「本棚と死体袋」


その頃、俺は
考えていた。

既に言葉を忘れながら
本を読んで
話せない事を
誰かに忘れさせるように


この地下室の壁を埋め尽くしている本棚と
思考を一致しないように

誰か、居ますか
不安だ
(俺だ)
話せない事を俺は続ける
此処には概念は不必要だから

彼は黒い袋を持って来た
絶望の様な、明るい肌色だ。


蝋燭を持って
本棚の奥の灯りをつけた

彼は忙しなく
本を読んで
白い手袋を着け
俺達は階段を駆け上がり

塔の反対側の中階へ
また反対側の夜へ

「此処で待ってるよ」
(聞こえてるよ。俺も話せない)

それを
黒い袋から黒い袋に入れかえて
明るい肌色が
艶やかに戻る頃
鍵が掛かって無い場所に
その幸福な様な
黒い袋の中身を預けるように委せた

最も美しい絶望感は
俺に懐かしさも、忘れさせる為だから
「   」

言葉を忘れ続ける為に
壁を埋め尽くした本は
時を取り返した様で
埃を被ってしまった

常に言葉を忘れながら
本を読んで
誰にも話さない事を
忘れていても、
一度だけ忘れないようにした
絶望の様な黒い袋を
ひとつだけ
彼は運んで来るから




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