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短編小説「違」

彼は、部屋の中央に座ったまま、目の前のモニターを見つめていた。
手元には、彼の最新の小説が書かれた原稿があった。
その内容は、彼自身の人生を反映したような、腹の底からだした感情と、いくつかの奇妙な経験に基づいたものだった。
しかし、その小説を誰かに見せることは、これまで一度もなかった。

彼の指が、キーボードの上を滑り、特定のキーを探していた。
彼の心は高鳴っていた。
初めての発表、それは彼にとって新たな一歩を踏み出すことだった。
彼の目は、画面上に表示された鮮やかな緑のボタンを捉えていた。
そのボタンは、彼の心情を如実に表したかのようだ。

彼の手が、マウスを握りしめる。指先が微かに震えているのがわかる。
上手く呼吸ができない。勇気を振り絞ってマウスを動かす。無意識に呼吸が浅くなり、短い間隔で繰り返してしまう。カーソルをそのボタンに向ける。鼓動まではっきり聞こえてくる。遠い。ゆっくりと、彼の人差し指がクリックする。

その瞬間、彼の部屋は静寂に包まれる。彼はただ画面を見つめ続けた。
「これも駄目なのかよ・・・」











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