ネオンブラックピンクサイダー⑥

泣かないで。だいじょうぶ。だいじょうぶだよ。怯えないで、ね。何も心配しなくていいの。君の脳みそちゅるちゅるしてふわふわにしたげる~! 海馬弄って書き換えちゃうもん! 私だけでしあわせになってくれなきゃ君はただの燃えるごみ。可哀想でかわいい君を救ってあげてるの。感謝してねえ。君のハートにびーむでずっきゅん、だよう♡

21

「おはよ」

「……おはよう、?」

見慣れない部屋に覗き込むひかり。何が何だかわからずシーツに顔面を擦り付ける。どういうことだろうこれは。

「なんで、ひかりちゃん……?」

「すごい寝惚けてるね」

「んぇ……?」

 くふくふとひかりが笑って思い出した。ひかりってそんな砕けた笑い方できるんだ。表情筋が怠惰なんだと思っていたけど違うみたい。昨日の文化祭終わりにそのままひかりの家に泊まりに来たことを。一緒に回れず後夜祭も帰り道まで別行動。みんなには内緒でこっそり2人きりでお泊り会。眠い。また写真部のためにカメラ持って学校中を歩き回ったからシンプル疲労。二度寝選手権地区大会予選突破はひかりによって阻止された。

「いま、なんじ?」

「9時半、をちょっと過ぎたくらい」

「うぅん……」

「朝ごはん、できてるって。起きて」

「おきる」

 ベッドから半ばひかりに支えられて抜け出す。なんとか自力で立つかなでの髪をわしゃわしゃ掻き混ぜ頬を滑らせるように撫でられた。先に部屋を出たひかりの背中を追って見えない鎖をしゃらりしゃらり鳴らして歩く。慣れない家の床で踊らされている足首が違和感にきゅうと泣いた。

「ひかり」

「ん?」

「おはよぉ」

「おはよう、かなで」

22

 電車の中から既に人ばっかりでこれは探すの時間かかるかも。なんて思いながら改札を通って。瞬き。杞憂だった。かなでが選んだ浴衣が退屈そうに待っている。

「ひかり! おまたせ」

「かなで。──うん、やっぱり似合うね。その浴衣」

「ありがと。ひかりも似合ってる。白いから紫よく映えるね」

 去年は迷子になった2人だから。しっかり手を繋いで駅から会場に向かう。人が多すぎる所は正直言って苦手。でも悪くないかも。右手をぎゅっと握ってぴたりとくっついたって不自然じゃないから。今日は堂々とできてしまう魔法の日。

「あ、やきそば。かなで食べる?」

「なんで?」

「去年買ってたから」

 覚えていてくれたことは嬉しい。忘れていてほしかったけれど。かなでは夏祭りで食べるならベビーカステラが好きだ。あとでひかりと一緒に食べたい。

「あれは仕方なくだったの。ねえ、あっちに射的あるよ。私あのぬいぐるみ欲しいなあ」

「取ってくれって?」

「だめ?」

 上目遣いでひかりに大ダメージ。空の色が変わったらアルバムがまた増えていく。



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