下施設には戻れないんだろう?

ブラギ:そう、なります、ね……。まあ、地下施設っちゅうもんがどんなもんなのかも、俺らは知らないんですがね。

0:煙草を吸っているバルドル
バルドル:ま、俺はもう戻れもしねーんだがな。

アールヴィル:……そこでブラギ、クヴァシル。提案があるんだ。

クヴァシル:提案、ですか。一体どのような?

アールヴィル:まず、僕のことはもう「上官」と呼ばなくていい。

クヴァシル:……はあ。

アールヴィル:そして、僕らと手を組まないか?
 : 
 : 
0:夜
0:クヴァシルとブラギは眠りについている
0:アジトの外

0:煙草を吸っているバルドル
バルドル:……で、一体どーゆー風の吹き回しだ?アールヴィル。

アールヴィル:彼らはヘイムダルとは違う。
アールヴィル:きちんと話せば、「分かってくれる」人間だ。

バルドル:……表から来た奴らか。

アールヴィル:そうなるね。常識は通用すると思う。

バルドル:ま、見た感じでは、あんたみてーなビックリ人間では無さそーだな。

アールヴィル:そういうこと。
アールヴィル:ブラギは40歳のときに、勤めていた会社をクビになり、家族にも見放された経緯から組織に加入していてね。クヴァシルは……学生時代のトラウマが原因で不登校になった経緯から、だね。

バルドル:でもよ、だからって善人なわきゃねーだろ?

アールヴィル:はは。僕だってバルドルだって「悪人」だ。でも、彼らの心は「悪」に染まり切っていない。クヴァシルは、何故僕を殺さなきゃいけないのか聞いてきただろう?

バルドル:……確かに。「命令だから」っつってワケもわかんねーのに、あんたを殺しに来たヘイムダルとは違うかもな。

アールヴィル:……うん。

バルドル:教えろ、アールヴィル。あんた、何を考えてる。
 : 
 : 
0:バルドルのアジト
0:クヴァシルとブラギ

クヴァシル:……ブラギ上官。ブラギ上官。どうせ起きているんでしょう?

ブラギ:……ああ。

クヴァシル:ほら、睡眠薬です。少しでも、内臓を休めてください。

ブラギ:……薬は飲まんぞ。

クヴァシル:(※ため息)……で?どうするんですか?

ブラギ:……何がだ?

クヴァシル:アールヴィル上官、いえ、アールヴィルの提案には、乗るんですか?

ブラギ:……乗ってどうする。

クヴァシル:少しでも長く……

ブラギ:(※被せて)少しでも長く生きながらえたところでどうする。俺の寿命はもうほとんど残っていないだろう。

クヴァシル:…………。ですが……。

ブラギ:クヴァシル、お前はよく考えたらいい。俺はお前の決定に従うよ。……もう、こんなオッサンを頼って生きるのはやめなさい。

クヴァシル:ブラギ上官……。ですが、私は、

ブラギ:(※被せて)あーー!!なんか眠くなって来たぞ~!今日はよく寝れそうだあ!おやすみ、クヴァシル。

クヴァシル:……私は……。
 : 
 : 
0:翌朝
0:バルドルのアジト

クヴァシル:提案に乗ります。

ブラギ:ということでしてね。よろしくお願いいたします。

アールヴィル:ありがとう。君が聡明(そうめい)で本当に助かったよ、クヴァシル。

クヴァシル:……どうして私が決めたと分かるんですか?

アールヴィル:…………。
アールヴィル:少しでも長く生き残ろう。よろしく。

0:煙草を吸っているバルドル
バルドル:(※独り言)……少しでも長く生きる、ねぇ。
 : 
 : 
0:回想
0:前日の夜
0:バルドルとアールヴィル

アールヴィル:……ブラギはもう長く無いんだ。

バルドル:あのオッサンがか?どう見ても健康そうだし、あんたも言ってたろ。

アールヴィル:彼自身の戦い方が原因でね。見た目は健康そうに見えても、内臓はボロボロなんだよ。

0:煙草の煙を吐き出すバルドル
バルドル:……だからあのクヴァシルって女が、酒も煙草も管理してんのか。

アールヴィル:クヴァシルは本当に優秀だよ。上官の健康管理までしている構成員は、僕が知るところ彼女だけだね。

バルドル:…………。(※無言で煙草を吸っている)

アールヴィル:きっとクヴァシルは一晩よく考えて、提案に乗ってくれる。ブラギと一緒に、少しでも長く生きたいと彼女は願っているはずだからね。

バルドル:……俺らが勝ち馬だと?

