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二つの歴史は決して交わらず

デュエマシティにおいて盛んに行われているカードゲーム、その中では語られない種族を持つもの達が、やはりと言うべきか存在した。
『グレートメカオー』を支援する存在として作られた『キカイヒーロー』
仲間同士で能力を受け渡し強化していく『ダイナモ』
他にも歴史の闇に沈んだ種族は多数あるが、今回の話の中心となるのは『シノビ』だ。
そんな『シノビ』本人が、自身らの存在が完全にとは言わないが、消えてしまったこのデュエマシティにやってきたらどうなるだろう?
自分の生きた証がなくておかしくなってしまうだろうか?いやいや、自分の存在を知らしめようとするだろう?
こんなところで論ずるよりも、実際に見て頂いた方がわかりやすいだろう。
ほら、あそこに件のシノビが…


「ちぇ、今日デュエマしたヤツらはみんな、シケてるじゃに〜!」
敗者から、カードを分捕りながら悪態をつく青い髪の、少年とも少女とも取れるシルエットのアイツは『ジャニット』。
通称は『じゃにこ』であり意外にも少女である。
彼女は元々『斬隠 テンサイジャニット』というクリーチャーであり、デュエマシティにおけるカードゲームで『シノビ』の名を剥奪された、クリーチャーの一体である。
元々は同じく『シノビ』の名を奪われ、クリーチャーとしての姿も失った仲間である『バイケン』と共に暮らしていたのだが…
「アイツが異常に干渉して来なかったらお前らもカードを奪われる事なかったじゃに!!」
「恨むならバイケンのやつを恨むじゃに〜!!」
と言うようにどうにも『バイケン』の過干渉に疲れて一方的に家出して、以降はカード狩り等を行っているようだった。
「分かったらさっさと散るじゃに!!それとも切り札の無くなったデッキでもう一戦するじゃに〜?」
彼女がニヤニヤしながらそういうと、カードの持ち主達は半泣きで逃げ出して行った。

彼女は薄暗い路地裏に身を隠すと渋い顔で、今日の戦利品を見た。
SR1枚。
VR2枚。
R2枚。
「こんなんじゃボクのデッキの強化もできねーじゃに……」
そう言い自分の腰に着けたデッキケースからデッキを取り出し中身を見る。
青単で構築された速攻気味のサイバービート。
サイバーウイルス、サイバーロードが多めに積まれ、『アストラル・リーフ』『エンペラー・ティナ』『エンペラー・マルコ』など名のある進化クリーチャー達が勢ぞろいしており、ブロッカー、トリガーも多めに採用されており攻守に優れた強力なデッキである。
『エンペラー・マルコ』や『アストラル・リーフ』等の高レアリティカードが軒並み1枚ずつしか積まれていない事に目を瞑ればなのだが。
幸運にも彼女がデュエマシティに流れ着いてからは負け知らずだったが、家出してからというものの飲食代等がかさみ、カードを強制アンティで奪って売り飛ばしても、カードを買うための金が足りない日が続いていたのだった。
「もっと強いプレイヤー達をカモにするためにもデッキは強化したい…けどお腹は空くじゃにー…」
ふと、大通りの方を見てみるとルピコやその友人達の姿が見えた。
彼女達もじゃにこと同じくクリーチャーの世界からデュエマシティにやってきて人のような姿を得た者達だった。
「なんで僕がこんな目にあっててアイツらはあんなに楽しそうにしてるじゃに…ズルいじゃに…」
そう呟くと静かに立ち上がり、得意の忍法で何も無いところから水を生み出し『アイツら』に向けてぶちまけて路地裏を後にした。

街を往く人々の波に乗りながら、彼女は頭を回し続けた。
自分達は『シノビ』
『シノビ』の多くは第100回戦国武道会決勝戦で『暗黒皇グレイテスト・シーザー』が放った『超銀河弾HELL』と『超聖竜シデン・ギャラクシー』の振るった『超銀河剣THE FINAL』が真正面からぶつかり合った衝撃を吸収し、超獣世界への影響を少しでも軽くするためにその命を散らして行ったと言う。
それなら自分は?
確かに今の『じゃにこ』はそんな名誉の死なんて言うものはお断りだろうが生前は?
もしかすると自分は斬隠のシノビ達のトップたる『斬隠蒼頭龍バイケン』と共にあの時散っていったのでは?
そしてここデュエマシティに生まれ変わって来たのでは?
荒唐無稽に思えるかもしれないが、あの時のHELLとFINALがぶつかった際の衝撃には、そうと思わせる説得力があった。
そんな考えで頭をいっぱいにしていた彼女だったが、その考えは頭から吹き飛ぶ事になる。
大通りでバイケンが自分の事を探しているではないか。
確かに、あの日何も告げずに家を出たのは悪かった。
もし、家に戻る事があればそれは謝る。
だから
だからお願いだから
頼むからそんな涙を流しながら僕の事を探さないでくれ。
心を痛ませながらその光景から目を逸らそうとしたその瞬間。
バイケンと目が合った。
「やっと見つけた。」
声にならない声だったが、唇の動きでわかってしまう自分が嫌になる。
あの人が動き出すよりも早く、その場から逃げ出した。
後ろから声が聞こえる
「うるさいじゃに!」
走る。
何もかもから逃げ出すために街を駆ける。
気付くといつもの路地裏に居た。
真後ろから声が聞こえる。
「どうして…逃げるの?」
声が出ない。何も言えない。

「僕と……僕とデュエマしろじゃに。」
しばらくの間静寂に包まれた後、口をついて出た。
「私が勝ったらお家に帰ってきてくれる?」
「負けたら僕の事は諦めろじゃに」
それだけ聞くと目の前のデュエリストはただ黙ってデッキを取り出した。
緊張で全身が震える。
薄暗い路地裏でデュエマが今始まる。



それからの事はよく覚えてない。
バイケンと一緒に家に帰って来てるって事はきっと僕は負けたんだろう。
いや、正直わかってた。
そもそも1度だってバイケンにデュエマで勝てた事なんてない。
ついため息が漏れる。
ネガティブな気持ちで胸がいっぱいになりそうになるその時、優しい声が聞こえた。
「ご飯出来たよ」
テーブルの上には温かそうな晩御飯が2人分並べられていた。
思わず涙が流れる。
バイケンはただ何も言わず頭を撫でてくれた。
暖かい手で泣き止むまで何度でも撫でてくれた。
なのに撫でられる度に涙が溢れる。

きっと寂しさのダムが壊れたんだ。
後にバイケンが教えてくれた。
甘てもいいんだぞ。
そう言ってくれた。
どうして、僕達がここにこうして生まれ変わってきたかはまだ分からない。
ただ、今は、今この暖かい時間がずっと続けばいいと思う。

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