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雑文 #257 船底より

私は船底にいる。 大きな船の、長い航海中。 私の部屋は船底の食料庫。 船上ではパーティー。 何かっていうとどんちゃん騒ぎ。 退屈しのぎに恋をして、また退屈しのぎに嫌いになる。 私はそんなの関係ない。 ただ食料庫の管理をしていればいいだけ。 同居するのは鼠と猫。 猫が鼠を追っかける。 食料庫の中に小さなベッド。 私はそこで眠ってる。 猫が布団にもぐりこむ。 この部屋には、別に鍵はかかってない。 私はそれを知りながら、上の階には行かない。 ずっと暗い船底にいる。 およそ一年が経つ。 ふと、夕焼けが見たくなった。 風に当たりたくなった。 どうしたんだろう。 がちゃり。とドアノブを回し、私は船底部屋を出る。 猫も一緒に出て行く。 時間は午後6時半すぎ。 人々は今日も船上パーティーの準備をしていることだろう。 音楽が聴こえる。 甲板には人はいない。 一年ぶりの、空気の揺らぎ。 潮風を肺に吸い込む。 夕焼けが姿を現す。 泣いていた。 猫が鳴いた。 船底がまた私を呼んでいる。 船上パーティーは無理だけど、時々こうして夕暮れを見に来よう。 時々でいいから。 船旅は続く。 目的地のわからないまま。

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