アールヴィル:そうなれたらベストだけど、でもまあ、『ヴァナヘイム』に理不尽に殺されるよりかはマシだろう。

バルドル:……それは、アールヴィル、あんた自身のことも含めてか?

アールヴィル:……ああ。ヘイムダルの時のようなことは、なるべく避けたい。

バルドル:それは俺も勘弁だ。……だが、な。うーん。……クヴァシル、か。

アールヴィル:彼女と手を組むのは嫌か?

バルドル:嫌、ってー訳じゃねーんだが。……なんだろうな。心配、っつーか。

アールヴィル:おや、逆だったか。気になるんだね?

バルドル:ちっげーよ!!ばーか!!あいつ俺のこと見下して来たんだぜ!?

アールヴィル:なるほど?バルドルにはそういう趣味もあるのか。

バルドル:おい!!からかうのも大概にしろよ!?

アールヴィル:ははは。ごめんごめん。
アールヴィル:……それで?バルドルがそこまで気にするなんて、珍しいね。

バルドル:……いや、なんつーかさ。
バルドル:今は上官のお世話してるから?いいかもしんねーけどさ、あいつ、もしあのオッサンが死んじまったらどーなるんだろうなって……。

アールヴィル:……バルドル。君は本当に、良い目をしているね。

バルドル:ま、最強スナイパーなもんで。見落としがあっちゃあいけねえ訳ですよ。

アールヴィル:確かに二人は、依存関係にある。特にクヴァシルがブラギに依存していてね。表に居た頃の心の傷が原因なんだろうけど、ブラギを甲斐甲斐しく世話することで、彼女は自分を保っている節がある。

バルドル:……本当に大丈夫なのかよ。

アールヴィル:どうだろうね。それは彼女自身にしか分からないことだ。そんなに心配ならバルドル、君が彼女に寄り添ってあげるといい。

バルドル:俺かよ!?あんたの方が元上官だし、いいんじゃねーのか?

アールヴィル:僕には心に決めた人がいるんだよ。

バルドル:は!?寄り添うってそういう……というか待て、心に決めた奴って誰のことだ!?

アールヴィル:(※軽く笑って)内緒。

バルドル:はああ!?俺には女押し付けておいて、自分は何逃げよーとしてんだよ!!

アールヴィル:ははは。その様子から察するに、クヴァシルとは仲良くしてくれるみたいだね。

バルドル:あんたなあ!!いつもいつも本当に……

アールヴィル:いつもいつも本当に、何?

バルドル:あ、いや……。人を説得するのが上手いというか、なんというか……。組織の元ナンバースリーってのも、納得がいくぜ。

アールヴィル:バルドルがお人よしなだけだよ。(※笑う)
 : 
 : 
0:回想終了

0:クヴァシルがアールヴィル達と手を組むと言った深夜
0:クヴァシルとブラギの寝所

クヴァシル:(※独り言)……どうしよう。アールヴィル上官、いや、アールヴィル達と手を組むとは言ったものの、本当に大丈夫かしら。通信機も壊して、これで本当に私とブラギ上官は『ヴァナヘイム』から離脱したことになる。

ブラギ:……クヴァシル。要らん心配をするな。

クヴァシル:うわあ!!ブラギ上官!!まだ起きてらっしゃったんですか!?

ブラギ:部下の悩み事を差し置いて、一人だけ吞気に寝てられるかい。

クヴァシル:ブラギ上官……。
クヴァシル:そんな事言って、どうせまた不眠症で寝られないだけでしょう!?これだからオッサンは!!

