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「私は着れないなぁ笑」の呪いと「かわいいから」の魔法

「それ、私は着れないなぁ笑」大学3年の冬に、ある企業のインターンシップで言われた言葉だ。その日は服装の指定はなかった。まぁ、でも人に会うんだから綺麗にしていったほうがいいよな。そう思って私が選んだのは黒地に花柄のワンピース。実家に帰った際に母に買ってもらったもので、長めの丈が上品にひらひら揺れるのがお気に入りだった。

きちんと化粧もして髪も整えて、準備万端で会場に着いた瞬間、私は唖然とした。私以外、全員スーツを着ていた。社員さんに促され席に着くが、5人グループの中で私だけがとっても浮いていた。

簡単に自己紹介をして、雑談タイム。そこで服装の話になった。「やっぱり、服装自由って書いてたけど怖くてスーツ着てきた笑」という会話に、私は気まずい微笑みを顔に貼り付けて気配を消した。しかし、いくら目立たないようにしたところでそんな浮いた格好で見逃されるわけがなかった。

「そのワンピース素敵だね」「女子アナみたい」みんなのやさしい褒め言葉にちょっと照れながらありがとう〜なんて返していたら、ある女の子が「でもそれ、私は着れないなぁ笑」と言った。顔は笑っていたけど目は笑っていない。その言葉の裏にある皮肉に気付かずにはいられなかった。

きっと彼女は意地悪を言いたかったわけではなかったんだろう。でも、その言葉についていたちょっぴりの毒は、刺さったあとでじわじわ効いてきた。帰路につきながら「やっぱり変だったかな」と何度もショーウィンドウを見てしまう。

でも、変だと認めたくなかった。そのワンピースを着た私が好きだった。確かにちょっと大きめの柄や差し色の紫や青は目立つけれど、それを着た自分はとても綺麗に見えた。

それから月日は流れ、昨年の12月のこと。ダブリンに遊びに来た母とショッピングをしていると、真っ赤なコートが売っていた。襟も裏地もきれいな赤。「かわいい!」そう思った瞬間にはもう手にとっていて、2秒後にはすでに羽織っていた。

その赤は私の肌にとても映える色だった。生地も仕立ても上質で、羽織ると品が良く見えた。自分で言うのは恥ずかしいが、とっても似合っていた。(しかもセールで半額だった)

「似合う!買いなよ!」と、早速お財布を出そうとしている母。「買います!」と喉まで出かかったところで、私はあの言葉を思い出す。

「私は着れないなぁ笑」

ワクワクしていた気持ちが一瞬で冷め、手に取ったコートもなんだか変てこりんに見えてくる。「かわいいけど、私はこれ着て歩けないよ笑」あの子の言葉をそのまま自分で言いながらラックに戻そうとした私に母が言った。

「なんで?かわいいからいいじゃん。」

もう一度羽織ってみる。確かにすごくかわいい。赤い口紅とも相まって、それを羽織った私はとても自信に満ちて見えた。

10分ごにょごにょ迷って、意を決して購入。早速次の日の授業に着ていった。大学の教室で真っ赤なコートを着ているのは私しかいなかったし、正直ちょっと浮いていた。やっぱり変かな?と思った心の隙間にあの呪いの言葉が沁みてくる。あぁ、やっぱり戻っていつもの茶色のコートにしようかなと引き返したくなる気持ちを堪え「でも、かわいいから!」の魔法を唱える。

ありがたいことに、その赤いコートは結構評判がいい(特にセンスの良い女友達からたくさん褒めてもらえる)。中にはたまにつまんないメンズがいて「いや〜よく着れますねその色…」「派手過ぎじゃない?」とか言われることもあるけど、「かわいいから」の魔法を知っている私はもうビクともしない。今日も赤いコートを羽織って家を出る。


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