紫苑ステークスコース論 Ver2023

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紫苑ステークス(中山・芝・内2000m)

コースデータ

・右回り/内回り
・スタート→1コーナーまで 405m
・最終直線 310m
・高低差 5.3m
・最終直線坂 2.4m
 (残180m~70m間で2.2m上り、残70m~ゴール間で0.2m上り)

特徴

・スタート地点はスタンド前の直線の4コーナー側の奥、1800mのスタート地点から200m後ろに下がったところ
・スタートして一瞬下った後、約500mをかけてコーナーに進入しながら高低差5.3mの坂を上る
・1,2コーナーの中間あたりで中山の一番高いポイントを迎え、そこから2コーナーと向こう正面で一気に下る
・向こう正面の途中で下り終え、3コーナーは平坦で推移
・4コーナーの途中から若干の下りがあり、下り切った後は最終直線1F弱で2.4mの急坂

このコースを使用するOP以上の競争

G1
皐月賞(3歳)
ホープフルS(2歳)

G2
弥生賞ディープインパクト記念(3歳)

G3
中山金杯(4上・ハンデ)
京成杯(3歳)
紫苑S(3歳・牝)

OP
芙蓉S(2歳)


コース考察

○外枠が極めて不利

中山芝2000m・補正込み枠順別1着割合(2019年~・1勝クラス以上・16頭以上)
中山芝2000m・補正込み枠順別馬券内割合(2019年~・1勝クラス以上・16頭以上)

 「補正込み」とは、当該コースが最大18頭立てで開催される、即ち7・8枠の出走頭数が1~6枠に比べて多くなることを踏まえ、1~6枠の出走頭数とほぼ同じになるように一定の係数を掛けた後の数字であることを意味する。
 今回の場合、7枠に86%程度、8枠に79%程度の補正をかけている。

 コーナー4つをしっかり回るコースであることや、コースの性質上800mくらいのロングスパートを導きやすい側面から、外を回すと距離が持たなくなるのか外枠の成績が非常に悪い。
 今回調べた条件で8枠から勝ったのは2018年の1000万下で走ったマイネルファンロンと2022年1月に17頭立ての17番から勝ったレイトカンセイオーの2頭のみで、重賞クラスでもイクイノックスなどが高い実力を有しながら8枠に押し込まれて敗北を喫しており、この枠での重賞勝ちは2017年紫苑Sのディアドラ、G1に限ると2016年皐月賞のディーマジェスティが最後になる。

 まあよくよく考えてみれば、このコースから500mスタートを延長した有馬記念の2500mもお世辞にも外枠の成績が良いとは言えないので、当たり前といえば当たり前である。

 コース別分類については、A~Cコースで分けると母数が少なくなることによる揺らぎが生じるのと、分けても大きく傾向に違いが見られないため省略する。

○典型的な足切り型コース

中山芝2000m・全頭脚質分布(2019年~・1勝クラス以上・16頭以上)
中山芝2000m・馬券内脚質分布(2019年~・1勝クラス以上・16頭以上)
内側の円が馬券内・外側の円が総数

 阪神内回りなどと同様に、直線が短くコーナーも緩くないという点から、後方からの馬に勝ち負けの権利はほぼない。もっと言えば阪神内回りよりもその性質が強いため、阪神内回り以上に露骨に位置取りによる足切りが働いている。
 また、逃げ馬もコース性質上2度の急坂超えをハイペースで行わなければならないのが苦しいか、勝率・連帯率・複勝率すべてにおいて成績は良くない。ただ全くダメダメというわけではなく、多頭数であっても単勝回収率は高いので、最後方からしか競馬できない馬とは違い人気薄であればホームラン狙いにはなるものの買う価値はある。

 基本的には位置を取って戦える馬が基本的には好成績。
 ただし注意しなければいけないのは、序盤の不利からの巻き返しが利きづらいコースであるということ。これはこのコースが2コーナーあたりまで上り坂が続き、そのあと一気に下るという性質に由来していると考えられる。
 即ちほぼ全ての馬がここで物理的にペースアップするため、元々捲り気味に上がる馬の強みが活かされづらいということである。
 積極的先行馬の頭数によって変動するところではあるが、どんなに悪くても7~8番手くらいはキープできるくらいの先行力は必要といえ、そういう意味では阪神2000mよりもさらにタフな性質を有しているといえる。


過去の紫苑ステークスラップ推移

 16年ビッシュは後方からじわじわと進出していく捲り競馬で、17年ディアドラは中団やや後ろから進めカリビアンゴールド・ポールヴァンドルとのハナ差を制して勝っているが、それ以降の5年の勝ち馬は比較的前々で進めた馬。
 16年は前半が速くなった分先行勢が潰れ、17年は差し・後方に有力馬が集中した上上がりが重要視される展開になった結果差しが台頭している。

 秋とはいえ世代限定戦であり、能力差が出やすくなっている部分はあり、ビッシュ・ディアドラ共にオークスで掲示板に入っている実力馬だったためこういう形でも結果を残すことができた。
 それ以降の年も、春の牝馬クラシック戦線重賞で全く結果を出せずにこのレースで結果を残した馬は極端に少なく、いわゆる「上がり馬」と呼べそうな馬は20年2着のパラスアテナ(この馬はラジオNIKKEI賞4着はあるが)・21年2着のスルーセブンシーズと3着のミスフィガロくらいしかいない。

 基本的には春の戦線で上位に入ってきていたような馬が順当に結果を残している傾向が強いが、その理由としては春に強敵を相手に揉まれてきたことや、近年の斤量改定により3歳馬が夏に勝ちやすくなっている=馬の強さに関係なく3歳馬というだけで勝ち上がりやすい環境になってしまっていることが挙げられる。

 当然コース的には位置を取れることを重要視すべきだが、これがメンバーレベルの開きやすい世代限定戦であるということを考慮すると、単純に春の重賞戦線での結果を判断材料として強調しても何ら問題はないだろう。

 なおラップ推移的には、元々コースからの干渉を強く受けやすいことから、前半のペースがどうあれ極端な末脚だけの勝負になることは少ない。
 ただし19年には上がり2F目に11.0が出ており、牝馬限定特有の現象である極端なペースになる可能性があるということは頭の片隅に入れておきたい。

まとめ

 中山芝は比較的開催の進行度によって内ラチ有利・外差し有利がはっきりと表れやすい場所であるが、外差し環境のデータを一定数拾っているはずの状態であってもなお外枠が不利になるというのは、つまりレース運びをする上で外枠であることそのものが不利になる(外を回すこと自体が不利になる)ということである。脚を溜めて勝負する馬であってもインで溜めることのできる技術力や気性が求められるということかもしれない。

 尤も、紫苑ステークスの場合は春の成績から能力レベルを刻みやすいレースで、これは逆に言えば単にコース巧者だから簡単に勝ち負けという話にはならないということでもある。
 弥生賞ディープインパクト記念や皐月賞と同様、コース適性よりも純粋な能力を競っている部分が強いレースなので、細々した適性がどうとかを考えるよりも、強い弱いの部分に焦点を当てるべきだろう。


 世代限定戦は苦手なので全然買ってませんでした。

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