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マドンナとの同居生活は大変です 36話

中学1年生の4月。



"聖来ちゃんおはよ〜。"



??:おはよ〜!



入学式から2週間ちょっとが過ぎ、仲のいいグループが少しずつ出来上がっていく中




"聖来"




と呼ばれる女子生徒はほとんどの生徒から挨拶されては笑顔で返していた。



名前を【早川聖来】。
小学校まで関西に居たらしく、中学進学と同時に親の仕事の都合で越してきて友達も居ないはずだが、底知れない明るさと愛嬌の良さでわずか数日でクラスの中心人物へなっていった。




早川:山下君もおはよ。



○○:早川さんおはよ。



大体の男子生徒が惚れ、その中に○○も例外は無く入っていた。



早川:昨日の課題終わっとる?



○○:うん。もちろん終わってるよ。



早川:流石やな。うち1個どうしても分からへんとこあったから教えてくれへん?



席も隣通しで他の生徒達よりも近い存在だと有頂天になってた。



けれど関係はただのクラスメイトのまま月日は過ぎ夏に入る前。



担任:皆、そろそろ夏休みが近づいて浮かれてると思うがその前にテストがある事忘れてないか?



"うげぇ…テストかぁ…"



担任:もし赤点取れば夏休みは補習に来てもらうから本気で頑張れよ。



早川:はぁ…不安やなぁ…



○○:早川さんって勉強得意でしょ?



早川:せやけどさぁ…かかっとるもんが大き過ぎるやん…



○○:普通にすれば大丈夫だと思うけど…



早川:せや!いい事思いついた!



○○:いい事?



早川:一緒にテスト勉強しよや!



○○:一緒に…?



早川:だってそうすれば山下君も復習出来るし、うちも安心してテスト挑める。な?いい案やろ?



○○:…いいよ。やろうか。



この時は平然と返したが実際はありえないぐらい心臓が破裂しそうだったのを堪えるのに必死だった。



そして放課後、朝と時間を見つけては2人だけでテスト勉強に勤しんだ。



そんなある日だった。



早川:なぁ山下君?



○○:ん?



早川:山下君って好きな人おるん?



○○:…なに急に?



早川:ちょっと気になってん。



放課後の図書室で2人いつものように向かい合いワークに視線を落としていた中、突然聖来がそう問いかける。



早川:なぁ、教えてや?



○○:…居るよ。



早川:へぇ?告白はしたん?



○○:…してないよ。そもそも俺とじゃ釣り合わないし…



早川:分からへんで?もしかしたらその子も山下君の事好きかもしれんよ?



○○:…それは無いよ。その子は誰からもモテてるし…イケメンと付き合った方がいいだろうし…



早川:そう?山下君も充分かっこええと思うけどなぁ。



たとえお世辞だとしても好きな人からそう言われるのは嬉しくてたまらない。



早川:せや。



○○:…今度は何?



早川:このテストさ、もしうちが勝ったら付き合ってや?



○○:付き合う…?あっ買い物とかにって事?



早川:やなくて、うちの"恋人"になってや?




この時時間が止まったような、まるで鈍器で殴られたような衝撃が襲ってきたのは昨日のように覚えてる。



○○:早川さん…冗談が…



早川:冗談でこんな事言わへん。



○○:…なんで俺なの?



早川:だって好きなんやもん。
気づいたらもっと色んなお話したいって、色んなとこ行ってみたいって思ってしもうたんやもん。



○○:…



早川:それに山下君が好きなのってうちやろ?



○○:えっ…?



早川:山下君はわかりやすいからな。
見てたら誰でも気づくで?



○○:…恥ずかしい…



早川:なぁ…あかん…?



○○:…分かった。



早川:約束やからな?



そしてそれから数日経ち



○○:ふぅ…緊張する…



早川:約束覚えとるよな?



○○:…もちろん。



放課後の図書室



机には2人分のテスト用紙。



早川:じゃあせ〜のでひっくり返すで?



○○:…うん。



聖来の合図で2人はテスト用紙をひっくり返し



○○:俺が…430点だ。



早川:うちは…485点や!



