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その瞬間を逃さない

パパが中目黒に住み始めて、家出中年だったママはそこに転がり込んだ。付き合った人の家に転がり込んで、すぐ一緒に住んでしまうのはママの悪い癖で、実はこれが初めてのことではない(2年ぶり4度目)
いちいち、会う予定を決めて、どっかいって、ってするのが面倒臭いんだよね。一緒に住んだらさ、ずっと一緒にいれるじゃん。って、幼稚な考えだけど。ママ、なんでも一緒にやりたいタイプで、一人でなんかするの本当にいやで。だから一緒にいてくれる人がいると、ずっと一緒にいたくなっちゃうのよね。とはいえ、もしあなたたちがそういう局面を迎えたときには、相手が自分と同じ気持ちとは限らないから、転がり込むタイミングはちゃんと見計らった方がいいわよ。

って、パパと出会って1ヶ月でパパの家に転がり込んだママがいっても、説得力ないけどね。

もちろんだけど、一緒にいると、嫌なところも見えてくる。付き合い始めの浮かれポンチのころは、それでも盛り上がるけれど、そのうち浮かれポンチモードを抜けた時に、相手の嫌なところばっかり見えてしまって、その関係はThe endってこともある。ま、それはそれで、早めに結果出せたと思えば良いかな、と相変わらず前向きにとらえてはいるけれど。

パパはさ、まずイビキがうるさい。山の仲間に、”あのイビキだけは勘弁”って言われてたみたいだし、あの爆音の中、よく彼女は隣で寝れるね、とも言われたとか。ママね、あんまり気にならなかったのよね、パパの爆音のイビキ。あのイビキが爆撃機の音に聞こえたみたいで、たまに戦時中に紛れ込んだ夢とか見てたけど(笑)

あとね、変なフィロソフィーを持ってる。ママ的には、ご飯を作ってくれる人がいたら、後片付けは他の人がやる、っていうのがよい分担だと思っていて、きっとこれは大部分の人が同意してくれると思うんだけど、パパは違うの。ご飯を作る人は、後片付けまで責任持ってやる。これさ、作ってもらった人ばっかり得じゃない?!”今日はご飯作ってもらったから、後片付け私やるよ”って、きっと世界中のいろんな映画やドラマでセリフとして使われているくらい、ノーマルなものだと思うんだけどさ。でもとにかく譲らないのよ。自分がこうだ!って思っていることは、テコでも動かない。ちょっとやりにくいなぁって思うこともあったけれど、いちいち喧嘩するのも面倒だったし、まいっか、って感じでやり過ごしてた。

一緒に住むと、当然一緒にご飯を食べる。ママが作ったご飯をパパが食べる。その頃のママ、そんなに料理が上手ってわけではなかったけど、クックパットがあったら一応なんでも作れたの。パパが好きだっていったものを作ったり、一緒にスーパーにいって、買い物しながら夕食の献立を考えたり、飲みたいお酒を買って、それに合う料理を作ったり。あるとき登山いく前の日に、グラタン食べたいって言うんだけど、順当な方法でホワイトソースを作ると、バターもたくさん使うし、小麦粉も使うし、胃にもたれるのよね。そんな状態で登山して、体調を崩して欲しくないから、消化が良さそうで、胃腸に負担がかからないように、ホワイトソースの作り方を工夫して作ってみたの。ま、バターとか小麦粉使わなかったからコクはでなかったけど、豆乳使ったからかアッサリしてて食べやすかったのよね。

パパ、そのグラタンにすごく感動してた。いや、グラタンに感動したっていうか、パパのことを想って工夫したってところに。ママの場合はさ、ノンナがそういう人だったから、誰かのためを想って何かするっていうのは当たり前のことだと思っていたの。てか今もそう想っているけど。でもパパは、他の人からそういうことをしてもらった経験があまりなかったみたい。だから、ママにとってはあたり前田のクラッカーで、何も特別なことをしたわけではないんだけど、パパはすごく喜んでくれたの。

朝ごはんもさ、一人暮らしだと結構適当になるのよね。ママが自由が丘に一人で住んでいたときなんて、家で朝ごはん食べるなんてことほとんどなくてさ。会社の近くのコンビニでおにぎり買ったりサンドウィッチ買ったりして、それをデスクで食べてから仕事したり。ひどい時なんて、朝ごはんにアイスとか(笑)。糖分と油分があるからとりあえずこれで脳みそ動くだろ、ってね。もちろん、そんな朝食は長くは続かなかったけど。

誰かいると、ちゃんと朝ごはんを食べたくなる。それはきっと、ママが子供の頃から、朝ごはんは家族みんなで食べるっていう習慣があったからだと思うの。仏さんにご飯とお茶あげて、大人から順番に線香あげて手を合わせて、それから朝ごはんをいただく。今日はこんなことするんだ、とか、その日の予定を話しながら、みんなでワイワイ囲む食卓がママは子供の頃から大好きだったの。だから、今までも、誰かと一緒に住むと、家で朝ごはんをちゃんと食べてきた。だからもちろん、パパと一緒に住み始めてからも、ちゃんと朝ごはんを用意して、二人でいただきますって手を合わせて朝食をともにした。

ある日の朝のこと、朝ごはん食べ終わって、テレビでニュース見ている時に、ソファーに座りながらパパが言ったの。

”いやー、こういうのいいよね”

こういうのって何?

”いや、だからさ。こういうふうに、一緒に朝ごはん食べるとかさ”

ほう。それはすなわち、どういうこと?

”いや、だから、その。。。これからもずっと一緒に。。。”

ここでママ、パパの前に正座して、大きく深呼吸したあと一言。

「はい、どうぞ。ちゃんと聞いてるから、今、言わなければならないことをちゃんと言ってください」

”あ、その。。。け、け、け、け、結婚してくれる?”

こうして、パパの何気ない一言から、半ば強引にプロポーズさせたのでした(笑)



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