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【1人用声劇台本】お砂糖、いくつ?

この作品は、声劇用に執筆した作品です。
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ある男のもとへ訪れると、紅茶を淹れて、男はこう聞いた。
「お砂糖いくつ?」

【上演時間】
約5分

【配役】
私(♂)……紅茶を提供する人。
  ※性別変更可(変更する場合、適宜内容を調整してください)


私:やあ。いらっしゃい。
私:何にもない狭い部屋だけど、遠慮せずあがっておくれよ。大したもてなしもできないが、お茶でもいれようか。ティータイムだ。君はそこに座ってくつろいでいてくれたまえ。

私:そういえば、英国では一日の間に何度もティータイムがあるらしいね。
私:朝7時頃、起きぬけにいただくアーリーモーニングティー。
私:8時頃、朝食といただくブレックファーストティー。
私:11時頃、昼食前のティーブレイクにいただくイレブンジスティー。
私:15時から17時頃、夕食前の小腹満たしにサンドイッチやスコーンといただく、アフタヌーンティー。
私:19時から20時頃までに、労働者などの庶民が食卓を囲んで飲むハイティー。
私:23時頃、ベッドに入る前に飲むナイトティー。

私:英国人の一日は紅茶に始まり、紅茶に終わるといっても過言ではない。なぜそこまで紅茶を飲むのだろうね。いやはや不思議なものだよ。

私:さあ、お茶が入ったよ。たしか君は、砂糖は3つだったかな?…あぁ、よかった。さあ、砂糖を3つ入れておいたよ。召し上がれ。
私:ん?僕?
私:僕は砂糖を入れないんだ。え、前は砂糖を入れていたはずだって?よく覚えているね。たしかに以前は砂糖を2つ入れていたよ。だけど、味の好みが変わったのかな。今は何も入れないのが一番美味しいように感じるんだ。
私:さあ、冷めないうちに飲んでくれ。…お口に合ったようでよかったよ。上手く入れられたかどうか、心配だったんだ。

私:ところで、さっき聞いてしまっておいて、なんだけどね。紅茶を提供するとき、「お砂糖、いくつ?」と聞くことがあるだろう?あれって、とても失礼なことなんじゃないかと思うんだよ。 
私:何故ってそりゃ、砂糖をいくつ入れるかなんてことも、突き詰めていけば個人情報に他ならないからさ。
私:例えば、貧しい家庭で育ったら砂糖の量は減るかもしれないし、逆に裕福な家庭で育ったら砂糖の量は増えるかもしれない。
私:あるいは、家族や知人の影響を受けて、誰かと同じ数の砂糖を入れるようになったのかもしれない。
私:あるいは、酪農家であれば砂糖は使わずミルクを惜しげもなく入れるかもしれないし、柑橘類がよく採れる地域ならばレモンを浮かべるのが当たり前かもしれない。
私:そうやって育った環境が表れるとすれば、やはり砂糖をいくついれるのか、ということは個人情報になり得るんだよ。

ー間ー

私:…ここで質問だ。
私:君の周りに、砂糖を入れない人物が、僕以外にもいないかい?いや、いなかったかい?
私:…そう、彼女のことさ。
私:ここで一つの推測をしてみようか。
私:君が見殺しにした彼女に、僕が惹かれていたとしたら。
私:そして、さっき入れた砂糖に毒物が混入されていたとしたら……どうする?


《終》

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