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はっきり言わない君が好きだった

蚊取り線香に息を吹きかけるのが好きだった。
目が覚めたように速度を増して燃え尽きていく様子を見るのが好きだった。

その頃、目玉はビー玉だった。透き通った宇宙のようなビー玉だった。
今ではすっかりすりガラス。

蚊取り線香の燃え殻。
渦巻き崩す寸前、悪あがき。
さらさらぽとっ。すっかり灰色燃えカスが、ふわふわと冷たかった。

あの頃、蚊取り線香からのぼった煙。静かに名残惜しそうに。もっといればいいのにと思ったけど、煙は確かに消えていた。
今は見ても煙が消えない。
私の目玉はすりガラス。

あの頃、花に惹きつけられた。ミツバチ、蝶々が花にそうなるのと変わらなかった。
今はどこを飛ぼうか目がくらむ。

蚊取り線香の燃え殻が好きだった。
冷たくて優しかった。
いつか綺麗な燃え殻になれたらいいな。

はっきり言わない君が好きだ。