世界の船

暗い港に電気を消して休んでる船が何隻か
あそこを出る前十二時頃だったから、
今は一時前後くらいだろう
船着場にただ突っ立って風と共に波を待つ
私の他に数人やってきて、
一緒に黒い波を待つ
海からふっと船が現れる
どこかの名作映画で見たような光景で、
それよりは小さな船だけど明るい
半透明の数人が降りようとしているのが見える
やがて数分かけてゆっくり近づいた船から、
半透明のそれが降りてきて足を得る
逆に足を持っていたこちらにいた数人は
船に乗るとほぼ同時に半透明になる
私以外
他の世界と繋がれる船
深い深いまだ科学が立ち入れない深海に潜って
別の世界の深海から顔をのぞかせる
割と最近と言っても
人間なら十数回生きて死ぬくらい前の、
ある日ある世界から世界へ橋が架けられた
それはすぐに全ての世界を繋いだ
橋ができてから船は利用者が減って、
船そのものが小さくなった
港も減った
世界に一つしかないところも増えた
船は場所と時間を選ぶ
何も気兼ねなく全ての世界へ行ける橋は
人が絶えず渡っているらしい
私は残念と思う
船を使わない人たちが
どこへ行くかも分からない
操縦士のいないこの船は
世界を散歩するのに丁度いい
その世界のつまみと酒で
居合わせたそいつらと一杯やる
私にこれ以上の楽しみはない
数日で次の港につく
どれだけ世界を見て回っても、
私みたいな生きた人間はいなかった
たまには生きたやつとも、
これに乗って散歩をしてみたいと思うのは、
贅沢なのか、無謀なのか
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
前回参加した「世界と人の橋」の船バージョンです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?