滑落

友人のパートナーが山から滑落して亡くなった。
しばらく、遭難ということで生死がわからなかった、その数日は携帯の電源がないだけだ、とみんな思うようにしていた。

お通夜の前日戻ってきた身体に会いにいくと
本人のお母さんも彼女も気丈に動いていて、笑顔さえ浮かべていた。
彼の部屋はほこりがすごくて掃除ができないと彼女は怒っていた。
もちろん喜んでいるはずなく、とにかく亡くなったとは信じられないという気持ちからだったのだろうと思う。
私たち弔問の者は、「そんなにみんなに慕われていて嬉しいよ」とさえ
お兄さんに言われ、なんだか逆に励まされたのだった。
明るい家族に囲まれてすくすくと正直に育った男だった。

主人はその次の日も用事で行き、その次の日のお葬式にも出席し、
彼を見送った。
やはり焼場では、尋常じゃなく家族は泣いていたそうだ。
ボディーがあるとなんとなくまだ、居るから。
奇跡が起きてすくっと起き上がるかも? 理性が鈍る。
わたしは彼の亡骸に、「そうか、まだアトピーなおってないのね、夏だから
痒かったよね」なんて声をかけていた。
亡くなったことわかっているかな?
いい人生だったと思うけど、残されたほうは寂しいよ。
まだまだやってほしいことがいっぱいあったのに。頼りにしたかったのに。
とにかく、ありがとう。
安らかにあの世へ・・・
そのうちみんなそっちに行くからまたパーティーしましょう。


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