おけけパワー中島は傲慢なのか

例によって今最もアツいムーブメントの一つである通称おけパの話なので、あらゆる序文は割愛して一話のリンクだけ貼る。

前提としてこれを書いている人間、即ち俺は作中のどの登場人物にもあまり立場からの強い共感というものを抱いていません。なので、オタク・実体験に基づく感情の話が出てくることはあってもそこメインの話ではないことは事前に明記しておきます。(念のため言っておくのですが、散見されるような強烈な共感体験こそ無いけれど作品自体はこんなふうに筆をとるくらいにはたいへん楽しんでいます)(共感はコンテンツを楽しむためのマストアイテムではないため)これ序文じゃね?


そんなわけで、おけパことおけけパワー中島の話をします。すごくない?この名前だけでも既に絶妙に"いそう"な存在感。実際"いる"んですよね、ノリとフットワークが軽く、コミュニケーション能力が高く、そのため不特定多数からわりと理不尽に疎んじられている存在。おけけパワー中島に限らず七瀬、友川、ROM専の彼女、そして神と崇められる綾城さん、それら全てが強い実在性をもって描写されている。その上で七瀬友川はその創作を認知され、ROM専の彼女は推しジャンルの供給に恵まれるといった具合に毎回きれいな創作讃歌オチに纏めてくる(と俺は感じている)からウワ漫画うめ〜〜なオイ!!!!!!!!!!!!!!!!と唸ってしまうんですが、今回の主題はそこじゃないのでこの話おわり。

当然ながらこの世の誰もが七瀬でも友川でもROM専の彼女でも綾城さんでもおけけパワー中島でもないのだけど、描写がうまい・扱ってるテーマが多くのオタクにとって身近でリアル・登場人物も実在性が高いの三拍子で俺は七瀬だ友川だ、あの人は綾城さんだおけパだという圧倒的な現実感が生まれているのだなァ〜と昨今のムーブメントを見ていて思う。特におけパは単語のパワーが強くて(オタクは強い言葉に弱いと藍染惣右介も言っている)(言ってない)おそらく多くの人が「いる!」と認識できる人物なので多くの言論が飛び交っていますね。憑物落としじゃん。オタクの感情すったもんだを見るのはたいへん楽しいな……

で、やはりというかそういう自身の体験や共感に基づいた感覚でおけパをどうしても受け入れられない、いい奴とは思うけど自分は無理、嫌なやつであって欲しい、等々のネガティブな感想もそこそこ見かけるわけです。実際そう言われているのを見ると実在性の担保が激しいぜ。その中に「おけパは他人にマウントを取っている、傲慢だ」という意見がある。友川の話のおけパの「KTGのオタクは綾城さんに布教した自分に感謝してもええんやで」というツイートに対しての反応ですね。これが俺は無性に気になる。ムカつくだとか強い感情は起こらないんだけど、何だか引っかかる。というわけで、作品を考察するという体でこの引っ掛かりを吐き出したいわけです。つまりは宿便に浣腸ですね。比喩が汚えんだわ

さて、おけけパワー中島は傲慢な人物なのでしょうか。(主題)


まず前提となる傲慢の語義を確認しておくと、みんな大好き広辞苑には『おごり高ぶって人をあなどること。見くだして礼を欠くこと。』とあります。さすが広辞苑先生は何でも教えてくれるぜェ〜!
先述のおけパのツイートだけを抽出すると、KTGのオタクたちに対して私に感謝してもええんやで?と声高に語る姿はなるほど「傲り高ぶり、人を侮り、礼を欠く」と言っても差し支えのないものと言えるかもしれません。流石に見下してはいないが。
しかし、Twitterの一ツイートを抽出するだけではそこに含まれる意図や文脈というものを汲み取れないものです。Twitterってそういうとこ(特定の発言だけを切り取られた結果、全く違う方向に読み取られること)あるからな。ですが生憎おけパの他ツイートは友川の目に入っておらず、読者にはおけパのツイッター=綾城さんへのリプと例の発言でしかないので推測するしかねえ。ところで特定のキャラクターの視点で明らかに情報に偏りがある描写いいよね……閑話休題

