声
下を向いて歩くのも、たまには悪くないよと、つぶれたてんとう虫が教えてくれた。
てんとう虫は高く飛んでいけたでしょうか。
前向きか、後ろ向きかなんて、気にしすぎない方がいいですよと、干からびたミミズが言った。
ミミズは、何が気になったのか。
人は、色んなものを言葉にのせて運ぶんですよと、コウノトリが呟いた。
私は何を乗せて運びたいだろう。
日記は、今日の自分が明日の自分に残す遺言なんですよと、万年筆が口走った。
今日の自分は、昨日の自分の遺言に耳を傾けたでしょうか。
先が見えないのは不安ですが、そう悪いものでも、こわいものでもないですよと、モグラは目をつむっていた。
モグラさん、何が見えますか?
隠れた表情を、感情を僕は見たよと、マスクが励ました。
一緒になんとか乗り切ろうと、返事をした。
マスクの下の物語をたくさん読んでみようと思う。
カーテン。葉桜。秒針。洗面所に落ちた髪。にわか雨。
声がする。声を聞く。