【超短編】あまやどり

こんな雨は好都合だ、まっすぐ家へ帰らずにすむ。
畳んだ傘を軽くふる。丸くて大きな水滴がぱらぱらと散った。
軒先からこぼれた滴がジャケットを濡らす。

胸ポケットから、透明で真ん中に赤いラインのはいったストローを取り出す。こいつには今日のような雨粒がちょうど良い。

ストローの先を、こぼれてくる滴の位置に合わせて吸った。
舌が苦みとかすかな酸味に身をすくめた。
鼻の奥からじわっと、重く湿った匂いがする。

気づくと、足下にアマガエルがいた。明るい緑色をした小さな背中が、打たれるように軒先からこぼれ落ちる滴を受けとめていた。
カエルは目を細めて、小さな喉をふくらませたりしぼませたりしている。

私が雨粒を吸う、カエルの喉がふくらむ。
私が息を吐く、カエルの喉がしぼむ。
私が雨粒を吸う、とカエルが突然飛び上がった。
むせた私をしりめに、カエルは緑色した摩天楼の中へ。

腕時計がチッチッと鳴った。私はストローをポケットにしまう。


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大分前に書いたものですが、気に入っています。

もうすぐ梅雨ですね。


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