ネオンブラックピンクサイダー終
瞼を開けた。見覚えのない天井が心配そうな顔をしている。体がやけに重怠い。錆びたロボットのように上半身を起こす。ぽたり。掛け布団に小さなシミがひとつ。泣いている。どうして。緩慢な動きでベッドから這いずり出た。ここはどこなんだろう。窓の外を見てみるが覚えのある景色ではない。首を傾げてドアノブを捻った。ああ。ああ。なんてことを。残念だったねと微かに声が聞こえてフローリングに向かって許しを請うた。
23
ひかりが編んだミサンガはかなでとひかりを互いに縛り付ける足枷。かなでは左でひかりは右。着ける足を決めたわけではない。特に考えずに着けたらそうなった。以来並ぶ際はミサンガ同士が見つめあうようになった。きつく結わえられたミサンガは日々少しずつ傷を蓄積して目に見てわかるほどに頼りない存在へと成っていて。かなでの物はもちろんテニス部のひかりはよく動くせいなのかいつ切れてしまってもおかしくない状態で。ミサンガは自然と切れると願い事が叶うと言われている。しかしかなでにとってこのミサンガは違う意味を持つ物だから切れてしまいそうなミサンガに心臓を握られるような感覚に襲われていた。
「ミサンガ?」
「とりあえず、期間を決めようと思って」
「期間? 私たちの?」
「うん。このミサンガが切れるまでにしよう」
「わかった」
いつかはわからない。でも確実に近いうちに切れてしまう。切れてしまったらかなでとひかりの関係は終わりを迎える。嫌だ。回避したい。どうしたらまだ繋いでいることができるのか。考えた末に今度はかなでが新たにミサンガを編むことにした。ひかりが受け入れてくれるか否かがこの関係の行く先を決める。
「延長戦? まだわからない、ってこと?」
「そういうことにしてよ」
「かわいいことするじゃん」
くすりと笑って迷うことなくひかりはミサンガを手に取った。賭けに勝てたことにかなでは安堵してハサミを大人しくペンケースに戻した。
「かなでは、お願い事した?」
「した」
「じゃあ私もしちゃお」
左の足首でひかりとかなでが出会う。ぎゅっと結ばれてめそめそしていた足首がにこにこ笑顔で喜んでる。単純なのね。
「ありがとう」
「うん。かなで、時間大丈夫? バス、もうすぐじゃない?」
「うん。そろそろ行かなきゃ」
路線バスはよく裏切る。全然来ない時があるからと油断した日に限って時刻表より早く行ってしまう。もう少し話したい気持ちに丁寧に鍵かけてじゃあまた明日ねで背中を向けて歩き出す。
「あ、かなで」
「うん?」
「わからないって言い続けなくても、いいんだよ」
「え? それって」
「大丈夫だから。早く行かないとバス逃すよ」
去って行く背中を見送る。いつまで経ってもひかりには敵わないなとかなでは小さく笑ってバス停に向かう足取りは機嫌が良かった。
また明日が受け付けなくなるほど飽きてしまっても続いて。
私のこと手放せなくなって何度でも引き寄せられて。
誰も来れない海の底で肉体が腐って崩れ落ちても深すぎる口づけがしたいね。
To be continued
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