【論文レビュー】共同リーダーシップに関するレビュー論文:Gibeau他 2016
入学後、はや5か月…
書きたいことも沢山あるのですが、日々の課題やらグループワークやらに追われてnoteは放置状態になっていました…
しかし、2年間という短い修士課程。すでに最初の4分の1が終わろうとしているので、ここからは帯を締めなおして、授業だけでなく自分の関心をもとに知識を蓄えていこう!ということで、読んだ論文の備忘録をnoteでも記していけたら、と思います。
去年の秋ごろ、入学前に書いたプロジェクト計画書を検討する中で、
#マネジャー過負荷すぎ問題
#アサインされてもキャパが足りない育児・介護世代
#管理職になりたくない若手
等への問題意識を経て、Co-Leadership(共同リーダーシップ)という概念にたどり着きました。
今回はこのCo-Leadershipについて、これまでの研究をまとめたレビュー論文を取り上げたいと思います。
↓読んだのはこちら↓
The Routledge Companion to Leadershipという書籍に収められている一章で、カナダの研究者3名によって書かれています。
サマリ
共同リーダーシップとは、組織のリーダーを1人ではなく、2人の人間が対等な立場で分担する形態のこと。この論文では特に、組織のトップを2人で担う体制について言及しています。
この考え方にはこれまで、混乱や対立、責任の不明確さ等、様々な懸念事項が指摘されてきた一方で、現実世界では活用が続き、グーグルやゴールドマンサックスなど、著名な企業でも共同CEOの体制が長く採用される等、成功事例もあります。
この論文では、関連する先行文献をレビューによりこれまでの知見をまとめており、以下のことが分かりました。
共同リーダーシップは複雑な環境に対応するための手段として、特に多元的な環境や、大企業、移行期の組織やファミリービジネスなどで活用されている。また、「民主的な意思決定」を反映する、といった思想の反映として活用されることもある。
共同リーダーシップにおける役割分担については、専門化、差別化、補完性の3要素を満たす構成が成功の可能性を高める。
共同リーダーシップを成功に導く要件は役割分担の他にも、個人特性、関係性、組織、制度や環境といった様々な要因が絡む。
以下で詳しく見ていきます~。
どんな場面で/なぜ活用される?
共同リーダーシップの体制は特定の業界や文脈で特に確認されます。この論文では以下の4つのパターンに分類しています。
多元的な環境:
専門性が高く、複数の目的を同時に追求する必要がある組織では、多くの共同リーダーシップの事例が確認されています。例えば、バレエ団など芸術に関わる組織では芸術的卓越性と商業的成功の両立、病院では患者ケアと経営、といったようにそれぞれの専門性と経営を両立し、同時追及するための手段として活用されています。大規模で複雑な企業:
グローバル展開や事業多角化など、経営トップの職務が広く、必要とされるスキルの幅が広範囲にわたる場合でも共同リーダーシップが活用されています。こういったケースでは、地域や事業で担当を区分することで、文化的配慮による地理的拡大や専門性の補完の期待により、共同リーダーシップが採用されています。移行期の組織:
合併や買収などの統合プロセスの促進、旧CEOから新CEOへのスムーズな引継ぎ、財政危機や法的危機に対処するための一時的な対処としても、共同リーダーシップは活用されています。特に、買収・統合のケースでは、敵対的なバイアウトではなく友好的な統合を好む場合や、特定の派閥でなくチーム全体の成功を目指すパートナーシップを目指す場合に共同リーダーシップが採用されています。結果、組織メンバーの士気も維持されやすくなるそうです。ファミリービジネス(同族経営)
同族経営でも共同リーダーシップの事例は確認できます。例えば、2人の兄弟に経営権を譲渡するケースや、子から親に世代交代する際のスムーズな引継ぎ促進、同族メンバーと非同族経営者の共同経営といったパターンもみられます。
以上の4つのパターンではいずれも複雑な環境に対応するための手段として、共同リーダーシップが活用されています。一方で、一部の組織では実用面でなく思想の側面から、共同リーダーシップが採用される場合もあるそうです。つまり、リーダーを1人の人間に集中させず、みんなで意思決定したいという「民主的」な理念を反映するための共同リーダーシップ体制です。特に非営利団体や公教育、フェミニスト組織ではその傾向が顕著で、公教育では校長を共同制にすることで以前はほとんど見られなかった女性校長が多く誕生しているそうです。
効果的な役割分担とは?
