今この時

8月5日23時47分……。

今、刻一刻と時間は過ぎ行く。

また過ぎる。

時の線路を駆け行く暴走列車。

それが人生である。

今、私は車掌義務として全席に忠告して廻りたい。

「この列車は線路の行く先を見失いました。」

襤褸ついた枕木と犬釘。

走り行く私の後ろにあるこれらは、恣意的な物だ。

が、この先は運命的な神秘的な不可避的な。

私はもうこの列車の行き先を求める事が出来ない。

山風はまるで誰かが投げ掛けた言葉の様に強く吹き荒れ、

風に運ばれる価値観のような雪は列車に積もり車体を重くする。

恐らくこの車体は降れる雪風に触れる度に、知らぬ間に、車線変更が行われ

もう私の知る路線図はあてにならない紙切れと化してしまった。

自動運転の列車は、このまま山へ、奥へ、野放図に走る。

今、私は車掌補佐義務として全席に忠告して廻りたい。

「貴方方が諦めれば山は抜けられます。」

制御しきれない列車は山を登り続ける。

勿論どんなに頂上を越えよう、せめても峠を越えようとせども山からは降りられない。

今、私は乗客義務として全席に忠告して廻りたい。

「諦める事は無駄だ。踠く事も無駄だ。
列車に乗っている以上、あらゆる行為は無駄だ。」

列車は走る。

車輪は廻る。

フランジが滑る。

車体と線路の狭間で摩擦熱による変形を耐えながら。

時は進む。

今も刻一刻と進む。

……8月6日0時19分。