殿堂入りを果たしている男

殿堂入りしている男はつよい。
当時のようにその人が光り輝いていなくても、目の前でたわいもないことを話して笑っていたり綺麗な箸捌きで枝豆を口元に持っていくのだったりを見ていると、なんも考えずに真似して箸で枝豆を口元に持っていって、え、これどうすんの?となったりする。


昔より爪伸びたんだなあとか、その似合ってんだか似合ってないんだかわかんないパーマをベーシックスタイルにしたんだなあとか、相変わらずちんこが雑魚くてかわいいなあとか、袖が濡れそうになってたりするのをいつもすぐ見つけてくれるよなあとか、とことん他人を受け入れないよなあとか、どれだけ高いヒールでもいつもちゃんと見上げているから対等でいるようでいてその瞬間だけはちょっと負けてる感じがするけどそれも心地いいんだよなあとか、都合が悪くなったらすぐキスで誤魔化そうとするよなあとか、顔のいい人間特有の気持ち悪さのない自然な手つきで腰に回してきたりするよなあとか、
ナチュラルボーンホストじゃん。
そら3ヶ月でNo.6に入れますわ。

一切顔色変えずにテンションも変わらずに、綺麗に水を飲むみたいにビールやハイボールやレモンサワーをするする飲むよな、そういうとこが好きだった。
つよい生命体だなあと思えて、この人はわたしがいてもいなくても変わらないし、誰がいなくなっても、多少揺らぎはしても、そのあと割り切ってちゃんと生きてける人なんだろうなとわかる。


映画そんな好きだったっけ、と言ったら、わたしの影響だと言われて、面食らった。
わたしが彼から受けた影響が数多くあっても、彼に与えられた影響なんて数ヶ月もすれば風化するようなものしかないと思ってた。監督名で話したりするのとか、しなかったもんね昔は。


そういうところ尊敬してる、俺にはない部分だから、という言葉は、嬉しいようでいて遠い、ということに最近気がついた。びびるぐらい遠い、この男は。話し合いも他人に向き合うこともしないこの男は。それが彼なりの誠実さなのかもしれないけれど。
尊敬してくれるのも嬉しいけど、もっと近くにいてほしい、という気持ち。尊敬なんていらないから、うそ、少しは欲しいけど、でももっとあなたの生活の話して笑ってくれてたらべつにそれでいいから。
6年かけて、当時のわたしが彼に抱いていた感情が彼の居心地を悪くさせていたことに改めて申し訳なくなる。気づかないよりもましだけれど。



筋肉がつきすぎてる男も好きじゃないし、ちんこがすぐ勃ったり萎えたりする男も好きじゃないし、女の扱いに慣れすぎている男も好きじゃないし、めんどくささに向き合わない男も好きじゃない。
もはや好きじゃないところの方が今の彼の大部分を占めているんじゃないか。
でも、自分の輪郭がまだ全然ぼんやりしていて不安で迎合することしかできなかったときに、わたしが一番面白い他人だ、この人の脳味噌の中身を知りたい、この人の思考を知りたいもっと話したい、この人のそばにいたいと強烈に思ってしまったから、殿堂入りを果たしてる。この男だけが。


だから文面でごりごりの方言や笑を使われても許しちゃう、好感度も下がらない。殿堂入りしてるから。
彼以上に顔がよくても背が高くても(やはり180センチ以上の男は嬉しい、ヒールを履いてもちゃんと女の子の気分のままでいれるから)、もうわたしはわたしの輪郭をある程度持っているから、わたしが一番大事で価値があるとわかっていて、あまりにもかわいいから、もう誰も殿堂入りはできない。と思う。たぶん。


この男がどう劣化しようがどれだけ魅力的でいようが、変わらず好きだ。
どこにも沈まず、すんとした顔をして健やかに生きていけますように、と祈ってしまう。
おまじない、を御呪いと書くことを大晦日の晩に知った。祈りと呪いは似ている。それでいくと、もはやこの男は永遠に変わらず少しだけ満たされないまま生きていってほしい。わたしと結婚するか、もしくは、それが最近の悩みなんよなあ、と言った悩みが解消されることもなくほんの少しの欠乏感に悩んだまま生きてほしい。


べつになにも不幸になってほしいわけじゃなく、俺も愛を知ったよとかそんなつまんないハッピーエンドはやめてくれってだけで、顔のいい男特有の一抹の寂しさを永遠のお供にして生きていってほしい、それだけのことだ。愚かでかわいい男。わたしの元神さんだった男。


あの頃の感情とは違う。盲目的に求めることもないし、必要だとも思わない。
だけど、これだけ遠くまできても、それでもあの深夜のグラウンドに忍び込んで話していたときと同じ、見ていたい気持ちは尽きない。
やっぱ殿堂入りしてる男はつよいんだよな、おまえが俺のナンバーワン。
また数年後に会いましょう。


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