見出し画像

山椒賛歌

人によって好き嫌いはあるかもしれないが、山椒はとても有益な日本のスパイスだとつくづく思うのである。山椒は春先の新芽、花、実、そして秋にかけて成熟した実の果皮、とすべてが旬を持ち、それぞれ大活躍するし、栄養価もあり、サンショオールと言う成分のおかげで血行を良くしたり、胃腸の働きを助けると言う効能もあるらしい。庭に一本、と思うがなかなか繊細な樹木で放っておいても順調に行くというわけではないらしい。ハジカミと言うのは山椒の古語であり、古事記にも登場していると言うからかなり歴史は古い。

【春の山椒の新芽
4月になって筍が出てくると、これが定番の添え物となる。
木の芽とも呼ばれる山椒の新芽である。ちょっとピリッとして独特の香りは癖になる。京都などでは木の芽和えと言うと、春の日本料理やさんでは必ずと言って出てくるが、東北ではさほどではないような気がする。筍はもちろんのこと、烏賊などを茹でて白味噌に木の芽を摺り混ぜた練り味噌を合わせたものは春の料理の代表だ。料亭でなくても、家庭で作る筍ごはん、筍、蕗、油揚げの炊き合せなどには、ふわっと天盛りにすると一瞬で大人の味に変身する。又椀だねの吸い口に一つ載せただけで、途端に上品なお吸い物に変わるから不思議である。葉を使う場合は手のひらでポンと叩いて香りを出す。

晩春の花山椒
優しい山椒の花はその味わいもやさしく、新芽や実山椒の様に強い香りではないようだ。花は小さいし、一本の木にそう沢山咲くわけではないので、余り市場にも出回ることのない、希少な贅沢品と言える。庭に山椒の木があれば、季節には恩恵に浴することができる。炒めものに使ったり、花の蕾は佃煮にすると美味しく高級珍味。中華料理の香辛料に花椒(ホワジァオ)があるが、そちらは中国産の別の樹木だ。前回登場の友人の庭に花山椒の古木があって、花を佃煮にしたものを味見させていただいたが、優しい香りで美味しかった。

花山椒

青山椒】                             いわゆる山椒の若い実である。6月、7月にしか出回らないので、せっせと下処理をしては冷凍にして、一年間楽しむことにしている。青山椒は良く洗って枝を取り除き、塩を加えた熱湯で5分から7分ほど茹でる。そのあと冷水に取リあくを抜く。かじってみて好みの辛さまで水にさらす(今年は2時間くらいさらした)。ざるに上げ、そのあと紙タオルなどで良く水気を拭き取り、小分けにして冷凍保存しておく。

青山椒

山椒塩茹で

昆布と椎茸の佃煮に加えたり、今ならキャラブキにも加えたりする。京都の名物のちりめん山椒も意外に簡単に作れる。煮魚に牛蒡と一緒に加えたり、アイデアと好みで様々に楽しめる。お料理の他、山椒の実の醤油漬け、オイル漬けなどを作っておくと牛肉を煮たり炒めたりする時に調味料としても活躍する。和歌山、高知、京都などが本場らしいが私が求めたものは大分産だった。今の時季しかないと思うとやる気が出る。高価なものだし、一粒たりとも無駄にはできない。日本の生産量の半分は和歌山産らしいが、ふっくらした実は緑のダイヤ、と呼ばれているとか。山椒はみかん科だからみかんの産地と共通するのだろうか。                     半日ほど時間が掛かったが、しばらく使えるくらいの青山椒の下処理をして冷凍し,山蕗でキャラブキも作った。ご飯が進んで困る。キャラブキは今シーズン2回目だが、割にうまく行ったので調味料の配合を備忘録として書いておく。

◆自己流キャラブキ青山椒入り,2022年版

キャラブキ、2022

・山蕗一束(私の片手には余るくらいの量)はサッと日光に干し、洗っ      てうぶ毛などを擦り取り、さっと皮を剥き、塩を入れた熱湯で下茹でする。4センチほどに切りそろえる。山蕗は細いので、干しただけで皮を剥かないとも聞くが、おそらくそれは産地などで大量に保存食として作るので何時間も大鍋で煮詰めるためだと想像している。家庭で作る一把程度の量であればせいぜい2時間程度なので、私はさっと皮を剥いている。歯ごたえのあるキャラブキがお好みの方は剥かずとも問題ないと思う。

・蕗を広げられるような平鍋に最初に調味料を全部入れて蕗を煮始める。好みがあるが参考までに、酒と醤油が2でみりんと砂糖が1の割合で汁気が無くなるまでかき混ぜながら煮て行く。特に最後は火のそばを離れないことが重要。この配合だと煮詰まっても飴状態にはならないようなので、今年はこの配合で作っている。                        何しろ山椒の実があるので、いろいろ実験している。椎茸と昆布の佃煮も試してみた。干し椎茸にしみ込んだ水分がなかなか抜けずに苦労した。要研究だ。

椎茸と昆布の佃煮

鰻の蒲焼きと山椒の粉】                      山椒と言えば、鰻の蒲焼き。江戸時代には浮世絵の題材にもなるくらい人気の食事。滋養に富み時代を超えてのごちそうだと思う。すでに室町時代にはあったと言うが、醤油が作られるようになった江戸時代にピークに達したと思われる。

さて、鰻の蒲焼きに振りかける山椒の粉、これは秋になって完熟した実山椒の皮を挽いて粉にしたものだ。鰻の蒲焼きと山椒の香りの相性がパーフェクトと言うほかに,油っぽい鰻の消化を助けると言う効果もある。     山椒は西日本で好まれると見えて、京都などの七味唐辛子も、山椒の割合が多い。今は京都に行かずともどこでも買えるので常備している。物によっては、江戸前の七味も好きだが出番は山椒の効いた方。これはあくまで好みなのでどちらがどうとも言えない。

まとめ】                             冬を越して芽吹いた新芽から花をつけ、青い実がなり、秋に熟した実の皮に至るまで、日本の四季と共にあり、すべてを人間が食べつくしている山椒。本当にありがたい樹木だ。                      最後に思い出したが、すりこぎ(今はあまり使わないかもしれないが)は良いものは山椒の木の幹を使ったものだ。我が家にも50年前の山椒のすりこ木が健在だ。山椒万歳!

今日はこの辺で。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?