「禁欲と禁断の果実」


俺はその頃
思考する生命力を失い
枯れていた。
空から視線を一時、落としていたが
降って置かれた契約書を手に
降ってきたゴミになった果実の
残りの実を嚙り捨てた。

中身は解っている事だ
歩き読みながら
果実の木の根と
地中深くにて、眠る恋人に
別れも告げずに
真新しい儘のコンソールテーブルで
つい、黒いペンを叩き取る様に
サインして
現在に向かった

ああ、何度か確認した
(ああ、確認した)


少女が裸足で何処かへ向かったが
契約通りにするだけだ。


穴を掘り
空と話して
幾つもの穴からひとつ見つけて
「此処だ」
(そこだ)

荒地は既に荒れてもいないが、
契約書を確認する為に
空が気に入ったテーブルには
今頃、小鳥が住み着いていればいい。

(君は何も望まない様に)
(俺は何も叶わない様に)
「わかってるよ。俺も叶えない」

空腹で堪らない
空腹で何も感じず、俺達は
そこにあった様な
あまり懐かしさも感じない
黒いコートを着て

穴の中を歩いているように
目を瞑り絶望の色を確認した。

果実を切りながら
朝のニュースを見ている

果実は
降って来た死体の肌に似て、
いまいち味も感じない儘だ。




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