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シティズンシップ教育と教師のポジショナリティ①

シティズンシップ教育研究会にて、望月先生の「シティズンシップ教育と教師のポジショナリティ」を読みはじめました。

内容について

シティズンシップ教育における教師の役割と実践構図を明らかにする。教育実践を通して、どのように生徒にシティズンシップを育んでいくのか。その過程を追いつつ、市民としての教師の役割を描くとともに、学校カリキュラム改革への道筋を分析する。(Amazonから)

著者について

望月 一枝 (もちづきかずえ)
1948年生まれ。2011年お茶の水女子大学大学院人間文化研究科人間発達科学専攻修了。博士(社会科学、お茶の水女子大学、2011)。現在、秋田大学教育文化学部教授(Amazonから)

もともと高校で家庭科の先生をされていた方のようです。
現場では家庭科・生活指導を主なフィールドとしてシティズンシップ教育を実践されており、教科教育教員養成などにも広く携わられているということです。個人的には関心領域が近いのかな?という印象を受けました。

https://research-er.jp/researchers/view/362586 (プロフィール詳細)

望月先生のシティズンシップ観

望月先生が目指すシティズンシップ概念とは、

ケアが必要な者が放置されない仕組みを探求する新しい社会性 -p21

としています。
シティズンシップを「市民性」や「市民権」ではなく「社会性」と表現しているのがポイントかもしれません。

そして目指す市民像を、

シティズンシップ(社会性)を享受し、政治参加の権利あるいは義務を持つ者 -p21

と定義。

これにより子ども・若者(おそらくここには「教師」も含まれると思います)に身につけさせたいシティズンシップを

・危機に対応する社会性と政治性を持つ
・子どもと若者の困難を直視し、具体的な他者に応答する

と言及しています。


社会科・家庭科・生活指導

望月先生は、この3つの教科から以上のシティズンシップ教育を推進する際の特徴と課題について述べています。

社会科
・現行の学習指導要領では、ある種「ナショナル・アイデンティティ(愛国心)」の醸成がうかがえる**
・科学的社会認識形成から価値・意思決定へと踏み込むか否かの(知識or社会参加)論争がある

家庭科
・私的な「家庭生活」を対象に学ぶ教科であり、「家庭生活」は地域や社会と密接な関係性を持つ
・近年イギリスなどから「家庭科とシティズンシップを関連づける教育(PHSE)の研究」が行われてきた**
PHSE…Personal,Social,Health,Economic education(人格的・社会的・健康・経済の教育)のことで、2011年にイギリスで必修化の動きがあったが実現せず。教科のカリキュラムだけではなく、科目横断的に実施することが求められています。いまの日本でいう「SDGs(17の持続可能な開発目標)」みたいなものに近いかもしれません。

・家庭科では生徒が自分の生活経験から議論に参加でき生活を問いあうので、正解を求めない公共的空間が構成できる可能性がある

(↑この部分に関しては、「いや、これは発問を工夫すれば社会科でもできるよ!」とツッコミをいれたくなりました。)

生活指導
・生活指導は、戦前の道徳教育が国家の強い統制のもとで進められていたことに対して、子どもの実生活に根ざして軍国主義や封建的な道徳から解放していくことを目指していた

・生徒が生活現実に取り組むことによって、生活のなかに閉ざされていた自我を奪還し学校や社会を変革していくという実践論がある

これら3つを踏まえて、家庭科・生活指導に着目してシティズンシップ教育を行う意義を、

私生活を対象として、生活を掘り起こし解決の方向を模索しつつ、新たな生活や生き方を喚起する特徴がある

家族・家庭を扱う科目のため、次世代の家族支援をも視野に入れざるを得ない

文化を再創造する内容と活動がある

としています。

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「社会科から離れた場所にいる先生から見ると、こういう認識になるのか〜」という驚き。

「私的領域」というものを、どう定義しているんだろう。もしそれを「高校生の生活圏内」とするなら、そこからアクセスできる経験だけで「ケアが必要な者が放置されない仕組みを探求する社会性」って身につくんだろうか。
たとえば群馬の奥地にいるロヒンギャ難民をどうやってケアすればいいか?といった問いを高校生は考えられるんだろうか。
そもそも、身につけるべきシティズンシップ(社会性)を「子ども・若者に関わることだけ」に限定してしまっていいのだろうか。(私にはそう読めてしまった)ここから派生していくよね、ってことなのかな。


長くなってきたので続きはまた今度〜
次は「教師のポジショナリティ」についてまとめる予定です。

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