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帰り道

「奇跡」や、「努力は報われる」という言葉をあてにしなくなったけど、そういうことはあるんだなというのも分かっている。

住宅地を自転車で割って走り帰るとき、換気扇から溢れた暮らし。
となりにいるのは白ごはん、煮詰める匂い。人の疲れを洗い流した、もわっと重たいお風呂の匂い。

庭先の紫陽花。

出迎える不在票。

背中で音を受け止めて、振り返って、かける鍵。

「ピンチはチャンス」と言った人がいたけれど、強い強い、と思います。
ピンチはピンチ。
ピコん、ピコん。

廊下の暗みに当たって響く足音と。
脱ぎ捨てていく仮面とよろい。
鏡に映るしなびたキノコ。

寝室は電気もつけずに眠りに一直線。

回らない頭に、雨音だけが流れ込む。

奇跡は信じないのに、明日も同じようにいてくれることは都合よく信じ、今日を終えて、昨日の枠にしまい込む。

いなくなる時は教えてほしい。

そう上手くはいかないだろうか。

なんだか今日の天気みたいだね。