見出し画像

【無料掛合台本】呼び鈴の噂(♂2♀2)

約5000文字
青春系

▼利用規約必読
https://note.mu/momoka_ueno/n/n938a7e38eee6

全員高校2年
・朝日(男)正義感が強い。他人の問題まで気にかけてしまう。
・黒沢(女)美術部。静かでほぼしゃべらない。喋るときは正論を直球に言ってしまう。クラスで浮いている。姉に対してコンプレックスを持っている。

・小野(男)ミーハー。顔が広く、友達が多い。朝日とは中学からの友達。
・清澄(女)清楚でクラスの委員長をしている。朝日のことが気になっている。
・子猫 ※清澄か小野と兼役でお願いします。


場面:教室
帰りのHRが終わるやいなや、小野が自分の席から朝日のほうに向かってくる。

小野「朝日―! 今日寄りたいとこあるから準備できたらすぐ……おっとごめんぶつかった。」

黒沢「……ちゃんと前見て。」

小野「あ、あぁ、ごめん。」

黒沢「……」(そのまま立ち去る)

朝日「小野、大丈夫か?」

小野「ああ、大丈夫。」

朝日「今のって。」

小野「黒沢しずくだな。あいつ謎だよな。」

朝日「……前から思ってたけど、黒沢って嫌われてるの?」

小野「そっか、朝日二年になってから初めて同じクラスになったのか。」

朝日「クラス変わってまだ二か月だけど、なんとなく黒沢って浮いてるっていうか。」

小野「まー、謎だからな。全然喋んないし。暗いし。部活も全然来ないらしいぜ?」

朝日「部活?」

小野「あー、美術部? 後輩が言ってた。」

朝日「そうなんだ。」

小野「あそうだ、黒沢の話しに来たんじゃないんだよ!」

朝日「あ、さっき寄りたいとこあるって言ってたな。」

小野「そうなんだよ、帰り道にある廃墟なんだけど。噂聞いたことないか?」

朝日「廃墟の噂? 知らないな。」

小野「最近こんな噂があるんだ。廃墟に近づくと、昔あそこで死んだ貴族の幽霊が呼び鈴を鳴らしてあちら側に誘ってくるって。」

朝日「……」

小野「貴族の幽霊が呼び鈴を鳴らしてあちら側に誘ってくるって!」

朝日「聞こえてるよ。廃墟で貴族が呼び鈴って、あの廃墟炭鉱跡だろ? 貴族が死んだって、意味不明な噂だな。」

小野「これが本当なんだな~。俺昨日確かめに行ったんだけど、本当に聞こえたんだよ、呼び鈴の音。」

朝日「ほんとか?」

小野「……やっぱり信じないか。でもお前もくれば分かるよ。 そうすりゃみんなも信じてくれるはず!」

清澄「あ、小野君またその話してる。」

小野「清澄さん! 今日こいつと確かめに行ってくるよ。」

朝日「え、俺行くって言ってな」

小野「あそうだ、清澄さんも一緒に行く?」

清澄「え、朝日君も行くの……?(朝日の方をチラ見して)う、うん私も行ってみようかな。」

小野「うお! まじか!」

朝日「自分で誘って驚くなよ。」

小野「だって、清澄さんそういうの興味なさそうだからさ。(ここから朝日に小声で)もしかして、俺に気があるとか?」

朝日「……さあ?」

清澄「ねえ、暗くなったらあの辺危ないし、行くなら早く行った方がいいかも。」

小野「そうだな、じゃ、ちょっくら検証といきますか!」


場面:炭鉱跡

清澄「わあ、こうやって改めて見るとちょっと不気味かも。」

朝日「……」

小野「どうした朝日? やっぱ怖いか?」(ちょっとからかうように)

朝日「いや、怖いというより……なんか神秘的な感じ。」

清澄「た、確かに異空間っぽくて神秘的な感じもするね。」

小野「神秘的、ねぇ。」

清澄「小野君、音がしたのはこの辺?」

小野「あ、いやこっちだ。」

小野、少し建物の周りに沿って歩き出す。

朝日「雑草が凄いな。」

清澄「この辺りは誰も手入れしないからね。大人も近寄らないし。」

小野「うーん、俺が昨日来たのはこの辺のはず……」

清澄「朝日君、何か聞こえる?」

朝日「……今のところ何も。」

小野「おかしいな、昨日ははっきりと聞こえたんだけどなー。」

朝日「時間帯とかは?」

小野「ちょうど同じくらいのはずだぜ。昨日も学校が終わって向かったからな。」

清澄「うーん」(耳を澄ませている)

