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【本編7】ネタは私が提供する

 メルマガを始めた私に、N課長代理は優先的に経営企画部主催のイベントを紹介してくれていました。その一つがカリフォリニア州立大学名誉教授の吉田耕作先生のセミナーでした。吉田さんは、かのエドワード・デミング博士の日本人唯一の弟子で、博士のアシスタントとして長年にわたってアメリカ企業に対するコンサルティングをされていました。
 32年間にわたるアメリカでの生活に終止符を打ち、1999年から青山学院大学大学院の教授に就任していました。そして、デミング哲学に基づいた小集団活動を日本企業にも広めるべく活動をされていたのです。

 当社でも2006年から、吉田先生のセミナーを開始していました。


「よろしかったら見学にいらっしゃい」


 とN課長代理から誘われ、私もノコノコと参加していました。吉田先生の講義は大変迫力のあるもので、特に日本の企業文化の悪いところを容赦なくぶった切っていました。

 セミナーが終わって参加者は散会したのですが、私は飛び込みで見学させていただいた手前、後片付けを手伝うことにしました。その時、セミナールームに残っていたのは、吉田先生、N課長代理、私だけでした。

 片付けが終わるとN課長代理は荷物を置きにオフィスに戻っていきました。「それではここで解散しましょう」と挨拶をして駅に向かったら、吉田先生も私についてきたのです。


「あれ、先生はタクシーではないのですか?」

「いえ、私も電車で帰りますよ」


 てっきり、こんなにエライ先生はタクシーで送迎されるものと考えていた私は、ちょっと面食らったのですが、有難いことに帰りの電車で先生と四方山話をする機会に恵まれたのです。そこで私は、何とはなしにメルマガの件についてお話ししていました。


「なかなか素晴らしい活動をされていますね」

「ありがとうございます。ただ、持ちネタがそれほどないので、全社に向かって発信するか悩んでいるのです」

「そんなことで悩んでいるのですね。だったら心配いりませんよ。ネタだったら私がいくらでも提供しますから。経営に対する辛辣な意見も、みんな私が言ったことにすればよいのです」


 この時の吉田先生との偶然の出会いも、強く私の背中を押してくれました。実際、初期のメルマガでは吉田先生からいただいたネタを頻繁に使うことになったのです。

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