森井洋介と旧KNOCKOUT
昨日(2023年1月6日)、森井洋介が引退を発表しました。
また1人、偉大なキックボクサーが引退します。
森井洋介と言えば、朴訥でマイクは不得意、SNSが苦手。
所謂、試合こそ全てを地で行く、昨今の格闘技の流れとは真逆の選手だったと思います。
そんな森井は多くのファンから愛されました。
森井の愛称は師匠の小林聡に因んで「野良犬2世」
もう一つは「Mr.KNOCK OUT」です。
森井の愛称であるMr.KNOCKOUTのKNOCK OUTは、小野寺体制下の、俗にいう旧KNOCKOUTに当たります。
旧KNOCKOUTは2016年12月~2019年4月までの期間です。
なんか第二次UWFとあまり変わらない期間ですね。
とても短い期間です。
僕は森井も旧KNOCKOUTも大好きでした。
今のKNOCKOUTも注目選手が多く、面白い試合も沢山あります。
ただかつてあったKNOCKOUTという団体とは別の団体になっていて、それでいて名前は消滅することなく存在するので、僕の感情は行き場を失ってふわふわと彷徨っていたのですが、森井が引退することにより、その感情をしっかりと成仏させることが出来ると思い、この記事を書きました。
Mr.KNOCK OUT森井洋介の引退は旧KNOCKOUTの完結を意味すると思います(僕の中で)
この記事はそんな自分の感情に対する鎮魂歌です。
いやそんな大したもんじゃないかな(笑)
旧KNOCKOUT
僕が再び熱心に(それなりに)格闘技を観るきっかけになったのは旧KNOCKOUTの旗揚げによるところが大きいです。
旗揚げ当初のRIZINには全く期待をしていませんでした。RENAが出場していなければそもそも観ていなかったんじゃないかな(そんなRIZINが大晦日にあれだけの興行を開催したってのは感慨深過ぎます)
新日本プロレスを再建させたブシロードが参入し、新たに発足されたKNOCKOUTに期待を寄せていたキック選手・ファン達は少なくなかったと思います。
そこには大きくなりつつある新生K-1に乗り切れない人達もいたかもしれません。
僕個人としては1DAYトーナメントばかりになる旧K-1に段々と気持ちが離れていて(今の若い方はご存じないかもしれないですけど、昔のK-1は1マッチ5Rでしたし、中には肘有の試合もあったんですよ)
K-1MAXのときには既に大分冷めていました。
だから、新生だから乗り切れないというのは僕にはあまりなかったです。単純にK-1にそこまで思い入れが無かった。
元々プロレスファンからのUWFからのリングスからの旧K-1という、僕の世代ではあまり珍しくはないミーハーな流れだったので、旧K-1に冷めていくのと同時にやっぱりMMAの方が面白くなったんですよね。
なので、夢中になった選手は魔裟斗ではなく、桜庭であり五味でした。
とは言っても、一応K-1も継続して観ていました。
ただこの時期(K-1MAX全盛期)、僕が最も好きだったキックボクサーは魔裟斗ではなく、森井洋介の師匠にあたる野良犬こと小林聡でした。
小林聡は現役時代K-1に背を向け続けた選手です。
旧KNOCKOUTのプロデューサーだった小野寺力も現役時代にK-1のオファーを断った選手です。
そして当時(KNOCKOUT旗揚げ時)、新生K-1に背を向けるどころか公然と喧嘩を売っていたのが那須川天心。
その那須川天心と日本ムエタイ界の至宝こと梅野源治(それこそあの当時、梅野がこんな形でブレイクすると予想した人はまずいなかったでしょうね)を2大エースに据えてスタートした団体に注目しないわけがないでしょうっていうね。
旧KNOCKOUTの魅力
まあ色々良かったですよ。
このBRAHMANのオープニングとかも超格好良かった。
僕はこの守破離が入っている「梵唄 -bonbai-」っていうアルバムを持っているんですけど、いまだに大事な仕事の前にこの曲聞いて気合入れたりしますもん(笑)
TOKYO MXで毎週放送のレギュラー番組があったのも良かった。選手に感情移入しやすかったし、Vも結構しっかりしたものでした。
肘有り、首相撲制限なし、5R、オープンスコア、1DAYトーナメントなし、興行の試合数を少なくしてチケットの単価を抑える、手売り禁止等、良い点は沢山ありました。
特にごく一部の選手以外は、手売りから解放されるって夢のような話だったと思う。
まあその良い点が沢山あっても、それで黒字にならなかったから、旧KNOCKOUTは無くなったんですけどね。
PRIDEや旧K-1が美化されるように旧KNOCKOUTも色々と問題点もあったけど、まあここでは触れません。
葬式で故人の問題点追及しないでしょう(笑)
やっぱり那須川天心との契約が切れてしまったのが1番大きかったんでしょうけど、これは仕方ないですよね。
天心サイドとしては主戦場のRISEに出るのは当然として、RIZINがフジテレビの中継を持っていたのがあまりにもデカすぎる。