ブラギ:がはは!流石はクヴァシルだなあ。

クヴァシル:もう大丈夫です!私も寝ます!ブラギ上官も、すぐには寝付けないかもしれませんが、ゆっくり身体をお休めください。

0:クヴァシル、布団に潜り込む

ブラギ:……大丈夫さ。クヴァシル。お前が決めたことなんだ。結果がどうであれ、俺は文句を言わないよ。

クヴァシル:…………。(※寝たふり)
 : 
0:クヴァシル回想・夢の中

クヴァシル:(M)これは……夢だ。
クヴァシル:誰も私の言う事なんか聞いてくれない。クラスメイトも、学校の先生でさえも。家に帰れば、両親からは「いつでも正しい人間であれ」と。心も身体も、身動きなんて取れやしない。
クヴァシル:昔から人付き合いが苦手だった。といっても消極的だった訳ではない。小学校低学年のときには学級委員長を務めるほど、意欲的な性格だったと思う。だけど、私が信じていた「正しさ」は皆にとっての「正しさ」では無かったようで。世の中には悪い事をしても許される人が沢山居て、むしろそれを咎めることこそが「間違い」であるという風潮。私はそれを学校生活の中で知り、自分が分からなくなった。
クヴァシル:「一体何が正しくて、何が間違いなんだろう」。私は学校へ行くのも怖くなり、家へ帰るのも怖くなり、日々のほとんどをネットカフェで過ごすようになっていった。そう、立派な非行少女だ。だけどそこで見つけた一つのホームページ。『ヴァナヘイム』。悪い噂の絶えない組織ではあったけれど、私は強く惹かれた。
クヴァシル:ここでなら、私の話を聞いてくれる人がいるかもしれない。ここでなら、私の考えを分かって貰えるかもしれない。
クヴァシル:私はネットカフェを出たその足で、組織『ヴァナヘイム』へと向かっていた。
 : 
0:目覚めるクヴァシル

クヴァシル:う……うう。久々に見たな、この夢。……やだやだ、表に居た頃の記憶なんて、思い出すだけ無駄だ。少し外の空気でも吸ってこよう。
クヴァシル:ブラギ上官、は……

ブラギ:(※いびきを立てて寝ている)

クヴァシル:良かった。よく眠れているみたい。……よいしょっと。
 : 
0:バルドルのアジト、外
0:一人で煙草を吸っているバルドル

バルドル:……お、んん?あんた……

クヴァシル:こんばんは、バルドルさん。

バルドル:お、おう……。こんばんは……。

クヴァシル:…………。

バルドル:…………。(※気まずそうに煙草を吸っている)

クヴァシル:あの、

バルドル:(※クヴァシルの台詞を待たずに)寝れねえのか?

クヴァシル:あっ……

バルドル:悪りー。なんだ?

クヴァシル:えっと、すみません。ご心配頂いたのに言葉を被せてしまって。

バルドル:……別にいーけどよ。何だ?

クヴァシル:何か用があった訳ではなくて、その、バルドルさんの言う通り、眠れなくて。いや、一時は眠れたんですけど、その、夢を見て……。

バルドル:あんた、昼間と随分印象が違えんだな。

クヴァシル:え?そ、そうでしょうか……。

バルドル:で?夢ってーのは何だ?

クヴァシル:……表に居た頃の記憶を、少し。

バルドル:……はーん。

0:煙草を吸っているバルドル
0:少しの間

クヴァシル:こんな話、どうでもいいですよね。すみません。

バルドル:(※煙草の煙を吐き出すバルドル)

クヴァシル:外の空気も吸えましたし、私、戻ります!

バルドル:……俺も見るんだ。

クヴァシル:え?

バルドル:俺も見るんだよ、表に居た頃の夢。だから深夜は必ず起きちまう。

クヴァシル:そうなんですか……。

バルドル:なあ、どんな夢見たんだ?

クヴァシル:…………。
クヴァシル:私の過去について、アールヴィル上官、あ、いえ、アールヴィルから聞いているんじゃないんですか?

