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本当と嘘と真実とその間にあるもの

先週末はドキュメント映画「作家、本当のJ.T.リロイ」を見に行った。

J.T.リロイは99年にデビューした作家で、当時のプロフィールは元男娼でホームレス経験もある美少年。
自伝的小説「サラ 神に背いた少年」は初長編作品で世界的ベストセラー。音楽、映画業界人からの評価も高く、サブカル文化人として活躍。

しかし本当の作者はJ.T.リロイのマネージャーだった40代の女性 ローラ・アルバート。金髪の美少年・J.T.リロイとして10年も表舞台に立っていたのはローラに頼まれ変装していた義妹。

**ローラは何故そんな嘘をついたのか…? **

発端となった小説「サラ 神に背いた少年」を、出版当時に読んでたので、この映画は公開前から気になってた。

小説は、娼婦である母親に憧れる少年がドラッギーな世界に迷い込んでいく話で、後に映画化もされている。(ちなみにガス・ヴァン・サントが監督って噂だったのに、別の人が監督になった事情も映画で明かされる)

**"私の外見はみんながイメージするようなクールな作家像からほど遠かった" **

出版当時のローラ・アルバートの体重は100キロ超え。

コンプレックスの塊だった彼女が、自分の外見を恥じて始めた嘘なのか、作品をプロデュースするために作った嘘か…

創作は自由なものだし、性別も時間も超えて、好きなことを描ける世界のはず。
でも大半の読者の興味を引くのは、誰がこの本を書いたのか?

前にテレビで見た"偽装キラキラ女子アカウントの中の人"のインタビュー。
**「同じ事を言っても、普段地味な生活をしている自分の言葉は誰にも聞いてもらえない」 **

ローラ・アルバートの最初の嘘は、SNSで自分を盛る時の感覚に近かったのかも。まさかそれが10年も続くなんて、本人も考えてなかっただろうけど。

特別な容姿、特別な経歴があれば、作品も特別に見えるんじゃないか…
そんな気持ちは自分にも心当たりがある。

ローラ・アルバートにも、沢山の口にできなかった傷はあったけど、彼女の体は美少年じゃなかったし、体を売った経験もない。

でも小説にはいまも読者がいて、救われたと思う人がいる。それは彼女の想像力が現実を上回ったからだと思う。

"感動の実話"じゃないから、いま見ている世界が舞台じゃないからって、その作品がすべて嘘とは限らない。

この映画は彼女の語りのみで構成されているので、どこまでが本当か疑えばきりがない。今だから言える事だってあるだろうし。

でも私はまた彼女の新作を読んでみたい。
当時のセレブ活動をもっと知っていたら見方は違うと思うけど、いまも執筆しているそうなので、翻訳がでてくれたらいいなー!

今回はちょうどご本人が来日してて、初日の公開インタビューも見ることができた。
ゴシック風の素敵なドレスと、サービス精神が印象的だった。

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