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『鎌倉殿の13人』─ちょっと贅沢な望み。

『鎌倉殿の13人』において、好きな回をあげてくれと言われたら、私は以下の3話を真っ先に挙げます。
・第23話『巻狩』
・第33話『修善寺』
・第39話『穏やかな一日』

私は日本史のなかでも鎌倉時代〜室町時代が昔から苦手で、鎌倉幕府を開いた人物として頼朝のことは知っていても、その子である頼家や実朝へのイメージはほとんどありませんでした。いや、むしろイメージ以前の問題……ひどい歴史感。
そういう意味では、頼朝が死んだあとの『鎌倉殿』はどうなるんだろうと密かに思っていました。ひとえに、私はついていけるか?という心配です。頼朝や義経あたりはなんとかついていける。そのあとはどうなる。どうする鎌倉殿。

結果から言えば、まったくの杞憂に終わりました。
もちろん大河ドラマは創作の世界ですから、それが必ずしも史実(史実も時代によって解釈はかわりますが)とは思いませんが、頼家も実朝も私のなかですっかり「ひとりの生きた人間」としてイメージが立ちました。それだけでも私にとって、このドラマが素晴らしいものであったことの証。なぜなら大体のドラマは、そうなる前に離脱してしまうんです(すいません)。
史実は置いといて、ドラマを観ている限り頼家も実朝も、未熟で繊細な部分はあれど上手く成長すれば(周りが育ててあげれば)立派な鎌倉殿になったんじゃ……?ということでした。だからよけいに早逝が切ない。そういう描き方は、三谷さんのこだわりだったかもしれません。
おかげさまで、百人一首に実朝さまの歌がある!ことにも初めて目が向きましたし(学生時代はただただ暗記しただけだった)、修善寺なんてこれからは頼家さまを想って咽び泣きそうな勢いです。
ドラマってすごいです。あんなに頭に入らなかったのに、多分もう忘れない。


さて、そんな素晴らしいドラマだったからこそ、「惜しかった!」と思うところもあります。

個人的には、実朝さまの描き方にはもう少し違うやり方があったかなーということです。和歌などの文化的力で後鳥羽上皇と信頼関係を築いたこと、それが鎌倉幕府の安定的運営におおいに寄与していたことは、もっと明確に描いても良かった。
それが描かれていれば、実朝を喪ったことが鎌倉と朝廷の関係を不安定なものにし、御家人の不満が義時に集まる→承久の乱への布石へとなったはず。
また実朝の思い描く安寧の世についてのビジョンを泰時と共有するシーンが欲しかった。そうすれば、泰時がのちに目指す政治のあり方に、実朝の想いが生かされていったと暗示できたはず。
頼家については、蹴鞠に執心して周囲からよく思われない描写がありましたが、これはのちに時房が後鳥羽上皇と対峙するときに回収されました。しかし実朝の歌や安寧の世を願う気持ちが宙ぶらりんのままになったのはちょっと寂しい。
西に御所を移したいという意向もだいぶ唐突で(ここは完全に三谷さんの創作らしい)、なんでかというと、劇中「父上の作った鎌倉を、源氏の手に取り戻す」と宣言した実朝が御所を西にと考えるとは思えないから(その伏線もない)。実朝と義時の亀裂を決定的にしたかったのなら頼家の死の真相で充分だったのではと思うし、頼家を思う気持ちもふたつみっつ口にしてくれてたら良かったかも。
などなど。

思うに40話以降、役者さんは相当、キャラクターの咀嚼に苦労したのではないかと思ったりします。特に義時、政子、実朝、泰時は役者さんの力量で押し切ったようなもの(なかでも実朝と泰時はだいぶ繊細な舵取りが求められたでしょう。そこは本当にお見事でした)。
欲を言えば、実朝が学問所を開いたところ、歌会を開き鎌倉の文化面を押し上げていく描写が欲しかったことと、終盤においては、
・和田朝盛(実朝の恋の相手でなくともいい。恋バナをやりとりするクラスメートぐらいの気さくな感じで)
・伊賀光季(義時と案外ウマが合う設定だったらどうだろう)
・北条重時(政村ぐらいの、いることを匂わす程度で良かった)
・北条時氏(義時と孫の絡みが見たかった)
の4人ははっきりと登場させてほしかったかなあと思います。贅沢ですね、わかっています(笑)
あとできれば、泰時と初の離縁も描いてほしかった。史実では離縁の理由がわからないそうですが、おそらくこれは当人たちの問題ではなく三浦方の都合ではないかと勝手に想像しています。でないと矢部禅尼(=初)は再婚相手(三浦一族)との子どもを北条の味方にはつけないでしょう。
劇中の初なら時氏の顔を見にふらっと泰時邸に来そうだし、泰時の新しい奥さんとも仲良くなって、泰時をいい意味で困惑させそうです。まあさすがに、話の主軸が泰時に移り過ぎるでしょうか。
(できればが多過ぎる!)
かつて『草燃える』を見ていた三谷さんが、「僕ならこう描く」と思っていたのと同じことを、私が思っているのも不思議な気がします。私は脚本家には到底、なれませんが……。

というか、この時代が全然わからないと言いつつ、今となってはこの4人の名前がつらつら出てくるとは。
この人たちがいてくれたらなーと思うのも『鎌倉殿』のおかげ。
『鎌倉殿』すごい。


ともかく『鎌倉殿』は、キャスティングがとにかく神がかっていて、当分はこのイメージのままでいい、と思うぐらいです(こんな気持ちは『独眼竜政宗』以来かもしれない)。だから余計に、このキャスト・スタッフでもっと描ききってほしかったと望んでしまうのかもしれません。贅沢!
せめて50話欲しかった。最後は90分スペシャルでよかった。
尺が足りなさすぎた。
もちろん、40話以降のあれこれを夢想してしまうことを差し置いても、2000年代の大河のなかで傑出した作品になったことは疑いようがありません。私のなかでも限りなく1位に近いTOP3に君臨します。とても贅沢な1年でした。
だからこそNHKさんにお願いしたい。最終回以降のスピンオフをぜひに。そしてそこで、泰時のなかに実朝(と頼家)が生きていること、それが新しい世に繋がっていくことをぜひ描写してほしい。

などと、そんな願いをひっそりと込めて。


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