バルドル:大方(おおかた)はな。

クヴァシル:別に、面白いものでは無いと思うんですけど……。

バルドル:あんたの口から聞きてえ。

クヴァシル:…………。
クヴァシル:……なるほど。歩み寄ろうとしてくれているのですね。

バルドル:ったりめーだろ。いちいち言わせんな。

クヴァシル:では、交換条件です。バルドルさんが見た夢の話も聞かせてください。

バルドル:はあ!?

クヴァシル:あまり大きな声を出すと、アールヴィルじょ、じゃなかった、アールヴィルやブラギ上官が起きてしまいますよ。

バルドル:(※舌打ち)わーったよ。あんたから話せ。そしたら俺も話す。

クヴァシル:ふふ。素直じゃない人ですね。

バルドル:うるせ、ばーか。歩み寄りだっつってんだろ?
 : 
0:バルドルのアジト

アールヴィル:……ブラギ。起きているんだろう?

ブラギ:……へへ。バレちまいましたか。流石はアールヴィル上官。

アールヴィル:上官はいらないよ。今の僕らの立場は対等だ。

ブラギ:そう言われましてもですねえ……。

アールヴィル:クヴァシルのことなら心配しなくていい。外でバルドルと話をしているところだ。

ブラギ:……良かった。

0:少し間

アールヴィル:身体の具合はどうなんだ?

ブラギ:……お見通しですか。

アールヴィル:当たり前だ。後どれくらい持ちそうなんだ?

ブラギ:へへ。……もうじき、でしょうねえ。

アールヴィル:クヴァシルには話しているのか?

ブラギ:俺の口からは、……なんとも。ですが、きっと気づいているでしょう。あいつのことですから。

アールヴィル:君は『ヴァナヘイム』に、死に場所を探して入ったんだったよね。だからいつも身体に負担の掛かるような危険な戦い方をしてきた。

ブラギ:……ええ。結局のところ、まだ死ねてはいませんがね。

アールヴィル:後悔していないのか?

ブラギ:後悔など……。もう俺には、思い残すことはありませんから。

アールヴィル:僕の提案する計画が成功したとき、きっとブラギはもうこの世に居ないだろう。クヴァシルを一人、残していくことになる。それでもいいのか?

ブラギ:あいつはもう、一人なんかじゃありませんよ。アールヴィル上官。

アールヴィル:そうだね。僕らが居る。

ブラギ:クヴァシルがそのことを自覚できた時、きっと俺は安らかに逝けるでしょう。

アールヴィル:ははっ。なんだよ。思い残すこと、きちんとあるじゃないか。

ブラギ:……へへ。まあ、何と言いますか、親心というものでしょうかね。

アールヴィル:君達を見ていると、シグルズとフェンリルを思い出すよ。

ブラギ:そんな大層なものじゃあありませんよ。……あいつはもうきちんと大人です。

アールヴィル:確かにブラギの言う通り、組織に入って来たときから、クヴァシルはとてもしっかりしていた。だけど君を必要としていたのも確かだよ。

ブラギ:もう、いいんですよ。こんな老いぼれは。あいつがきちんと前を向いて、仲間と共に生きてさえ居てくれれば。

アールヴィル:その発言は……今この場にクヴァシルが居たら、きっと散々叩かれていただろうね。

ブラギ:へへ。それもそうですね。

0:ブラギとアールヴィル、軽く笑い合う

ブラギ:……アールヴィル上官。

アールヴィル:上官はいらないと言っているだろう?

ブラギ:どうか、クヴァシルのこと、宜しく頼みます。

アールヴィル:……ああ。任せてくれ。
 : 
0:バルドルのアジトの外
0:クヴァシルの話を一通り聞き終え、煙草に火をつけるバルドル

バルドル:……学校、なあ。俺とは縁のねー世界だったなあ。

クヴァシル:行ってなかったんですか?学校。

バルドル:行けるもんなら行ってみたかったぜ?

クヴァシル:……っっ。バルドルさんは……

バルドル:約束だから俺も話すが、夢に見るのは、腹が減って仕方がなかったガキの頃の記憶。初めて盗みをしたときの記憶。それから……(※少し言葉を詰まらせる)

クヴァシル:それから?

