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ループしないBGMのSTGに関する考察

初投稿の関連記事として表示されているこちらのnoteをななめ読みして所感をツイートしたところ、筆者から返信がありシューティングゲーム(以下STG)についてはよく知らないとのことだったので、私の知りうる範囲でいくつか例を挙げて考察してみます。(敬称略)

1. 初期CD-ROMにおけるCD-DA垂れ流しの功罪

プレイ中に勝手に音楽が終わってしまうと没入が途切れてしまい、良くないこととされてきた。

このようなゲームはかつて大量にありました。なぜでしょうか?

家庭用ゲーム機で世界初のCD-ROMを採用したPCエンジンは波形メモリ音源を搭載していますが貧弱で、CD-ROMのゲームはBGMにCD-DA(音楽CDと同じフォーマットで記録されているトラック)を使うようになりました。

CD-ROMはPCエンジンのHuカードと比べて大容量でしたが、最初のCD-ROM2システムのRAM容量はとても小さく開発者はメモリのやりくりに苦労したそうです。

CD-ROMでCD-DAを使った場合、CD-DAを再生中にゲームのプログラムが記録されているトラックにアクセスする場合があるため、CD-DAは再生中のトラックをループすることはできますが一時停止することは出来ません。

そのためゲーム中にRUNボタン(ファミコンでいうところのSTARTボタン)を押してポーズをかけたときはBGMが流れっぱなしとなり、本来意図したゲーム進行とBGM展開が噛み合わなくなるという問題がありました。問題回避のためイベントシーンなどではポーズが無効化されることもありました。

また、CD-DAがゲームの尺と合わずループ再生時に途切れてしまう問題には次のような理由が考えられます。

BGMが大量にあり収録時間が短くなってしまったため。
プログラムを音楽CDとして再生してしまうと爆音ノイズとなってアンプを壊してしまう危険性があるため、PCエンジンでは1トラック目に警告メッセージを収録することになっていました。
CD-DAを記録できるのは3トラック以降最大99トラックなのでBGMは最大97曲記録することができます。最大トラック数だと1曲45秒程度になってしまい現実的ではありませんが、曲数が増えると1曲が短くなる目安にはなるでしょう。

既存のゲームサントラCDを流用したため。
アーケードからの移植の場合、既にアーケード版のサントラCDが発売済みであり、それをそっくりそのままCD-DAとして流用してしまうケースが特にセガサターンで散見されました。
サントラCDは入手困難だけどゲームを買えば安上がりといったこともありましたが、サントラは2ループ収録が多くゲーム進行とは噛み合わないため、普通に遊んでもゲームの途中でBGMの読み込み直しが発生してしまってガッカリでした。
そしてその問題はCD-DAをそのまま圧縮音源にしたため、ゲームアーカイブスなどの復刻配信タイトルにも引き継がれていくことになります。
例えばケイブの『首領蜂』はセガサターンはファルコン移植・アトラス発売、プレイステーション版はSPS移植・発売でしたが、ステージ2で既にこの問題が発生してしまううえ、ゲームアーカイブスでも問題は解消されていません。ガッカリです。

アーティストに仕様がきちんと伝わっていなかったため。
CD-ROMのゲームでは、ゲームメーカーに所属するアーティスト以外にも、音楽業界からさまざまなアーティストが楽曲制作に参加しました。
PCエンジンでは『天外魔境 ZIRIA』の坂本龍一やその続編『天外魔境Ⅱ 卍MARU』の久石譲などが有名です。
あの『パラッパラッパー』を手掛けた松浦雅也も、自身のユニットPSY・SでMac用CD-ROMアルバムを発表する前にPCエンジンで『メタモジュピター』というグラディウス系の横STGに楽曲提供していましたが、ゲームの尺とBGMの長さがまったく噛み合っておらず途切れまくりでガッカリでした。
このように外部のアーティストにゲームの仕様がきちんと伝わらないまま作られたゲームはデバッグしたのか?と思うほどひどかったのです。

なお『風の伝説ザナドゥ』や『真・女神転生』などのRPGや『スナッチャー』などのアドベンチャーゲームでは、ゲーム中のBGMはPCエンジン内蔵の波形メモリ音源を使ってループさせ、イベントシーンだけCD-DAを使ってゴージャスに演出するゲームも多かったです。

