先日の雪。春を待ちわびて。

 東京に二度目の雪が降った。天気予報がそう言ってもまさか東京に雪が降るなんて思っていないから、かじかんだ手で傘をさして、履き古したスニーカーで濡れそぼったいつもの道を歩く。歩道橋は凍っていて、当然のように足を滑らす。恐怖の階段を抜けて、ダイヤ乱れの電車を待つ。
 なかなか春が来ない。ぽつぽつと街に花が咲き始めたから春が来たかと思ったけれど、まだ雪の降る冬だ。冬はずっと続く。
 寒いのは苦手。暑いのはもっと苦手だけれど、冬はなんだか気が滅入る。自分の選択のどれもが誤っていたような気がしてくるし、これからもずっとそうである気がしている。
 どうもこの街が好きになれない。コンクリートジャングルは人の住むところではないです、と誰かが言うみたいに人の心には寄り添ってくれない街である。
 都心部に住んで思うのは、この土地はあまり私に向いていないなぁということ。人は多いし、ナンパはされるし、物価は高いし、ビル風が強くて冷たい。けれど困ったことに、転職しようとも仕事は大抵都心部にあるし、電車はもみくちゃにされて息が詰まる。いつかは脱サラして田舎暮らしをします、というのが流行ったけれど、大人になってやっと気持ちがわかる。人がまばらで緑ばかりがあるところへ行きたくなる。なんというか変なのだ。この街にはこんなにもお店があるのに、私の欲しいものはひとつも売っていない。そんな気がする。私は東京の隅っこでポツンとしているのが似合っている。多分。
 そんなつまらないことばかりが頭の中をぐるぐるしているので、私は春を待ちわびる。コートをほっぽり出せる日が来たら、桜が咲いて道が華やいだら、あーだこーだと悩むのも終わらせられるだろうか。そうなるといいな。