バルドル:……やべー奴らに目付けられて、殺されそうになったとき、俺を庇ってくれた人との記憶、だな。

クヴァシル:命の恩人、ですか。

バルドル:ま、そーなるな。あの人は……俺をただ庇ってくれただけじゃなくて、生きる道まで指し示してくれた。

クヴァシル:生きる道……。

バルドル:知らなかったんだよ、それまで俺は。ただその日一日を生きれりゃいいと思ってた。飯さえ食えりゃなんとかなると思ってた。

クヴァシル:…………。

バルドル:まーでも、それが裏目に出たっつーか。どーやら俺は、手を出しちゃいけない派閥の金にも手を出してたみたいでな。それで殺されかけたっつー訳なんだが。
バルドル:スラムでの縄張りだったり、ルールや決まり事。誰も教えてくれなかったことを、あの人は教えてくれた。……俺が生きていく為にはどうすればいいのかをな。

クヴァシル:私には、分からない世界かもしれないです。

バルドル:……そーだろーな。話聞く限り、俺とあんたは正反対だと思った。……でも結局あんたもあんたで苦労してて、人間、無いものねだりなんだよな。

クヴァシル:そう、ですね。……私には、生きる道を指し示してくれる人なんていなかった。……あ、今その人は?

バルドル:死んだよ。

クヴァシル:……っ!……すみません。

バルドル:……いや、違うな。……殺した、が正しい、な。(※言葉を詰まらせながら)

クヴァシル:殺した……?

バルドル:俺が『ヴァナヘイム』に入った経緯は、説明すると……あー、これまたややこしくなるんだが、まあ、諜報部隊に配属されてからの初任務だったんだよ。

クヴァシル:……まさか、その命の恩人さんは、敵対組織の人間だった……とか?

バルドル:いいや違う。組織の、正確にはヨルムンガンド上官の意向だな。俺が表に「命の恩人」を残してきたことは既に調査されてた。アールヴィルも知ってたし、まあ、上の奴らなら大抵知ってたんだろうよ。

クヴァシル:そんな、じゃあ、バルドルさんは知ってて……

バルドル:いや、直前まで知らなかった。ご立派なスナイパーライフル持たされて「ターゲットを撃て」と言われただけだ。……ターゲットがあの人だと気付いた時には、もう引き下がれなかった。

クヴァシル:……いろいろと言葉足らずな部分はありますが、理解はできました。つまりは、試されたということですね?

0:バルドル、煙草の煙を吐き出す
バルドル:(※舌打ち)ややこしい説明は苦手だ。学校行ってねーしな、俺。……ま、でも、理解してくれたなら良かったよ。あんたの言う通りだ。諜報部隊に適してるかどーか、ヨルムンガンド上官は試してきたんだろーな。上も、俺が「表への未練を断ち切る為」っつーことで、反対はしなかった。

クヴァシル:……その、一応聞きますけど、恩人さんは、何かをしたわけでは……

バルドル:ああ。組織にとって不都合が出るような真似をした訳ではねえよ。ま、あの人もスラムで生きてたから、多少の盗みなんかはしてたみてーだが。『ヴァナヘイム』の琴線(きんせん)に触れるようなことはぜってーしてねえ。

クヴァシル:…………。

バルドル:俺だってそうだが、あの人だってスラムの生まれで戸籍がねえ。つまりは足がつかねえ人間だ。組織にとっては都合がよかったんだろーよ。食うに困って野垂れ死んだって、射殺されたって、死んだ理由が何であろうと誰も気づきゃあしねえ。

クヴァシル:……ひどい、いえ、皮肉な話ですね。

バルドル:意味わかんなかったよ。俺の命を救ってくれて、生き方まで教えてくれた人を、なんで殺さなきゃいけなかったんだ。でもそこで俺ははっきりと自覚した。これからもココでこーやって生きて行かなくちゃならねえって。俺は本当に悪の組織の人間になっちまったんだって。

クヴァシル:あ、その気持ちは少し分かります。私も初めて人を手にかけたときは、同じようなことを考えました。

バルドル:へえ。あんたみたいな奴でもやっぱり人殺してんのな。

クヴァシル:当たり前です。……私みたいな人間でも、悪の組織の構成員なんですから。

バルドル:どんな奴だったんだ?