スーパーCD-ROM2システムやアーケードカードでは主にメモリが強化されたためサウンドで使える領域も増え、Huカードのゲームと遜色ない音色で演奏できるようになったことも大きな要因と考えられます。

このようにCD-DAをゲームのBGMとして使うには多くの問題がある一方で、生演奏や当時一世を風靡したシンセサイザーやサンプリングを駆使した打ち込み曲をゲーム音楽に使えるということで名作・名曲も多数生まれました。STGでは葉山宏治の『超兄貴』が有名ですね。最近もアニメ『艦隊これくしょん』のエンディングテーマと似ていることで話題になったばかり。

制作会社としてはT's MUSICが有名で、特にアーケードのFM音源では地味な印象だった雷電をPCエンジンに移植した『スーパー雷電』や、ちびまる子ちゃんの声優TARAKOを起用したことで賛否両論となった『コットン』のアレンジは根強い人気があります。

また、こちらはカプコン・サウンドチーム「アルフ・ライラ・ワ・ライラ」自身のアレンジではありますが、同じくアーケードのFM音源から移植時に生演奏化した『サイドアームスペシャル』も特筆に値するでしょう。雷電やサイドアームはHuカード版も出ているのでそちらと聴き比べてみてもいいでしょう。

もちろん『スーパーダライアス』や『グラディウスⅡ~ゴーファーの野望~』のようにアーケード版のBGMを完全再現したPCエンジン移植もあったわけですが、アレンジ移植でBGMがループから生演奏に置き換わったことのほうが功績としては大きいと考えます。

2. 3画面筐体の演出強化でループなしBGMを採用

ループなしBGMのSTGといえば代表作は『ダライアスⅡ』でしょう。

ダライアスは、海の生物をモチーフとした巨大戦艦がボスとして多数登場する横スクロールSTGで、水族館の巨大水槽を思わせる3画面の大型筐体で発売されました。自機のショットが画面端まで届くのに時間がかかるため、撃ち漏らしがあると大変不利になるゲームですが、そのビジュアル・サウンドのインパクトはとても強く、現在も根強い人気を誇るシリーズです。

ダライアスではルート分岐システムが採用されており、マルチエンディングになっています。ステージは、洞窟、山岳、海底、機械都市、バンアレンベルトがルートによって複数回登場し、BGMもそのゾーンに合わせた曲が何度も流れる仕様になっていました。

その2作目として1989年に発売された『ダライアスⅡ』では舞台を太陽系に移し、BGMはゾーン固有ではなくステージごとに変わる仕様に変化しました。つまりルート分岐によらず同じステージなら同じBGMが流れます。

ダライアスⅡではステージ1太陽のBGM「OLGA BREEZE」と最終ステージ木星のBGM「say PaPa」でループなしBGMが採用されており、特にステージ開始からボス戦までノンストップで展開することが注目ポイントです。

「say PaPa」はループしませんが、「OLGA BREEZE」はループするデータになっており、厳密にはループしないゲーム音楽とは言えないのかもしれませんが、ゲーム中に聞けるのはワンコーラスのみなので、ループしないゲーム音楽と言って差し支えないでしょう。

このような特徴は同じく3画面筐体のアクションゲーム『ニンジャウォーリアーズ』のステージ1BGM「DADDY MULK」でも見られます。ボスを早く倒してしまうと三味線ソロパートが聞けないため、ボス戦の立ち回りには個人差が出るのもニクイ演出と言えます。

ダライアス、ダライアスⅡ、ニンジャウォーリアーズを作曲したのはタイトーZUNTATAのOGR(小倉久佳)です。ループしないBGMを要所要所に採用した経緯については不明ですが、目立つ音楽を作る指示はあったそうです。

3. ダライアスバーストACの「組曲 光導(こうどう)」

そしてダライアスではシリーズ最新作であるダライアスバーストのアーケード版『ダライアスバーストアナザークロニクル(DBAC)』のすべて上ルート(EASY)を選択した際に流れる「組曲 光導」を欠くことはできません。