ここでおけパの作中での動向を振り返ってみましょう。
①綾城さんの小説にめっちゃ笑ったwwとフランクな感想リプを送る。七瀬はそれに「おけけパワー中島さあ……」と内心恨みがましい感情を向ける。
おけけパワー中島、その誕生の瞬間である。祝え!
綾城さんはそれに対して好意的なリプを返しており、この時点でおけパのノリを完全に把握していることが窺える。
Twitter上にて件の発言をする。憧れの綾城さんが推しジャンルから離れつつあることに内心穏やかではない友川はその発言を見て阿修羅と化す。
そしてそんな友川が綾城さんを取り戻すために(オタク・論理飛躍)書いた小説を他でもないおけパが称賛し、彼女経由で綾城さんの目にも留まることになる。ここで綾城さんとおけけパワー中島は作業通話する程の仲であり、相手に届いた毒マシュマロなどを気にかける関係であることがわかる。
綾城さんと電話番号を交換しているし気軽にかけ合う仲、サイト時代からの縁、「私の友達」などの関係性ラッシュ。プロボクサーのジャブもかくやの関係性ラッシュ。ここで何気に七瀬の「おけけパワー中島さあ……」が完全に叩き伏せられる形になってるの、凄まじいものがあるな(感想)
更には綾城さん本人は現物はおろかデータすら残していないコピー本を大事に持っており、それを読みたいと言う見ず知らずの人間のためにおよそ50Pの本をわざわざスキャンしてデータ化し「彼女の小説は最高ですよね!楽しんでくださいね!」という一言を添えて送るというかつてない存在の実感を齎してくる(感想)このシリーズでおけパが第三者にとってポジティブな存在になった初めての事例である。

人によって感じ方は違うだろうが、七瀬や友川の主観を除いた上記の行動から感じられるおけけパワー中島の人物像はノリが軽く、好ましいと思うものに意思表明をすることに躊躇いがなく、それを人に勧めるための労力を惜しまない、綾城さんの数年来の友人といったところじゃないでしょうか。一方で発言のノリがだいたい軽いので人によっては(特に、彼女に好意的でない人間にとっては)癇に障ることも多そうだな、といった印象も持てる。しかし、少なくとも表立って他人にマウントを取るタイプの人間ではないことは確かでしょう。
では、Twitter上のあの発言は何なのか。

話は変わりますが、俺は最初に「あまり登場人物に立場上の共感はしていない」と書きました。ですが幾つか強烈に"それ"を感じる部分があります。
3話のROM専オタクの話の後半に、彼女の何がなんでも本が読みてえ!という執念のネトスト行為により生まれたご機嫌なツイッター相関図がありましたね。オタクは多様な感情が好きなので(巨大主語)当然あのウキウキ相関図もウキウキウッキッキで見てたんですが、この中にこういうのがあったわけです。
"みんながこいつの解釈につられるので内心恨んでいる"
わかる。
感情が出たので太字をキメてしまった。
この感情を向けられているほうは一風変わった解釈の二次創作をするカリスマ的なオタク(なのでどれだけ変わった解釈だろうがそれにつられる人間が多くいる)(実際いる)(ほんとにいる)、向けているほうは明言はされていないが恐らく自分の中にこれという解釈を強く持っていて珍妙な解釈違いが流布されることに大変苛立っているオタクといったところでしょう。どうしようもないのでミュートかブロックして引き籠った方がいいぞ(オタク・経験談)
このちくわアイコンの人は自分の趣味で変わった解釈の二次創作をしているに過ぎないのだが、なまじ影響力が強ければ強いほどそれは広く膾炙する。変わった解釈が広がっていく。自分の中の解釈に強い拘りのあるオタクにとってはたまったもんではないんだな。
そういう一種のカリスマ性はある人間に対してあの手のオタクが思うことといえば「頼むから黙っててくれ」「頼むからこっちに来ないでくれ」あたりでしょうか。解釈が変なオタク、俺の推し作品の話をするなと思ってしまう。
(分かりきったことでも一応書いておくが、二次創作は人の自由なので変な解釈の創作をしようが存在しない属性を付与しようが性別が変わろうが年齢が変わろうが世界が変わろうが何もかも自由、更にはそれを盲信するのさえも自由であり、それこそ公式にしかそれを否定することはできないのである。その上で個人の好み解釈拘り性癖があるだけである。なのでこれらは俺の感情でしかなく、正当性のない発言であることは留意頂く)