クヴァシル:……元クラスメイト、でした。ダガーナイフを持たされて、「何も気にしなくていいからメッタ刺しにしていい」と。そういえば彼女も、組織にとって不都合な人間では無かったはず……。

バルドル:ほーん。やっぱり皆、表で関りのあった人間を殺すように指示されんのな。

クヴァシル:……でも貴方は恩人、私はただの知り合いです。諜報部隊と戦闘部隊の違いなのかもしれないですけど、……まあ、私にとって恩人と呼べる人は表には居ませんでしたから。

0:煙草の煙を吐き出すバルドル
バルドル:親じゃないのが気になるな。

クヴァシル:きっと、当時18歳だった私の腕力を考慮してのことだったのでしょう。……私は元クラスメイトを殺すことで「学校」という呪縛から逃れた。だけど「悪の組織の人間になった」という事実からは逃れられなかった。

バルドル:…………もう、止めるか、この話。

クヴァシル:あっ、そ、そうですね。すみません。本題からも、だいぶ逸れてしまいましたし……。

バルドル:……あとよ、そのすぐ「すみません」って謝る癖やめろ。いちいちムカつく。

クヴァシル:……っっ!(※ビクッとする)
クヴァシル:……すみません。

バルドル:だからやめろって。謝るようなこと、あんたは何にもしてねえだろ?
バルドル:…………話が出来て嬉しかったぜ、クヴァシル。……とっとと寝ちまえよ。

クヴァシル:ふふっ。相変わらず、素直じゃない人ですね。

バルドル:っるせーよ!!とっとと寝ろ!!

クヴァシル:(※楽しそうに笑う)
 : 
0:翌朝
0:バルドルのアジト

アールヴィル:それで、今日の作戦なんだが、バルドルの調査によると西に国家組織軍の生き残りが数十人かたまっているそうだ。

0:煙草の煙を吐き出すバルドル
バルドル:……距離も近ぇ。あちらさんがこっちにも気づいている可能性は高い。

クヴァシル:(※メモをとっている)成程。それは殲滅しなくてはまずいですね。しかし、数十人に対して我々は四……。

バルドル:騙し討ちなら任せてくれよ。……十までだったら減らせる。

ブラギ:何とも頼もしいな!がはは!俺とクヴァシルで五人はいけるだろう!

クヴァシル:相手の戦力にもよりますが……。そうですね、一般的な国家組織軍でしたら可能かと。

アールヴィル:皆とても頼もしいよ。そうだね、じゃあ、残りの五人は僕とバルドルで片付ける。

バルドル:これで作戦上は殲滅だな。

ブラギ:作戦会議、というのも懐かしいなあ!それこそ国家転覆計画以来だ!久々に、漲(みなぎ)ってきたぞぉ!アールヴィルもバルドル君も頼りになりそうだし、クヴァシル、お前も嬉しいんじゃないか?

クヴァシル:嬉しい……?それは、ブラギ上官、貴方だけのことでは無いんですか?無理矢理私にも同感を求めるのはやめてください。

ブラギ:ああ!勿論俺は嬉しいぞ?しかしなあ、俺以外と手を組んで戦うのは、お前にとっても久々のことだろう?

クヴァシル:それは……その通りですが。

ブラギ:だったらいい事じゃあないか!がっはっは!