これは最初のステージ開始時からエンディングまでの約25分間が6曲からなる組曲として構成されているという壮大なものです。PSPの無印ダライアスバーストから印象的な女声コーラスをフィーチャーしているのも特徴です。

ちなみに作曲者の土屋昇平(私が卒業したスクールの後輩です)はタイトーがアーケードでブイブイいわせていた時代があったことを知らなかったそうで、OGRの曲調を意識したこともないらしく、新旧タイトルでループなしBGMが採用され人気となったのはまったくの偶然と言えそうです。

もちろんルート分岐で別ルートを選択した場合は「組曲 光導 ~第一曲 鉄の化石~」(ステージ1~ボス)と「組曲 光導 ~第六曲 導き~」(最終面クリア~エンディング)以外のBGMは変化するわけですから、ゲーム音楽のインタラクションという点でも特徴的なゲームといえるでしょう。

家庭用ゲーム機でも『ダライアスバースト クロニクルセイバーズ』および『ダライアス コズミックリベレーション』に収録される『ダライアスバースト アナザークロニクルEX+』で遊べるのでぜひチェックしてみてください。

タイトーはこのほかにも『レイクライシス』が特徴的なのですが、私にはうまく説明できないので、みんなで決めるゲーム音楽ベスト100まとめwikiを引用します。確かプレイステーション版ではうまく再現されてなかったはず。(SIMPLE1500シリーズ版を持っていますがほとんど遊んだ記憶がない…)

BGMにはばらばらに区切られた一つの長い曲が使われ、2ステージ目がどのマップかによって4つの曲から選択される。

4. シリーズ最新作で音楽性が変わった『雷電Ⅴ』

オーソドックスな縦スクロールSTG『雷電』も家庭用オリジナルの最新作『雷電Ⅴ』で作曲者がベイシスケイプの工藤吉三に代わり、ループしないBGMに変化しました。氏の得意とするシンフォニックロックとマッチしているとはいえとにかく曲が長く、シリーズのファンとしては戸惑いました。

STGは家庭用ゲーム機でポーズをかけない限りは基本的に最初から最後までノンストップで絵巻物のように一本道なゲーム内容なので、実はループしないBGMと相性バツグンなのです。これまで多くのSTGがループするBGMを採用してきたのは、古くは容量の都合もあったでしょうが、そのほとんどが慣例的なものであったということでしょう。

ちなみに前作『雷電Ⅳ』は2007年にアーケード版が発売されましたが、2021年にゲーセンミカドとコラボしたニンテンドースイッチ版『雷電Ⅳ×MIKADO remix』が発売予定となっており、クラウドファンディングでアーケード逆移植も目指しているとのこと。作曲者の佐藤豪自身が参加する佐藤豪バンドやHEAVY METAL RAIDENなど豪華アーティスト陣によるBGMアレンジに期待が高まります。

雷電シリーズの音楽性は初期Ⅰ・Ⅱ・DXのミドルテンポのマイナー調で昭和歌謡チックなハードロック・メタルという方向性に、途中でシリーズ分岐したテクノ系のライデンファイターズを加え、その両方を兼ね備えた雷電Ⅲ、Ⅱの生演奏パワーアップ版雷電Ⅳと進化し、そしてシンフォニックロックの雷電Ⅴと大きく変化しました。佐藤豪はⅡ・DX・RF1~2・Ⅲ・Ⅳのメインコンポーザーとして長らくシリーズを牽引してきただけにⅤの変化は衝撃的でした。

しかし雷電Ⅴと並行する形で毛色の異なる雷電Ⅳの展開も続いてきたことを考えると、ライデンファイターズシリーズも含め、ファイナルファンタジーのように異なるナンバリングタイトルが同時展開するシリーズに発展してきたと考えるほうが自然なのかもしれません。ループする雷電もループしない雷電もそれぞれに良さがあると思います。

5. BGMのループは攻略に意味がないから批判される?

細野晴臣プロデュースのアルバム『ビデオ・ゲーム・ミュージック』から日本のゲーム音楽の歴史が始まりましたが、当時はBGMに効果音がミックスされた録音で、サントラに合わせて『ゼビウス』をプレイする人もいたと聞いたことがあります。音ゲーみたいですね。

