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「 すずめ 」


向かいの席に杖をついた老人が座っている。
杖に両手を乗せそこに顎を座らせている。頭には古風なカーキ色のハットを被り隙間から真っ白な髪が見えている。小豆色のカーディガンを羽織っている。ポケットがほんの少し膨らんでいる。文学を好んでいただろうと思わせる皺が顔に刻まれている。雀が二羽近くでジャレ始めた。まっすぐ私を見ている。見ているというより、まっすぐ考えているのかもしれない。瞳はまだ濁ってはいない。むしろ最近の若者より輝いているかもしれない。手荷物はない。近所に住んでいるのだろう。

「 元気だったか? 」

言葉の通じない私に眼で語りかけてくる。これは後先短い者の最後のコミュニケーションだ。生物は皆そうだということを、人間以外は皆知っている。死期が近いとは思えない血色のくせに眼で話しかけるな、と、馴れ馴れしいじいさんが目の前に座ってしまったな、と、あからさまに眼を反らし黒い尻尾を振る。

「 思い出に浸るのも飽きてしまってな 」

雀はまだジャレあっている。小鳥に遊び心があるのは、自由だからだ、と、呑気な事を言うのは、未熟な青年の言うことだ、と、聞いてもないことを答えそうな雰囲気がじわじわと伝わってくる。これは面倒だ。
太陽の光が稲穂色になり始めている。一呼吸おいたところで、小さな秋の風が吹いた。桜の落ち葉と、始まりの合図を含んでいる。白い片耳をピクリと動かし(秋の風には侘しさだろう?)と何もない場所を思わず眼を開いて振り返る。

「 またこいよ 」

老人は両手にグッと力を籠め立ち上がり、帽子を押さえながら最後にやっと喉を鳴らした。雀は風で遊んでいる。



選択肢

黄色の少しずつ色の違うカードが19枚ある。
その中に1枚、紫のカードが混ざっている。
あなたは紫を選ぶだろうか?
比較とは・・・

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