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「 詩情 」

水に浮かぶ島というのは、
空に浮かぶ島同様、
胸を騒めかせるものがある。
小さな器に立つ茶柱、
ここに同じ心情を映す諸芸を、
先人は作法として残した。

古木に斜陽を当てると、
度重なる試練を乗り越えた、
老人の笑い皺のように、
長い時を刻む年輪が、
ここに座れと話し掛けてくる。

目に入る景色に、
高層建築や電線の無い贅沢な場所で、
青から橙に変わる空を捕えた、
大きな薄水の塊が、

不秩序は秩序の中の一つだと、
小波紋を風の歌に合わせ踊りながら、
静かに笑った。

緑の息遣いを知ったその人は、
余った時間に美を込め始め、
道具に新しい意味を添え、
陰影に詩情を与えた。

水で啼いたこの星の、
遠景からの眺めに飽き足らず、
私の内側の血も水だと、
斜陽を切り取り、
面に描き印した。

空の色の、
点を隠し、
漏らし、
古木の廊下に、
期待を溢した。

その証拠に、
湾曲させた壁に、
背後から追って来る、
自己の踏音と、
鋭影で強引に、
頭上の白青に、
息を吐かせた。

含水した黒石は、
これこそが現実だ、
さあ、手に取れ、飲み込め、
と、
魔法を架け続ける。

何もない場所に繕った、
何もない場所に、
僅かに残る智慧の音が、
水の余韻を手離さない。

知るに堪えない、
ありのままの姿は、
空腹を煽り、
歌えと迫る。

刳り貫いた直線と、
等間隔の間が、
人の息を含ませ、
瞼を重くする。

遂に腹の音が鳴る。

月はまだ出ない。

「 いただきます。」 


          ・・・・・・

牛の彫物//

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