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ctrl+Z


大学生になり、パソコンを用いて作業をするようになった。
はじめは「デスクトップ」「ドキュメント」「ダウンロード」などのフォルダ分けやその意味は全くわからず、
開いたはずのファイルがどこかへ消え、
(今ではそう呼ぶことがわかる)デスクトップ画面に大量の写真が現れて画面を埋め尽くし、
Wordに書いた文書を選択し、コピーしたはずがどこかにその文書が消え去り、
なんてことだらけであった。

しかし、人間必要に迫られればなんでもできるようになるのである。
コロナにより、授業はほとんどオンラインに、
過去への名残惜しさと、最前線にいすわる感覚を保持するため始めた、とある課外活動で、
Excelを使って情報を整理し、PowerPointやAdobeソフトで画像や動画を作成することを迫られた。
こうしてパソコンに触れなければいけない状況に巡り会った。
パソコンを活用する必要に迫られたとき、私はパソコンを使いこなし始めた。
何度も何度も、データをコピペする内に、ctrl+C、ctrl+V、ctrl+X、のショートカットキーを手に入れ、
無駄に長い文書を何度も、何度も全選択する内に、ctrl+Aのショートカットキーを習得した。
PowerPointを用いて、いらぬこだわりを繰り返して画像を作成する内にオブジェクトを1000個以上使って画像を作成した。
こうして知らず知らずのうちにwindowsショートカット RPGを進め、私はついに最高で最強で最頻で有名なショートカットキー、ctrl+Zを知った。
そう、「元に戻す」である。

しまった間違えた!
あらら文字を大量に消してしまった。
人の写真を横に拡大して太らせてしまった。
間違えてファイルを削除、ゴミ箱へ送ってしまった。          

大丈夫です。

そんなあなたにctrl+Z、左手の小指をctrlキーに、薬指をZキーに合わせて同時に押すだけで、ほら元通り。

ボタン2つで1度進めてしまった時を、流れを元に戻せるのである。
これはわたしにとって非常に心強く、尊いものであった。

前述したPowerPointでの画像制作はこれがあったからできたのである。
3歩進んで2歩下がるが実践できる心強さは、1歩を動かすための安心感となり、止まらずに作業をすることを可能にする。

後戻りができるということが作業を効率化へと導き、前述した画像制作に熱中する原動力になった。

画像を作るのにはこんなに夢中になれるのに、今まで図工、特に絵を描く活動が苦手だったのは元に戻せないからだと気づいた。

半期、大学で図画工作科研究の授業を受講した。
その中で、いつも唐突に指示を出す、親しみやすい講師の先生は
私が全く気にとめないうちに非常に論理的な授業を構成し、実践し、
いろいろなことを伝えてくれた。

「不可逆な部分を嫌う子どももいる。絵具での色塗りは一度失敗すると二度と修復が難しい。初めてで完璧に理想通りに塗るのはほぼ不可能だから、そこにも配慮すべき。」

その通りだと思った。そうだ!そうだ!と言ってやりたかった。

たくさん失敗を繰り返し、元に戻してやり直す。
その過程の中で自分なりのこだわりを見つけて、こだわりに夢中になる。そうしてひとつの作品を作る。

私はこの授業の中で、写真を撮ったり、鉛筆で自画像を描いたり、カオスな絵をサインペンで描き、デジタルで色をつけたりした。
ほとんどの活動に私は夢中になって取り組むことができた。鉛筆は消せたし、写真は撮り直せたし、デジタルの色は塗り直せた。

15回の授業で自分の作業に夢中になり、人の作品に感動し、先生の話を聞いてる内に、
図画工作とは、児童が夢中になれることを探り、見つけ、夢中で作業することを体験する教科で、そういった教科であるべきであると考えるようになった。

そして、大学生活の中で、私にとって自分が夢中になるための礎は「元に戻す」が
約束されていることにあると気づいた。

こどもたちにも夢中になるきっかけや、夢中になれないつっかかりがどこかにある。それを見つけられるようにいろんな活動をいろんな方法で試す場にしたい。