クヴァシル:……私は心配事の方が多いんです。……くれぐれも、無理だけはしないでくださいね。ブラギ上官。

ブラギ:……分かってるさ。

アールヴィル:安心してくれクヴァシル。僕もバルドルも、全面的にサポートするよ。

クヴァシル:ありがとう、ございます……。

0:煙草の煙を吐き出すバルドル
バルドル:……それじゃあ、いっちょやりますかねえ。
 : 
0:戦場

0:離れた場所から敵を狙うバルドル
0:煙草を咥えている
バルドル:……っと。これで五。……あと五だな。

ブラギ:ほーーー。大したモンだなあ。(※感心している)

アールヴィル:バルドルの腕は確かだよ。僕もこの目で何度か確認させてもらった。

クヴァシル:……諜報部隊のスナイパー。まさかこれだけの実力を持っていたとは。私も驚きました。

0:煙草の煙を吐き出すバルドル
バルドル:……うし。これで十まで減ったぞ。行けるか?ブラギ、クヴァシル。

クヴァシル:はい。勿論です。行きますよ?ブラギ上官。

ブラギ:…………。

クヴァシル:……ブラギ上官?聞こえていますか?

ブラギ:っ!ああ、悪い悪い。あまりにもバルドル君の技術が凄くてだな。

クヴァシル:……ブラギ上官。もしかして、身体の具合が悪いのでは……

ブラギ:(※「身体の具合が悪いのでは」辺りから被せて)細かいことは気にするな!ほら、行くぞ!クヴァシル!!

クヴァシル:は、はい!!

0:ブラギとクヴァシルが走っていく

アールヴィル:…………うん。

0:煙草の煙を吐き出すバルドル
バルドル:……止めなくていいのかよ。

アールヴィル:止めた方が良かったかい?

バルドル:いんや?判断はあんたに任せるぜ。アールヴィル。

アールヴィル:……こんな僕を信頼してくれてありがとう。バルドル。

バルドル:あぁ?んだよ急に。気持ち悪ぃな。

アールヴィル:いや、純粋に嬉しいなと思ってね。

バルドル:……バディ、だからな。

アールヴィル:ありがとう。

バルドル:……礼には及ばねーよ。

0:スコープを覗くバルドル
バルドル:しっかし、あの二人組、相変わらず強えな。

アールヴィル:ああ。戦闘部隊では、最強タッグと呼ばれていたね。

バルドル:そろそろ俺らも、応戦するか。

アールヴィル:うん。行こう。
 : 
0:国家組織軍と交戦するブラギとクヴァシル
0:(※戦闘シーンです)

ブラギ:おらおらおらおらぁ!!俺の二刀流の前に、跪(ひざまず)けえええ!!!

クヴァシル:……っ、女だからって、甘く見ないでくださいっ!!あなたの心臓は捉えました。……ったあああ!!!

ブラギ:クヴァシル!そこの雑魚どもを頼む!!

クヴァシル:任せてください!……っはあああっ!!

アールヴィル:ブラギ!クヴァシル!応戦に来た!

クヴァシル:あと四です!アールヴィル、バルドルさん、お願いします!!

バルドル:おう!任せとけよ!!っ、だあああっ!!!

アールヴィル:ぐっ……

バルドル:おい!アールヴィル!!大丈夫か!!

アールヴィル:何とかこっちは平気だ!

バルドル:そうか!任せたぞ!!

クヴァシル:ブラギ上官!あと二です!!後は私に!!!

ブラギ:駄目だクヴァシル!お前は下がってろ!!

クヴァシル:はあ!?こんな時に何を!!!

ブラギ:俺にだってやれる!最後くらい、いいところを、見ていてくれないか!!

クヴァシル:最後くらいって……ブラギ上官!!
 : 
0:戦闘終了
0:国家組織軍は殲滅済み

0:煙草を吸っているバルドル
バルドル:……終わったな。

アールヴィル:ああ。ブラギとクヴァシル、二人のお陰もあってか、作戦はスムーズに進んだよ。

バルドル:そう、だな……。スムーズに進んだ、な……。

0:息苦しそうに横たわっているブラギ
クヴァシル:……ブラギ上官!ブラギ上官!!何故、何故!無理をして戦ったのですか!?私に任せてさえいてくれれば……。

ブラギ:(※息苦しそう)言った、だろ……。最後、くらい、いいところを、かはっ、見せたかったん、だよ。

クヴァシル:そんな!!そんなの、私には必要ありませんでした!!私には……ブラギ上官、貴方が必要で、生きて、ずっと、ずっと一緒に……!!