これはアクションゲームの例ですが、任天堂の『マリオブラザーズ』や『レッキングクルー』には一定時間ごとに当たるとミスになる火の玉が飛んでくるという仕掛けがあります。マリオブラザーズにはBGMがないためカンで避けるしかないのですが、レッキングクルーはBGMのループ回数やタイミングである程度予測が可能です。BGMのループが攻略の役に立っているんです。

ところが、このような例はとても少なく、その多くが単にループしているだけなので批判の対象になっているのでは?と思うところもあります。

ゲームのインタラクションに応じてサウンドを変化させることは今も昔もとても難しいことだと思います。サウンド面に理解のあるスタッフが開発初期段階から仕組みを考えて組み込んでいかないことには実現しないでしょう。

私自身、フリーランスの方のゲーム音楽制作を手伝っていたことがあり、実際のゲーム画面を見ることもなく、指示書だけで黙々と作曲されているのを現場で見てきましたから、このような下請けではBGMループもやむなしと思えてしまいます。まあ20年ほど前の話ですし現状とは違うでしょうけど。

これもアクションゲームの例なのですが、ファミコンディスクシステムの『ナイトムーブ』はゲーム音楽のインタラクションとして大変秀逸だと思っています。手掛けたのはチップチューンの第一人者で任天堂のChip Tanakaこと田中宏和。

テトリスのアレクセイ・パジトノフ考案のナイトムーブは、将棋の桂馬と同じ動きをするナイトを4×8のマス上で操作し、同じマスを3回踏むと穴になるため、できる限り連続して踏むと高得点になるというアクションパズルゲーム。連鎖しているときの演出もすごいのですが、特にナイトの進行方向が穴(ゲームオーバー)に向かっているときだけBGMがおかしくなるというのは他に類を見ないインタラクションではないでしょうか。

ですからループしないゲーム音楽を考えるときには、同時にサウンドのインタラクションについても考えないといけないと思うんですよね。そして、理想的と思えるインタラクションを兼ね備えたゲームというのはそう多くありません。

プレイ中の集中力や緊張感が一定時間持続することや、強制スクロールでない限りその場所や場面をサウンド面からも示し続ける必要性があることなど、いろんな要素が複雑にからみ合ってゲーム音楽はループしてるんですよね。だから一概にループしてることが問題なわけではないと思うのです。

6. あとがき

3DOの『リターンファイアー』という戦車やヘリコプターなどを操作して敵陣に攻め込んでいく対戦型の多方向スクロールSTGがあって、クラシックの名曲がバカバカしく使われているんですが、製品版より体験版のほうがよりバカ度が高くて、メインBGMはホルストの組曲「惑星」より火星の冒頭部分なのですが、なんでもいいから敵基地を破壊した途端曲が盛り上がるというのが大好きで、なんで製品版でそうしなかったんだろう?ってずっと思ってるんですが、これこそ比較動画でも作らないと伝わらないですよね。(おかげで苦労して製品版を入手したのに1ステージしか遊べない体験版を延々と遊び続けた記憶…ああ生きているうちに一度でいいから他人と対戦したい)

例示した各ゲームの動画は各自で検索してみてください。ナイトムーブは貴重なプレイ動画なのであえて埋め込みましたが、それ以外は選択肢がたくさんあって絞りきれないですし、消えてしまうかもしれないですし。

日本のゲーム音楽はハリウッド映画じゃなくてボリウッド映画(独自の文化と作品数を誇るインド映画)を目指すんでいいんじゃないかと思うんですよね。「ループすんのかいせんのかい」にとらわれずこのまま進んで欲しい!

ヘッダー画像引用元

12/28追記

『ダライアスⅡ』のループに関して複数の方から事実と異なるというご指摘がありました。確認不足のまま執筆してしまったことを大変申し訳なく思っております。その他至らない点が多々あるかと思いますが、本稿の信憑性は各自ご判断いただくこととし、大幅な加筆修正は行わないこととします。ご了承ください。なお、間違いのご指摘や異論反論はTwitterではなく、できればnoteのコメント欄にいただけますと助かります。よろしくお願いします。

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