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最初で最後の浮かれポンチな夏

2010年の夏は、遊び倒したって感じでした。久しぶりにできた彼氏にウキウキして、年甲斐もなくニヤニヤしてました。ママだけじゃなくて、パパもね。いわゆる、あれですよ、付き合い始めのバカップルモード全開っていうやつ。二人揃って完全に浮かれポンチ。

恋人ができるとさ、人は途端に世界が変わって見えるのよね。普段の何気ない日常が、本当にバラ色になって、いちいちが輝いて見える。不機嫌なコンビニの店員さんにあたっても、私幸せですから〜と受け流せるし、電車で泣いている子供を見かけたら、満面の笑みで”人生は楽しいことだらけよ”って伝えたくなるし。1人で誰もいない夜道を歩いていたりするとさ、裏声でちょっと鼻にかかった声で、”🎵1人じゃないってぇ〜素敵なことねぇ〜🎵”って天地真理を歌いながらスキップしたりしてね。え、古いって?!そうね、ママは昭和なスナックが似合う女だから。

最初に言っておくと、夏に始まった恋っていうのは、だいたい秋がくると終わるのよ。なんでかわかる?それはね、お互いがその状態に酔っているだけだから。燦々と輝く太陽、青い空、白い雲、海にプール、山にキャンプ、花火に夏祭り、と夏は非日常を体感できるイベントもたくさんある。そんなイベントに誰かと一緒に参加しているそんな状態に酔っていると、夏が終わって風が少し涼しくなった頃、ふと日常に戻ったときに目の前にいる相手のことなんかどうでもよくなってしまうのよね。大切なのは、お互いのことをちゃんと見れるか、ってことだと思う。
恋ってさ、その人の経験や年齢によって変わってくるもの。小学校でモテる男子っていうのは、だいたい足が早いか勉強ができるか。中学や高校になると、顔の良さや体格の良さも考慮されるようになって、大学生になると個性重視、社会人になるとどの会社で働いているかとか年収はどうか、とか。ママは完全に、このステレオタイプで生きてきて、月9のドラマとか少女漫画で描かれるような恋愛に憧れ続けていた。ある日運命の人と出会って、あれよあれよのうちに何の問題もなく電撃的に結婚、とか。誰からもモテるようなナイスガイが私にだけゾッコン、とか、そんな夢見る夢子ちゃんで、失敗を重ねてきた。結論から言うと、壁ドンなんてする人、実際にはいないのです。ママは酔っ払って電柱にドンしたり、顔で壁ドンして鼻の骨折ったりしたけれど。。。
経験と年齢を重ねると、人はその人そのものを見ずに、その人に貼られたラベルをみて、独自にプロファイルするようになる。確かにその人が生きてきた過程と、それによって貼られたラベルはその人を理解するためには必要な情報だけれど、でも、かなりの色眼鏡で見ちゃうよね。そこに自分の主観がすごく入るから。慶応大学出身の人に振られた経験を持つと、慶応大学出身の人を避けるようになったり、理系の人と話が合わなくて苦労した経験を持つと、文系の人ばかり求めたり。逆もあるよね。商社に勤めている人に良いイメージもっていたら、商社に勤めている人しか目に入らなかったり。なんかそういうの、人間だったらだれでもあると思うんだ。
でもパパは、一切そういのがなかった。相手が年上だろうが年下だろうが、女性だろうが男性だろうが、有名大学を出てようが高卒だろうが、有名企業に勤めていようがマクドナルドのアルバイトだろうが、スーツ着てようがヨレヨレのTシャツ着てようが、そんなの全く関係なく、ただその人の話に耳を傾け、おもしろいかおもしろくないか、を判断していた。そういう人じゃないと、ママとは付き合えないよね。だって出会ったときのママといえば、34歳、独身、家なし、職なし、彼氏なし、だもの。

パパは、女性に慣れているって感じではなく、スマートに食事に連れて行ったり、隠れ家的なバーに連れて行ったり、綺麗な夜景を一緒にみたり、っていうのは全くなかったの。恵比寿横丁で一杯飲んで、カラオケで大はしゃぎして、隅田川の花火を見て、スナックいって。。。デートっていう感じではなかったし、いつも友達も一緒だったけど、それでもなんかすごく楽しかった。

小型船舶の免許を持っていて、海釣りのグループに所属していたから、葉山の海までクルーズに連れて行ってくれました。ママは、セレブ気取りで、塩沢ときばりのでっかいサングラスして、はりきって行ったんだけど、クルーザーが岸を離れてすぐに船酔い。一人でゲーゲー吐いて、せっかくの釣りたてのお魚も食べれなかったわ。

ディズニーランドにも一緒に行きました。午後からいったんだけど、夜まで目一杯楽しんで帰りました。ディズニーランドが好きなママに付き合わせて悪かったなぁって最初は思ったんだけど、行ってみたら、パパのがディズニーランドが好きで笑っちゃったよ。あんな見た目なのにさ、ディズニーランドの地理にめっちゃ詳しいの!ママはこのとき初めて、ディズニーランドで地図を見ずに過ごした気がします。ビックサンダーマウンテンは夕暮れ時が一番いい、っていう意見も一致して、夕日の赤に包まれるなか二人で乗りました。パパはずっとウキウキで、ママがキャーキャー言いすぎて上唇が歯にくっついたーって騒いでいるのを、ニコニコしながら動画に撮っていたよ。そんなの撮って何が面白かったんだろうね。きっとパパもママのこと好きだったんだよね。そんな気がするよ。

ギラギラした夏の太陽の下、一緒にたくさん非日常を経験したけれど、秋になってもまだ気持ちは冷めることなく、むしろお互いを必要としてた。一連の経験を通じて、たくさん話をした。お互いをお互いのラベルで判断するのではなく、一人の人としてちゃんと理解するのに十分な会話を重ねてた。下手な駆け引きをするわけでもなく、ただただそのときを楽しんで、好きなことは好き、嫌いなものは嫌い、ってはっきり言い合えた。好き嫌いが一致するかはどうでもよくて、自分の気持ちを吐露しても受け止めてもらえることが何よりも嬉しかった。気取ることもなく、ありのままの自分で、思いっきりバカやっても、思いっきり酔っ払っても、それを一緒に楽しみながら、横でニコニコ笑っていてくれた。身を焦がすような恋ではなかったけど、二人とも浮かれポンチだった。確かだったのは、この夏を通じて、パパとママがベストフレンドになれたってことだった。

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