ボクの背中には羽根がある。

KinKi Kidsの名曲タイトル。これが私の『初めて買ったCD』だ。発売は2001年2月7日。私は小学5年生だった。

当時持っていたCDはモーニング娘。の「ラブマシーン」と「ザ☆ピ～ス」くらいだったと思うが、これは買ってもらったものだったと思う。数少ないお小遣いを握りしめて、欲しいCDを買うためにレコードショップまで走って行ったのは、「ボクの背中には羽根がある」が初めてだった。この曲はドラマの主題歌として使用されていた。

ドラマ「金田一少年の事件簿」を見てから、堂本剛のことが好きだった。思えば初めて好きになった芸能人は剛かもしれない。その剛が2001年1月からのドラマに主演することになった。タイトルは「向井荒太の動物日記 〜愛犬ロシナンテの災難〜」。

当時の私は、とにかく動物が大好きで、ペットが欲しくて、でも兄の喘息のせいもあってペットは飼えず、その気持ちを抑えるために動物モノの漫画ばかり読んでいた。「ハムスター倶楽部」とか、「ぴくぴく仙太郎」とか、動物漫画の連載雑誌も沢山読んでいた。「動物のお医者さん」も読んでいたこともあって、将来の夢は獣医。そう言っていたときに始まった剛のドラマは、獣医学部に通う大学生の話だった。

剛が好きなうえに、興味のある獣医の話、ということでとにかく放送が待ち遠しかったことを覚えている。21時以降は自室に入る、というのが我が家のルールだったので、ドラマはリアルタイムでは見せてもらえず、ビデオに録画して毎週楽しみに見ていた。

剛演じる荒太は保健所に処分される寸前のゴールデンレトリバー（名：ロシナンテ）を引き取ることになり、ふたりの生活は始まる。序盤は仲良くなれず、ロシナンテの行動に振り回されるドタバタコメディ色が強かったように記憶している。次第に獣医学の授業が本格化していくとともに、必然的に「動物の死」というものに向き合うこととなっていく。

ちなみに私はこのドラマを見たことで獣医を志すことを辞めてしまった。10歳程度の私は、「動物の死」と向き合うことができなかったからだ。ペットを飼ったことの無い私にとって、必然的に訪れる「死」という問題について当時考えたことが無かったのだと思う。なぜならそういう漫画は避けていたから。私には「死」に向き合う勇気も、心構えも無かった。だからその後に将来の夢はトリマーだとか言い出すのである。我ながらなんと軽率な考えだ･･･。

ドラマの物語は思いがけないきっかけで大きく展開する。荒太は車に轢かれて足が不自由になってしまい、車椅子生活を余儀なくされる。ロシナンテは荒太の介助犬として成長していくのである。
最終話間際、立派な介助犬として成長したロシナンテを、荒太は身体の不自由な少女に譲ることになる。ロシナンテは荒太の傍に居たがったが、荒太は車椅子から立ち、一歩、二歩と歩き始め「ボクにお前はもう必要ない。」と告げる。
数年後、獣医として働く荒太の元にロシナンテが運ばれてくる。荒太と出会ったときのロシナンテはすでに成犬であったため、おそらく老衰だったと思う。少女は、ロシナンテの最期は荒太のそばで、と考え連れてきてくれたのである。ロシナンテの最期を見守りながら、荒太はねぎらいの言葉をかける、というラストだ。最終話は涙が止まらなくなるほど泣いたことを今でも覚えている。

このドラマと、そしてこの主題歌「ボクの背中には羽根がある」がとにかく大好きだった。発売日にレコードショップに走って行くほどに、いつもは漫画に使うお小遣いを高いCDに使うほどに、手に入れたかった。いつも頭の中で流れていた。フルで聞きたかった。

言わずもがな、KinKi Kidsの名曲・定番曲となったこの曲。ドラマを知らず、曲だけ聞いた分には男女の愛の物語に聞こえるようになっているが、私にとってはこの曲は荒太とロシナンテの曲。未だにこの曲が流れているときに頭に思い浮かぶのは、白衣を着た荒太と、その隣にいるロシナンテの姿。

「ずっと君と生きていくんだね　ボクの背中には羽根がある
どんなつらい夢も叶う気がする　君を抱いて空も飛べる
嘘じゃないよ　今しあわせに　触ったみたい」

エキゾチックな音楽と、美しい歌詞、羽根が舞い散るPV、歌うふたり。
全てが美しく大好きな曲。

ここからは余談。
ある日聞き返して、ふと見たクレジットに驚愕した。松本隆作詞、織田哲郎作曲。なんて豪華な曲提供だったんだ、と気付くくらいには大人になっていた。私は松本隆さんの書く詞が好きだ。とても簡単な言葉を紡いで、とても綺麗な情景を描く方だな、といつも思う。
硝子の少年、Kissから始まるミステリー、ジェットコースターロマンス、このまま手をつないで、シンデレラクリスマス、薄荷キャンディー、スワンソング･･･
KinKiの楽曲だけでも名曲ばかり。