ブラギ:……お前も、分かっていた、だろう、クヴァシル。俺はもう、長くないと……。いつ死んでも、おかしくない、身体、だったんだよ……。

クヴァシル:嫌だ!!嫌です!!!死なないでください!!!待ってください、今、診療所に……!いえ、医者を呼びます!アールヴィル!バルドルさん!協力してください!!

アールヴィル:……クヴァシル。残念だが、ブラギはもう……

クヴァシル:どうしてそんな酷いこと言うんですか!!

バルドル:……(※何も言えない)

クヴァシル:バルドルさんも!黙っていないで協力してください!!

ブラギ:クヴァシル!

クヴァシル:ブラギ、上官……。

ブラギ:……もう、もういいんだ。クヴァシル。俺は、幸せだったよ。お前と戦えて、最期に……看取って貰えるのがお前で、幸せだ。
ブラギ:人を頼れ、クヴァシル。いつまでも俺に依存するな。……お前はもう、独りぼっちじゃ、ないんだから。(※ブラギ、息を引きとる)

0:ブラギの身体をゆするクヴァシル

クヴァシル:ブラギ上官!ブラギ上官!!……うっ、ううっ、うわあ、うわあああ!!!(※泣く)

バルドル:おい、クヴァシル……

0:バルドルの肩を叩くアールヴィル

アールヴィル:今は、そっとしておいてあげよう。

バルドル:あ、ああ。でもよ……

アールヴィル:大丈夫だ。クヴァシルは簡単に潰れるような人間ではない。

バルドル:それも……そうだな。
 : 
0:ブラギの亡骸に語り掛けているクヴァシル

クヴァシル:……私の思い描いていた「正しさ」は貴方にあったんですよ。ブラギ上官。
クヴァシル:仲間を守り、自らが先陣を切って戦う。そんな貴方が好きでした。そんな貴方だから、憧れました。必死に訓練をして、貴方の隣に立っていたいと思うようになりました。
クヴァシル:私の考える「正しさ」を、そのまま体現してくれていた貴方だから、私はずっと傍に、ずっと傍に居たくて。
クヴァシル:だって、貴方の傍に居れば私は否定されなかったから。
クヴァシル:「聡明のクヴァシル」と、皆から尊敬の目で見て貰えるようになったのも、貴方が居たからです。貴方が私に生きる意味を与えてくれたんです。
クヴァシル:ブラギ上官。本当に、本当に……ありがとう、ございました。(※泣く)
 : 
 : 

クヴァシル:……先程は取り乱してしまい、大変失礼しました。

バルドル:お、おう。別に無理しなくても、いいんだぞ?

クヴァシル:正直けっこうキツイです。

アールヴィル:クヴァシル。ひとまずアジトに戻って休もう。

クヴァシル:ええ、はい。

バルドル:……世話になった人が死ぬってのは、キッツいよな。

クヴァシル:あ……。バルドルさんも、そうでしたね。

0:煙草の煙を吐き出すバルドル
バルドル:……ああ。

クヴァシル:私はこれから、どうすればいいのでしょうか。

アールヴィル:勿論、僕の計画に参加してもらう。

クヴァシル:……その、フェンリルが協力者になるかもしれないというのは、本当なのでしょうか?

アールヴィル:うん。僕の見立て通りで行けば、本当だ。フェンリルは……オーディンを倒せるよ。その為に、まずは仲間を集めよう。

クヴァシル:……フェンリルは、オーディンを倒せる……北欧神話ですか?

アールヴィル:流石だね。「聡明のクヴァシル」。知っているのかい?

クヴァシル:……ええ。はい。知識程度ですが。

アールヴィル:僕の計画に、これからもついて来れるかな?クヴァシル。

クヴァシル:はい。ついて行かせてください。アールヴィル。バルドルさんも、よろしくお願いします。

バルドル:……バルドルでいい。クヴァシル、あんたは貴重な戦力だ。……俺からも、宜しく頼むよ。
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