朝日「なんか暗くなってきたな。」

清澄「日が暮れてきたみたい。もう少ししても何もなかったら帰った方がいいかも。」

小野「なんで聞こえないんだー! 来い!」

清澄「ふふ、言葉通じるの?」

朝日「……あ。」

小野「どうした朝日!」

朝日「あそこ、あの柱の陰になってるところに人影が見えた気がした。」

清澄「人影? うーん。」

小野「人影なんてこの前はなかったぞ! ついに幽霊が出てきたか?!」

音:鈴

朝日「あ、今度は音だ。鈴?」

小野「え?」

清澄「……ほんと。呼び鈴。」

小野「あ、これだ、俺が聞いた音だ! これで証明できたぞ!」

清澄「な、なんか音が近づいて来てない?」

朝日「近づいて来てる。」

小野「や、やめろよそんなこと。」

全員「……」(耳を澄ます)

音:ガサガサ

小野「わあ! 物音がしたぞ!?」

清澄「(食って)幽霊!? いやあぁ! わ、私帰る!」(走って逃げる)

音:走る

小野「朝日も早く、連れていかれるぞ!」(立ち尽くす朝日の腕を引いて走り出す)

朝日「わ、で、でもあれ……」(引っ張られながら後ろを振り返る)

小野「とにかく今日はこれで解散だ! また明日学校で話そう!」

朝日「あ、ああ、わかった。」


場面:次の日の学校、朝
教室に入る朝日

小野「よ、朝日おは! 体調に異常はないか?」

朝日「おはよう。俺は大丈夫。」

小野「よかったぜ。昨日はひやひやしたからな。でも、これで本当に幽霊がいると証明できたぜ。」

朝日「本当に幽霊だったのか?」

小野「幽霊だろ。突然変な物音もしたし。奇妙な影も見えたんだろ? あ、清澄さんおはよう!」

清澄「おはよう……。昨日、先に帰っちゃってごめんね。」

小野「ああ、気にしないで! 俺たちもすぐ帰ったし。」

清澄「……そっか。」(自分の席に向かう)

朝日「なんか清澄さん元気なかったな。」

小野「怖かったんだろ、俺もあれにはビビっちまったよ。もうあそこには近づかないようにしよ。」

朝日「え、もう行かないのか。」

小野「逆にまた行くのか?」

朝日「うーん。やっぱり気になるんだよな。」

小野「行ったら帰れなくなるぞ~。」

黒沢「そこ、私の席。」

小野「うわ! びっくりしたー。ごめん。」

朝日「黒沢、おはよう。」

黒沢「……おはよう。」

小野「……」(二人のやり取りを見てる)

音:鈴

朝日「あれ?」

小野「どうした朝日?」

朝日「いや、なんか鈴の音がしたような気がした。」

小野「やめろよ、そういうの~!」

朝日「あ、ごめん。」

音:チャイム

小野「おっと1限目だ。またな。」

朝日「おー。」


場面:炭鉱跡、放課後

朝日「なんだかんだまたここに来てしまった。しかも一人で。……でも、あれは幽霊なんかじゃなかった。」

昨日3人で来た場所に向かう朝日

朝日「昨日、確かこの辺で影を見て……。(目を凝らす)ん? また人影だ。(鈴の音)……鈴の音もする。近づいてみよう……。」

影が動くたびに呼び鈴の音が聞こえる。
人影に近づくと音は大きくなっていく。
物陰から音のする方をのぞき込む。

朝日「さっきこのあたりで人影が動いていたような……? 誰か、いるのか?」

人影が動いているのが見えるが、よく見えない。

朝日「あれ、うちの高校の制服。でも、顔が見えない……。ん? この鈴の音、そうか。」

物陰から出る朝日、制服を着ている人物の後ろに立つ。

朝日「おい、何やってるんだ。(少し間を置いて)黒沢。」

黒沢「今日も来たの、朝日。」

朝日「……気づいてたのか。」

黒沢「あんなに大きい声で喋るから。ここ、コンクリートで音が反響しやすいのに。」

朝日「コンクリート……。あ。」

黒沢「何?」

朝日「そのカバンについてるのって。」

黒沢「……これ、クマよけの鈴。」(鈴の音)

朝日「クマよけ……。なるほど。クマよけの鈴をつけた黒沢がここに来ていた、コンクリートで音が反響して離れていても聞こえた、そういうことか。」

黒沢「何ぶつぶつ言ってるの。」

朝日「何でもない。それより、何してるんだ、こんな所で。」

黒沢「なんでもいいでしょ。」

子猫「にゃー」

朝日「猫?」

黒沢「ばか。(猫に)」

子猫「にゃー?」

朝日「猫の世話をしに毎日?」

黒沢「はぁ。あなたって変わってるって言われない?」

朝日「それは黒沢もだろ、こんなところで毎日過ごして。」

黒沢「私はここが好きなの。神秘的で、現実逃避するにはうってつけ。」

朝日「それは同感だ。」

黒沢「やっぱり変わってるね。」

朝日、猫に近づく。

朝日「この猫、子猫だな。親はいないのか。」

黒沢「私が最初に来たときはいた。でももういない。一緒にいたほかの子猫もいないの。この子は、きっと見捨てられた……私と一緒。」

朝日「一緒?」

黒沢「私、家族に見捨てられてるの。お母さんは、なんでも卒なくこなすお姉ちゃんと何にもできない私をいつも比べてた。お姉ちゃんばっかり褒められて、私はなんでできないのかと責められるの。……そんなことを繰り返してるうちに、もう見放された。」

