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    栗の畑の草刈りで

 借りている幾つかの畑の中に、奥の方に20本くらい栗の木が生えている畑がある。そこを栗の畑と呼んでいるのだが、今日はその畑で草刈りだ。
 
 除草と言えば、草を根こそぎ刈り取ったり、除草剤を撒くのが慣行農法の基本のようだが、草には土をよくする力があるし、保水力もある。
土の中の微生物に栄養を届けるために、草は一役買っている。
 実際、今年の6月、大雨で畑が半ば冠水したとき、多くの畑で野菜がやられてしまったのだが、娘の畑では草が野菜を守ったのである。
 だから、野菜が育ちやすい環境をつくるために草を利用するという方法も
重要で、今日トライするのは、土から10cmか15cmくらいの
高さまで茎を残すという刈り方である。
この場合は、風の通りを意識して、風が吹いたとき、どこから倒れるかを
見極めて、そこから刈るのがいいそうだ。
 
 だが、実際にやってみると、素人が簡単にものにできるようなものでも
ない。
 根元から刈るよりは楽だと聞いたが、暑さのなかで1時間も作業していると頭も体も疲れてくる。
 そんなわけで、凍らせた水を飲みながら休憩していると、栗の木の葉が
揺れている。
 栗の木のてっぺん、中ほど、そして下の方、それぞれ違った形で揺れて
いる。葉の揺れ方が違う。高さによって、風が違って吹いている。
 
 そんな揺れ方に見とれていると、突然、娘が叫んだ。
「お父さん、見て!」「すごい!」
 何かと思って、娘の居るところに近づいて指差すところを見るとブーン
いう音がする。
黒いアブが、自分と同じくらいの大きさのバッタを2本の前脚でつかんで
飛んでいる。
 こんな大きな物をつかんで飛べるんだ。これからどこに飛んでいくんだ。自分の巣かな。
 
 畑に出ると、色々な生き物を実感する。何年か前、最初のころは、虫に
見とれた。
自分が動いているときには聞こえないが、休んでいるときには虫や鳥の
泣き声に聞き入った。
 すぐそばにキジがいる。草の種をついばむヒヨドリは、1~2mくらい
近づいても逃げない。
 こういう瞬間は、とてもゆたかな時間だ。
 
そして、最初の頃は一緒くただった雑草が、一つひとつ別々の種類に見えてきた。
草は刈っても刈っても生えてくる。その生命力の強さに圧倒されていたのだが、最近は、草も生きているよなと感じるようになった。
 この土の上で、風や光のなかで、草や木も、虫たちや鳥たちも、私たちと同様に、それぞれの生を生きているのだ。
 私たちの生きる力の源は、こういう自然の中にこそあるのかも知れない。

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