学祭本2015感想①

千歳の魔縁 感想

 全体的な感想から言うと、面白かった。人外が集まって戦う設定がすごく好み。ウルカスレイヤーって感じだった。ウルカが出て、殺す。心なしか忍殺っぽい表現もあった気がする。「今日は何もなかった。いいね」とか「なんたることか」とか。

 ウルカは鳥モチーフの超人みたいなイメージで、なおかつバトルシーンがスタイリッシュに見えたのですごくヒーローものっぽい印象を受けた。トウマがダークヒーロー的なのもその一因かもしれない。仮面ライダーは全く見たことがないけど読んでいる途中、随所随所で仮面ライダーってこんな感じなのかなと思ったりもした。

 頭の中で組み上げたウルカの容貌がとてもカッコイイ、というのに加えてそれぞれのウルカが色+鳥で分けられているのが非常にわかりやすい上に端的にビジュアルイメージを表現できているのが最高に良い。この辺がウルカという設定を好きになった理由だと思う。わかりやすくかっこいい、というのは意外と難しいんですよね。

 バトルシーンについて。人外同士の戦いだけど特殊なスキルなどはない真っ当な格闘戦という感じ。こういうシーンを書くときはおそらく頭の中で色々キャラを動かしてみたり実際に自分で動いてみたりすると思う(自分はそうやる)んだけど、ここで作者と読者が完全に同じ動きのイメージを共有する、というのはほとんど不可能なのではと思ってしまう。というのもバトルシーンは大抵スピーディーに展開していった方がかっこいいので動きに次ぐ動きが描写される。読者もそれにつられて立ち止まらず一息に読む。そうすると実は何が起こったか完全に把握できておらず結果だけを見てなんとなく読み進めてしまうことがあるんじゃないだろうか。今回の作品の戦闘については割とわかりやすい方だと思ったし何が起こったかかはだいたいわかったのだけど、それでも「完璧な理解」ができた気はしない。もちろん完璧な読みをする必要は必ずしもないだろうし、それを求めようと読解にこだわってしまって、物語全体の読みのテンポを悪くするのも本末転倒だと思うけど、作者が「このシーンは特によくできた」と思っている部分をなんとなく読み飛ばしてしまっていたらすごくもったいない気がするのでバトルシーンの読み方について他の人の意見を聞きたいと思った。

 ストーリーについて。それなりの文量だしちゃんと最後まで読ませる話になっていた。終盤の黒VS白はなかなか熱くて良かったし、そこに至るまでの前哨戦等の過程もラストに向けて必要な手順をしっかり踏んでいるように思えて良いぞ良いぞって感じ。ただ突っ込みどころもそれなりにある。

 トウマとタツミの対立はそれぞれの考えがはっきりしているので話の軸としてわかりやすくできているけれど、その中心にいるチトセがどうしてもそこまで重要な人物に思えないのは、自分だけではないような気がする。いなくてもいい、まで言ってしまうと言いすぎになるけどチトセ視点パートはなくてもいい、くらいまでなら言いすぎじゃないと思う。チトセに対するトウマとタツミそれぞれの思い入れを、二人が戦うための動機と割り切ってしまえば、チトセが「何世代かに一度現れるウルカにとって異様に魅力的な人間」くらいの雑な設定でも自分は許せるくらい。タツミ側にもある程度チトセにこだわるエピソードに描写を割いているからこそ、トウマ対タツミが単なる善悪の対立になっていないというのはわかるのだけど。もう少し簡潔にできる気がしているのも確か。ギターやバンドなど、音楽が割と意味を持つ要素として出てくるのがあまり好きでないのもチトセパートに対する不満の一因かもしれない。個人的には文字と音楽の相性って良くないよなと思うけど作者は音楽絡めるの大好きみたいだし、まあ感覚の相違ですね。

全体の流れとはあまり関係ない部分だけどウルカの身体のカラクリが解説されるシーンで捕まったコウジがぺらぺら教えてくれた、っていうのはなんだか締まらない感じだなあと思ってしまった。個体差と言ってしまえばそれまでだけど、ウルカはそんなこと言わない!ってなる。

ネーミングについて。京王線ユーザーにしか伝わらない名前はけっこう好きなんだけど、それだけにこうすればいいのに!と思う点も多々。完全に個人の好みの問題。

井の頭線含めたら神泉とか久我山とか強そうな名前はもっとあるけど、本線に限っても国領は強そうだしどこかしらで登場させてほしかった感ある。高幡と稲田もセットみたいな感じで出てくるけどどうせ対にするなら「高幡&不動」か「稲田&堤」の方が良くない!?って100回くらい思った。明大前も大前アキラでいけるで!って1000回くらい思った。上水サクラも嫌いじゃないけど自分だったら桜上スイだな!と今思った。

でも烏山チトセは正直うまいことやったな、という感じ。タカオの方も婿入り設定を見てから旧姓は山口で間違いないと確信に至って感心したので、同じモチーフから名前を考えても着眼点はだいぶ違うんだなあと思いました(小並感)。



天気の神さま 感想

 童話と筒井作品のあいのこ、という印象。短いなりにちゃんと話になってはいるけど、実はそんなに良いとは思わなかった。理由はだいぶ感覚的なもので説明がどうにも難しい。いずれにしても作者にしてはイマイチ面白くないな、と思ったのでそれだけこれまでの作品から期待しているものが大きかったのかもしれない。

 「天気に関して人間はかなり勝手なことばかり言ってるよね」というのが話の根幹にあるという前提で考えていく。これが童話だったらもっと寓意的な、直接的な言及を避けつつ物語が展開されるんだろうなと思う一方で、パロディ、社会風刺的な側面が強い話だったら実際に起こった出来事(今回の作品で言えば異常気象関連とか)をもっと直截に出していくと面白かったりするんだろうと思った。自分は時事ネタがけっこう好きだったりするので、題材はタイムリーであればあるほど良い(鮮度が良い)と思うし、固有名詞なんかもどんどん出てきた方が楽しめる。

 その点この話は寓意的ではなく、かといって強烈な風刺もないのでどこか中途半端な感じを受けてしまった。最後の小僧の様子を見ても「せやなあ」ぐらいに思って終わってしまうような。ひょっとしたら「天気」という題材にピンときていないのかもしれない。今年は暑かったけど、あんまりネタになるほどの異常さは感じなかった。それはそれで感覚が麻痺しているのかもしれないけど。とにかく、作者が童話方面にもっていきたいのか風刺方面にもっていきたいのかよくわからない感じを受けた。どちらかと言えば童話色が強いように見えるけど、どっちなんだろう。

 描写についても、序盤は童話色が強い印象で全体的にもそっち方面を志向した文章に思えるのに中盤からオチ手前くらいまで筒井的、ドタバタした感じの描写が続いているように見えた。あいのこ、とは言っても混じり合っているというよりは一つの話の中に二つの要素がバラバラに入り込んでしまった感じ。このくらいの長さだったら雰囲気は統一してあった方が良さげ。「最初と最後だけひらがな多めで後は普通」って印象がどうしても拭えなかった。実際測ったわけではないけど真ん中辺だけ漢字多くない?と思った。

 でも、その真ん中辺りの筒井的、スラップスティック的な小僧の奮闘シーンが個人的には一番好きで面白かったので、単に自分が童話風の雰囲気をあまり好きでないという結論になってしまいそうなのが何とも言えないところ。筒井面白いもんな。

 

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