○○:って事は…



早川:やったぁ!うちの勝ちや!



○○:負けた…けどなんか負けて良かった気もする…



早川:じゃあこれからは"恋人"としてよろしくな?




こうして2人はクラスメイトから恋人へ関係を変えていった。



その日の帰り道。



○○:なんか夢みたい…



早川:なにが?



○○:あの早川さんと付き合えるなんて思っても無かったから…



早川:…なんか嫌やな。



○○:えっ?



早川:早川やと距離感じるし聖来って呼んでや?



○○:いきなりは恥ずかしいかも…



早川:…○○はうちの事名前で呼びたないん…?
彼氏だけの特権やで?



○○:彼氏だけの特権…
分かった…けど少しずつでもいい…?やっぱ緊張するんだよ…



早川:しゃあないなぁ。



そこに居たのは初々しい2人の姿。



しかし



??:あいつ…俺の聖来ちゃんを取りやがって…



2人を睨みつける男の姿に気づくことは出来なかった。



それから更に月日も経ち、夏休みも色んなとこへ行っては思い出を作った2人。



早川:なぁ○○?



○○:どした?



早川:うち、今すんごい幸せやわ。



○○:急になに?なんかあった?



新学期が始まってすぐの帰り道。



早川:なんか言葉に出来ひんのやけどさ、○○を好きになって良かったなって。



○○:…俺もだよ。



早川:いつか結婚して、子供も作って、お家も建てて一緒に暮らそうな?



○○:それは気が早いよ。
けど…俺もずっと聖来と一緒がいいよ。



早川:約束やで?もし破ったら一生恨んだるからな?



○○:あぁ。約束する。



そしていつもの分かれ道。



早川:ほなまた明日な?



○○:うん。また明日。



2人はそれぞれの道へ歩き始めた。



これが"後悔"の始まりと知らずに。



それから○○も家に着き



○○:ただいま。



美月:愛しの○○よぉ!おかえりぃ!



○○:そろそろ弟離れしろよ…俺中学生だよ?



美月:年齢なんて関係ないの!
ほら、チューも…



○母:美月。それはやめなさい。



美月:ちぇっ…



○○:俺部屋居るから。



○○はそう返し自室へ上がって行った。



その時だった。




"プルプル"




とスマホに着信が届く。



○○:ん?って聖来だ。
もしもし?



聖来からの電話にいつも通り出る。



しかしいつもと違ったのは



早川:○○…!助け…て…



○○:はっ?



怯えた声で○○に助けを求める聖来の声。



その直後




"ドスッ"




と鈍い音も聞こえてくる。



○○:…行かなきゃ!



○○は慌てて家を飛び出し聖来の元へ駆けて行った。



○○:はぁはぁ…聖来…聖来は…!



到着した時には既に数台のパトカーと救急車が止まっていた。



そして



早川:…



担架で運ばれる聖来の姿が見えた。



○○:聖来…!



救命士:君!離れて!



早川:○○…うちはもうダメなんよ…



○○:辞めろ…そんな事言うなよ…



早川:うちの彼氏で居てくれて…うちに幸せを教えてくれてありがとな…
次はもっと可愛くて普通の子を好きになって幸せにな…



聖来はその言葉を最後にゆっくりと目を閉じた。



○○:嘘だ…さっきまであんなに元気に話してたのに…どうして…どうしてだよ…!



目の前の現実を受け入れきれず、ただ涙を流すしか無かった。



そんな時耳に入ってきたのが



??:お前のせいだ…



○○:はっ…?



??:聖来ちゃんが死んだのはお前のせいだ…!



警察に連行される1人の男が○○を睨みつけ怒鳴る。



??:お前が居なけりゃ聖来ちゃんは死なずに済んだんだ…!
俺が…俺が聖来ちゃんを幸せにするはずだったのに、聖来ちゃんはお前を選んだ!このクズ野郎が!



恐らく大学生であろう風貌の男は○○を罵りながらパトカーの中へ消えていく。



○○:俺の…せい…?
いや…違う…俺は何も…



そして騒がしく、ガヤガヤとした住宅街はいつも通りの静けさへ戻った。



To Be Continued