波紋

彼の心の中には小さな池がある。

心という森のなか、その奥深くにちっぽけな、しかし美しい水がある。

最初なんどかその水面に手を伸ばしてみたのだが、触れてみても、波紋を広げない。

上を見たら、夜、月明かりが見えるのに。

その水面のずっと奥深く底のところに貴方の深淵があるのだ。

触れてみても、波紋を広げない。

彼の心の中の森は静まり返り、深淵は小さな池の小さな波紋すらをも否定するようだ。

ーーー何も感じない

否。何も感じることないように、彼が生きてきた証。

お前にわかるのか、と。

感情を殺して池の奥深くに眠らせた僕の幼い魂を。

いつかほんの少しでも。

その心の琴線に触れられた時には、彼の心の池に少しだけ波紋が広がるのかもしれない。

その時はきっと少しだけ温かい。

暖かい指先と、心で。

貴方の心が、少しずつ安らいで、揺れる。

そんな日を。いつか。


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