以上俺の感情劇場でしたが、逆ならどうでしょうか。
解釈が信頼できる。創作が素晴らしい。最高の悲鳴を上げて、最高の作品を書き上げてくる。そういう、自分にとってたいへん好ましいオタクに自分の推し作品を履修してほしい、推し作品の話をしてほしいと思ったことはないだろうか?
俺はある。めちゃくちゃある。俺は二次創作をあまり積極的に摂取しないので素晴らしい創作をしてくれる人というよりは解釈が信頼できる人にそういう感情を抱くが、おそらく感覚としてはほぼ同じなんじゃないかな。
そしてそれに成功したとき、好きなオタクが好きな作品を履修してくれたとき、更には感想であり作品でありそれに纏わる何かを発信してくれたとき、人は何を思うのか。人によりけりでしょうが、俺はこうです。
「やった〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!最高〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!優勝〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!俺は間接的に世界に貢献したから世界で二番目くらいに偉いし全人類は俺を讃えろ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
傲慢を司る悪魔か?
一応言っておくんですが、マジで全人類に対して俺を讃えろとか思ってません。当たり前ですけど。信頼できるオタクが勧めた好きな作品を履修してそれに関する何かを発信してくれた喜びで有頂天になって、勧めた自分は間接的に世界に貢献したな……と自己肯定感がバカ上がりしてる状態、というのがこれです。
おけパの例の発言もそういう流れであると推測します。おけパ本人が誰よりテンション上がってるんだろうな。
これを傲慢と呼ぶのか?という命題に対しては、「誰も見下してはいないが傲り高ぶってはいるので、まあ傲慢と呼ぶこともできるだろうな」くらいの答えがちょうどいいかな、と思う。


ここでもう一つ疑問が生じます。おけパはそれを取り沙汰されるほどに傲慢なのか?

前提をもう一度整理してみましょう。
・おけパと綾城さんは数年来の友達である。一方で友川はその両者ともと繋がりはなく、少なくとも話の終盤までは認知もされていない。
・件の発言はおけパのTwitterから、特定の誰かに対するリプライではない、通常のツイートの抜粋である。
・友川は綾城さんが推しジャンルから離れつつあることを危惧しており、その折にたまたま例のツイートを発見した。

ここで特に着目したいのが、「例の発言はTwitterからの抜粋である」という部分。
人によって様々なTwitterの使い方があるだろうが(それこそROM専の彼女のように、やろうと思えば探偵かなんかのような使い方だってできる)多くのオタクにとってはなんとなく気になった人や好きな人をフォローし、同じようにフォローされ、たまたま繋がってたまたま仲良くなった人と交流したりしつつ基本は独り言、というゆる〜いツールなんじゃないかな。そうであってくれ。
そして、おけパはまさにこういうスタンスでTwitterをしている人間のように思われる。仲のいい友達に気軽にリプライを飛ばし、人の創作を見てあれが良かったこれが良かったとはしゃぐ。そんなオタク。

さて、件の発言。上記のスタンスでTwitterをしていると仮定すると、おけパのリプライを除くツイート群は彼女にとって「自分を知った上でフォローしている=自分のノリをある程度把握しているフォロワーの目に入る独り言」という位置付けになるでしょう。そしてツイート中に名前が出ている綾城さん本人は、言わずもがな数年来の友人であり相当気やすい仲。本来であればテンションが上がったオタクの軽率なツイート、でしかない。
しかし運悪くこれを観測してしまった部外者(と書くと悪印象かもしれないが、実際部外者なので敢えてこう書く)がいる。友川である。
友川はその時偶然にも綾城さんがジャンルを去るかもしれないという不安に駆られ戦々恐々としている状態だった。そんな中で綾城さんが他のジャンルに移行する切っ掛けとなったであろう人物がその旨を語っている、見る人によっては絶妙に苛立ちを感じる語り口のツイートを観測してしまったのだからまあ修羅にもなるだろうな、と理解できちゃいますね。描写がうめーので。向こうの動向を探っていればいずれ辿り着く場所ではあったけれど、いずれにせよ間が悪い。