朝日「人間の能力は人それぞれなのに。」

黒沢「お母さんはそれをわかってない。でももういいの、諦めてるから。できない私も悪いし。」

朝日「黒沢には黒沢にしかできないことがあるよ。俺も、小野がここに来れないから来たわけだし。」

黒沢「ここに?」

朝日「そう、あいつここで幽霊が出るとか言って確かめに来てたんだよ。それで本当に鈴の音がするもんだからビビっちゃってさ。当分ここに近づかないと思うぞ。」

黒沢「あ~、小野ビビりだもんね。それで朝日が確かめに来たってわけ。」

朝日「まあそんな感じだ。だから、黒沢にしかできないこともあるよ。」

黒沢「そうだと、いいな。……私、最初は絵を描きにきたの。ここの炭鉱跡が神秘的だったから、描きたくなって。」

朝日「それでここに来るようになったのか。」

黒沢「そう。」

朝日「見せてよ、絵。」

黒沢「……うん。(カバンからスケッチブックを取り出す)これ。」

朝日「……すごい、上手いな、黒沢。」

黒沢「ありがと。絵だけは小さいころからずっと好きで描いてるんだ。ほら、ここの建物のヒビのところとか、結構上手く描けてない?」

朝日「うん、上手いよ。……黒沢、絵のこともっと周りに言った方がいいよ。」

黒沢「でも、こんなの。」

朝日「絵の話してる黒沢、すごい生き生きしてるし。」

黒沢「私、今まで好きなものの話とかあまりしたことなかった。」

朝日「もしかしてお母さんとも?」

黒沢「うん。」

朝日「言ってみたら?」

黒沢「……」

朝日「まぁ、気が向いたら。」

黒沢「うん、そうだね、ありがと朝日、言ってみるよ。」

朝日「日が暮れてきたな。帰ろうか。」

黒沢「そうだね。」


場面:教室、朝

朝日「お、黒沢おはよう。」

黒沢「朝日、おはよう。あの、昨日はありがとう。」

朝日「その様子だとお母さんに言えたのか?」

黒沢「うん、朝日の言う通りだった。話さないと伝わらないんだね。私のことが知れてよかったって言ってた。お母さんのあんな顔も初めて見た。」

朝日「そっか、よかったな。」

黒沢「うん。本当にありがとう。」

朝日「俺は思ったこと言っただけだ。あ、それと今日放課後、親猫を探そうかと思うんだけど、どうかな。」

黒沢「……うん、私も探す。」

清澄「朝日君黒沢さんおはよう~」

朝日「清澄、おはよう。」

黒沢「おはよう。」

清澄「なんか珍しいね、二人が喋ってるの。」

黒沢「朝日は恩人だから。」

清澄「恩人? 黒沢さんってやっぱ変わってるね!」

小野が勢いよく教室に入ってくる

小野「朝日! あさひー! どうしよう!」

朝日「小野、どうしたんだよ汗だくで、寝坊か?」

小野「寝坊もそうだけど、どうしよう! 猫が俺の前を横切ったんだよ!」

清澄「猫? 黒猫でも前を横切ったの?」

小野「いや、茶色の猫なんだけど、あの廃墟の横を通りかかったとき、俺の前を横切ったんだよ!」

朝日「小野、落ち着け。横ぎって不吉なのは黒猫だ。茶色の猫に横切られても何もない。」

小野「あ……あー、そうなの?」

清澄「そうね、茶色の猫に横切られてっていうのは聞いたことないかも。」

小野「あははは! ならいいんだ、なんだ、びっくりしたぜ。場所が場所だったしな。」

朝日「ああ、そのことなんだけど。」

黒沢「小野、その猫どこに行った?」

小野「うお、黒沢。え、猫は、廃墟の方に走っていっちまったな。それがどうした?」

黒沢「そうか、よかった。」

朝日「あ、もしかして親猫。」

黒沢「うん、茶色の猫だったはずだから。」

朝日「そうか。じゃあ猫も親と会えたんだな。」

黒沢「よかった。」

小野「なんだなんだ?」

朝日「小野、あそこに幽霊はいない。」

小野「え、どういうことだよ?」

朝日「とにかく幽霊はいないんだ。だからもう噂は広めないほうがいいよ。」

小野「……そうか、わかったよ。お前が言うならそうなんだろ。」

清澄「そっか、幽霊、いなかったんだね。」

黒沢「いなくなったんだよ。幽霊は、人間になれたから。」

終わり

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?