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GIRLS' TRANSACTION

2014年8月4日 6時00分

サンフランシスコ国際空港の到着ロビーに足を踏み入れたモナとリサに、真夏とは思えないような爽やかな風が吹き付けた。

昇り始めたばかりの朝日が、この街特有の深い霧をオレンジ色に染め上げている。15歳になったばかりの2人の少女は、これからカリフォルニアで全く新しい生活を始めるのである。

2人がアメリカで暮らすことを決めたきっかけは、1週間前に届いた1通のメールだった。


《親愛なるMONA-RISA CAPITAL LLCの創業チームのみなさま。

はじめまして。

あなた方のビジネスが素晴らしい成果を出していると聞いて、連絡しました。

私はカリフォルニア州サンノゼに拠点を置く教育機関「STUDENTS WORTH BUYING」のファウンダー、マイク・マーラーです。

私たちのプロジェクトは、世界中の優秀な学生を集めて1つのコミュニティをつくり、独自の経済圏を構築して、クリエイティブな事業を成し遂げられるようにすることを目指しています。

STUDENTS WORTH BUYING は、サンノゼ市アラムパークに建設されたカレッジ内にコミュニティを築き、学生が不自由なく生活できる環境を整えました。学生は、SWOBトークンをコミュニティ内の通貨として使用します。SWOBトークンはビットコインとペッグしており、カレッジ内の取引所で交換することができるほか、学生自身がトークンを発行して売り出すことで獲得することができます。

外部の投資家は、SWOBトークンを通じて個々の学生のプロジェクトを支援することができます。投資家は学生の運営するプロジェクトから発生するキャッシュフローを期待してトークンを購入することになります。

あなた方は非常に優秀なティーンエイジャーですので、このプロジェクトへの参加をお勧めします。

Sincerly Yours.                                                                            Mike Mahler》


モナとリサは、空港からタクシーに乗り込んだ。マーラー氏とは、Four Points by Sheraton San Jose Airportで9時に落ち合う予定となっている。1時間半ほど移動しても、しばらく時間が空く計算だ。

「ねえ」寝起きの少し上ずった声でリサが話しかける。

「ん?」モナはただ一言だけ返す。

そこから、また会話は途切れてなくなった。2人は決して仲が悪いわけではない。口数は少なくても、お互いお事を信頼しきっているからこそ、一見奇妙にも思えるような関係が成り立っているのである。

「不思議だね」リサが再び話しかけた。

「なにが?」

「私達がここに来たのって、全く知らない人から届いたメールのおかげでしょ。あの時もそうだった…」

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