では、この友川が被った被害(と言うには身勝手な話だけど)の原因はおけパにあるのか。

断言してしまうが、答えは絶対にNO。あれは友川個人の問題でしかない。
まず綾城さんは別に勧めてきたのがおけパだからKTGにハマったわけではない。勧められたのは切っ掛けにすぎず(その勧めに乗って履修しようとしたのは彼女たちの交流の年月と培った信頼の賜物であろう)、面白いから、趣味に合うから好きになって創作を始めたはず。好きじゃないと創作が書けないとは言わないが、綾城さんは好きだからこそ創作をしているというのは明らかだし。そんな個人の感情に第三者が苦しんだところでどうしようもないし、誰のせいでもないのです。綾城さんは人間なので。それ以前にオタク友達に推しジャンルを布教することを第三者が糾弾する事なんてできないからね。
そして例のツイートも、おけパ本人は身内ネタ程度の感覚で呟いたに相違ないよくあるオタクの誇大ツイートでしかないのです。本来ならばおけパを知っている彼女のフォロワーにさらっと流されてTLの波に消えていく数多のツイートのひとつ。第三者である友川があのタイミングでそれに直面して瞬間的に修羅と化してしまったのは、言ってしまえば向こうから勝手に激突してきて、勝手に重傷を負ったみたいな話じゃないですか。強いて言うなら不幸な事故。


こういった話をしているとまたひとつ新たな疑問が生じます。じゃあ、本当に「傲慢」なのは友川なのか?

「布教したジャンルに友達がハマってくれたことで有頂天になってたいへん傲り高ぶったツイートをする」人間と「一方的に追いかけていた人が推しジャンルを離れていくのが苦しく、そのきっかけになった人物に怒り/憤り/対抗心を向ける」人間ではどちらが傲慢か。たいへん難しい問題です、個人の感性や視点によってその尺度は変わってくるでしょうから。七瀬も加えれば更にややこしくなる。「一方的に追いかけている人の作品に向けられた感想を見下し、軽蔑の視線を向けてしまう」はかなりストレートな傲慢しぐさでしょう。自分が一番この人の作品の良さを理解している、自分が一番の読者だという傲りがなければまずそんな発想には至りませんから。当のおけパは綾城さんと数年来の付き合いでコピー本も持ってるわけだが……


おけパ、七瀬、友川、彼女らはみんなまるっきり違うタイプの違う人間です(綾城さんやROM専の彼女も当然そうなのだが、今回の話題ではあまり取り上げなかったので割愛する)。そんな彼女らに共通することのひとつは、彼女らはみな、人並みに傲慢であるということではないか。人並みに、というのはつまり平均値ということだが、これは程度の問題というわけではない(それこそ個人の尺度なので)。対外的な部分とでも言おうか。

おけパはそもそも作中で極端に理不尽な思考も言動もしていない(今のところはほぼ第三者に語られる概念なので、そりゃそう)し他者に否定的な感情を抱く描写が"無"なので論外として、七瀬も友川も己の感情の理不尽さに自覚的です。七瀬は即座にこれは良くない感情!と自分に言い聞かせているし、友川もおけパ本人に凸したりはしなかった。
そもそもその気がないにせよ思い留まるにせよ、彼女らはみな己の傲慢によって他者を害そうとしない。おけパは変わらず喜びの中で愛する創作者を思いのままに称賛し続けるし、七瀬友川は負のエネルギーを創作にぶつける。どのような動機にせよ、心血注いだ作品が最も届いてほしい者のもとへ届くのは福音だし、この作品に込められているのはそれではないかと俺は思っている。(あの人に認知されたい!あの人を取り戻したい!という感情で創作するのは実際不健全ではあるし届かないことのほうが多いのでお勧めはできないのだけど、七瀬も友川も報われているし、仮に報われなかったにせよそれを周囲にぶつけるようなことを彼女らはしないだろう)
ここで言う平均値とはそれである。ほとんどの人間はさまざまな尺度の中で多少なり傲慢な部分があるはずなんですよ。それを自覚するか。自分の中で留めるか、昇華するか、他者に攻撃的にぶつけるか。平均的な人(と信じたい基準)とそこから外れてしまう人間の分水嶺ってそこじゃないかな、と俺は思う。

傲慢さが疎んじられるのは何故か?それが人を傷つけるからだ。だからこそ「友川を傷つけたおけパの傲慢」が話題に出されることもあったんでしょう。これに関しては先述した通りですが。


えらい長くなりましたが、ここまで読んだ人間いるんだろうか。最後尾までくるとほぼ前人未到の秘境だよ。
主題に対する俺の回答は「おけパも人間だから人並みには傲慢なところはあるけど、そこをピックアップして取り沙汰されるほどのもんじゃないよな」となります。多分あのへんに過敏に反応するオタク諸兄は視点がかなり友川寄りなんだろうな〜と思った(これは非難ではなく感想です念のため)。
ご清聴ありがとうございました。


ところで例の相関図の双子の姉妹まわりの話5000ページくらい読みたい(強欲)(色欲)(暴食)

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