【感想】苦役列車

「苦役列車」西村賢太著 読了。

 面白かった。芥川賞作品を読むのは蹴りたい背中以来か……? とにかく久しぶり。読み進めているうちに(これは自分にあり得たかもしれない世界線の一つだ……)と思ったら解説で石原慎太郎も同じようなことを言っていた。

 カンタはとにかくクズでどうしようもないが、「地に足の着いたダメさ」というかどこか共感できてしまう節がある。

 最近読んだものの中では抜群に読みやすい文章で、するする読める。冒頭の「しかし、パンパンに~」からもうわかりやす過ぎた。カンタの置かれた境遇を最初に提示してから荷役の場面に入るまでが流れるように頭に入ってくる。描写される情景でわかりづらいものがほとんどなかったので流石という感じ。

 不快・嫌悪を感じる描写はいくつかあって、カンタの女性に対する視線はその筆頭かもしれない。基本的に性的対象としか捉えていないようでモノ扱いというかまあひどい。でもそれは女性のカンタに対する視線の裏返しのようにも思えて、日下部の彼女なんかはまさにそんな感じ。そもそも対等に扱ってないというか露骨に見下しているし、少年時代の同級生女子なんかもたいして違いはないと思う。そう考えるとお互い仕方ないよね、と思えなくもない。自分の中の女子は「こんなひどい事考えるなんてサイテー!」と言っているし、自分の中のオッサンは「男の考える女なんてだいたいそんなもんよ」と言っているのでその辺は見方次第かなと。

 どちらかというと日下部に借金するシーンの方がいやらしい。ちょっと仲良くなったくらいで図々しさ前回になってしまうあたりキツさを感じてしまった。カンタのだめっぷりはこのシーンが顕著に出てると思う。自分はここが一番嫌だった。

 この作品を読んでなんらかの嫌悪感は催さない人はいないと思うけれど、どこに一番感じたかというのは割と気になる点。

 「苦役列車」に関しては日下部との一連の出来事を切り取った私小説、という扱いになると思うけれど、私小説を読んだことがなかったので引っかかる点が少しあった。終わり方があっさりし過ぎというか、普通の物語だったら着地までにいくらかクッションを挟むような感じ。私小説である事で、カンタ=西村賢太の人生はその後も続くことが作中でフォローしなくても作品外で示唆されているように思えてしまってそこにズルさ?のようなものを感じてしまった。いや私小説ってそういうものなのかもしれないので何とも言えない。でもそこがまたもどかしい。私小説というジャンルについて少し知ればまた違った理解になるかもしれない。

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