この論文ではHodgson(1965)をもとに、「経営陣の役割分担」が効果的に機能するためには専門化、差別化、補完性の3つの要素すべてが重要だ、と訴求しています。
専門化とは、各個人が担う役割の広さ、差別化とは2人の分担の重複度合い、補完性とは、2人が担う範囲が全体を適切にカバーしている度合い/2人が仕事を調整できる度合いを指します。
この3つの要素をもとに、役割分担を4つの構成パターンを示しています。なかでも、図の一番左、3要素がいずれも満たされ適切にバランスが取れたときに、共同リーダーシップの成功の可能性は高まります。
一方で、実際には役割分担の構成は流動的であり、変化することもあります。また、成功の方程式には他の変数も絡んでくるため、正確な役割分担だけで、Co-Leadershipの成功有無を完全に説明することはできません。
成功の条件とは?
役割分担以外にも、成功の条件を見出すことができます。本稿では以下の4つの観点から分析していました。
個人の特性
協力的な仕事のスタイルや交渉スキル、信頼性、個人的な誠実さや成熟したプロフェッショナリズムが重要な要素となります。さらに、率直さや自己反省の能力が違いを乗り越える助けとなり、競争的な環境でも自らの弱さを見せることが関係性の発展に寄与することがわかっています。関係性
共同リーダーシップの研究において、多くの研究者が注目するのが二人の関係性です。特に、信頼が重要な要素とされており、それを築くためのコミュニケーションや問題解決、相互理解が強調されています。また、役割分担の明確さや柔軟な調整もまた、効果的なリーダーシップに寄与します。また、リーダー同士がリーダーシップについて共通の理解やビジョンを持つことでリーダー間での役割分担や相互アドバイス、チェック機能が効果的に機能すると考えられています。組織
リーダーを取り巻く各組織の影響も重要な役割を果たします。
例えば、関係が始まるアサインの段階では、相互に選ばれた場合は良好な関係が築かれやすいとされています。一方で、第三者(取締役会や教育管理者)によって別々に選ばれ、互いに強制的に共同する形になった場合、関係が長続きしにくい傾向があるそうです。また、組織における独立性も重要な観点です。取締役会が干渉せず、政府や教育管理者からの独立性が保たれる環境では、リーダーが自分たちで問題を解決し、信頼関係を深めることが促進されます。制度や環境
共同リーダーシップの成功には、リーダーシップの質だけでなく、組織やその外部環境といった外部要因も大きく影響を与えます。
例えば、非営利芸術分野では、適した制度的な環境があったため成功しやすかったが、教育分野では法的や説明責任の問題から導入が難しかった、という実情がありました。また、労働組合や市場など、外部の利害関係者の反応が共同リーダーシップの安定性に影響を与えることも多くあります。したがって、このリーダーシップモデルは、特定の環境や状況に依存して成功や失敗が左右されことが示唆されます。
まとめ・今後の研究に向けて
この論文では共同リーダーシップについて、主にその文脈、構成、成功条件が先行文献に基づいて検討されました。今後の研究に向けて、現状研究が不足している観点・領域を筆者は以下のように指摘しています。
そもそも共同リーダーシップに関する記述は実務者向けの文献や特定の業界誌に多く、経営学誌での系統的な研究は不足しています。
共同リーダーシップの研究は、その希少性により、大規模な定量研究が困難であり、ケーススタディが主な方法となっています。特に、大企業を取り上げたな研究はアクセスの問題から限られているます。
共同リーダーシップの進化や継承、権力の問題についての研究は不十分であり、これらの領域に関する理解はまだ浅い状態です。
共同リーダーシップは複雑な環境に対応するための新たな方法を示す可能性があり、さらなる研究が必要です。
感想
今回読んでいて一番面白かったのは、共同リーダーシップが思想の反映(民主的意思決定の促進ツール)として活用されている、という部分。
私自身は実用的な関心から興味を持った共同リーダーシップでしたが、「様々な属性の意見を意思決定に反映させる」ために共同リーダーシップを採用するという考え方は、すごく今の時代っぽいな…と。
また、文献を探す中で、「特定事例を扱ったものが多いな~」と感じていたのですが、論文内ではそのことにも言及されており定量的調査はごく一部に限られているとのこと。そんな状況の中で、特定事例でなくこれまでの研究を取りまとめて俯瞰した知見を提供してくれるレビュー論文は本当にありがたいな…としみじみしてしまいました。(個別具体の事例を1つ1つ読むのはつらい…)
この論文のおかげで2016年時点の全体像はなんとなくつかめたので、次は定量的なレポートか、2016年以降で新しく出た論文を読んでみようかな。