僕は当時、ディレイ中継しかないRISEなんか出なくていいと無茶苦茶なことを口走ったりしてたけど(笑)
天心離脱の影響はあまりにも大きかったですが、僕は仮に梅野が残留していたとしても影響はあまりなかったと思っています。
これは当時、よく知人と話していたんだけど(まあ勝手な想像です)、梅野にとって自分がメインでセミが天心ていう状況って結構プレッシャーだったと思うんです。目の前であんな凄い試合されて、観客のボルテージは既にピークに達しちゃってるし。
かと言って格的にはやっぱり梅野がメインだし(当時は)
逆に何も感じてなくてあの試合内容だったら、自身をエースに起用した団体を盛り上げようって意識が無さすぎたとも言える。
ただ、せめてライト級トーナメント優勝した選手とはやってやるくらい言って欲しかったですけどね。盛り上げるために。
天心だったら間違いなく言ってたでしょう。
実際、当時の森井と梅野は観たかったですよ。初対戦から大分経っていましたし。
まあ、何にしてもKNOCKOUTと梅野は長続きしなかった運命だったと思っていますけど。
そう考えると、REBELSでもKNOCKOUTでもRISEでも上手く調理できなかった、あの難しい食材梅野を、ああいう形で調理したRIZINは流石だと言わざるを得ないですね(笑)
旧KNOCKOUTは全部で17興行を開催したんですけど、その内の5興行で森井はメインを務めています(全選手で勿論1位)
その5回とも全てKO決着。
まさにMr.KNOCKOUTだったなと。
個人的旧KNOCKOUTベストバウト10選
印象に残っている試合は沢山あります。
不可思vs金原正徳は異種格闘技ぽくてとても面白かった。
一説には当時、金原は怪我をしていたらしいです(信憑性は定かではない)
怪我していてあの強さって万全だったらどんだけ強いんだっていう。
他にも、大﨑一貴、鈴木真彦、海人はRISEより先にKNOCKOUTに出場していたんですけど、この3人のKNOCKOUTデビュー戦なんかは衝撃的です。
挙げ出すとキリがないので、ぱっと思いついたベストバウト10選を。
大﨑一貴vsタネヨシホ
肘で切られた後のタネが狂ったように殴りかかってきて、それをしっかりブロッキングする大﨑一貴は見事でした。
タネヨシキをKOした大﨑孔稀とタネヨシホの試合も鮮烈に覚えています。
小笠原瑛作 VS 江幡塁
KOした瞬間と伊原会長がリングインした瞬間どちらも印象的です。
とにかく面白かった。
この後、江幡塁は新生KNOCKOUTでベルトを取り、そのベルトを引っ提げて那須川天心と対決します。
小笠原瑛作は結局天心とは対戦できませんでした。
天心vsワンチャローン、天心vsスアキム
那須川天心のキックボクシングベストバウト5選は?と聞かれたら僕はこの2試合は必ず選びます。
勝負に絶対はないですが、天心のキックボクシングで負けるかもしれないと思った試合は殆どなかったです(ロッタン戦も普通に勝つだろうと思っていました。そしたらあんなことになりましたけど笑)
堀口戦は若干不安だったかな(それだけ当時の堀口は規格外でした)まあそれでも大丈夫だと思ってました。
試合前に負ける可能性が全然あると思ったのがワンチャローン戦。
ワンチャローン戦ほどではないけれど、負ける可能性もなくはないと思っていたのがスアキム戦でした。
スアキム戦で天心とKNOCKOUTの契約が終わります(事前に決まっていたことだと思います)
それは与党新生K-1に対して、野党第1党がKNOCKOUTからRISEにとって代わるということを意味していました。
ライト級トーナメントから4試合。
このトーナメントがまあクソ面白かったです。
特に勝次vs前口は順位をつけるなら1位でもいいかな。
メインの天心が食われた試合ですね。
フジテレビのFUJIYAMAFIGHTCLUBでも放送されました。
勝次は1回戦の不可思戦といい、勝次ってこんな激闘派だったっけ笑?ていうくらい輝いていました。
その勝次を決勝で下して、圧倒的な強さを示した森井。
この試合をメインにしたKING OF KNOCK OUT 2017両国は前売りで完売しました。
昨年のクリスマス(2022年12月25日)にRISE・シュートボクシング・GLORYとこれでもかっていうカード編成でも両国を埋められなかったことを考えると、天心不在の大会でこの完売がいかに凄いことかわかるでしょう(プロモーションにも随分お金をかけたと思うけど)
ただこの大会が旧KNOCKOUTのピークだったと思います。
森井洋介 VS ヨードレックペット
圧倒的な現実を突きつけられた試合。まあこの世界観が好きだったわけですけど。
天心離脱でエースは森井しかいません。
そのエースに最強を当てて、そしてエースが負けてしまう。
天心離脱が決定していて、その後のエースを託された原口健飛vsペットパノムルンとも若干被りますね。
そして試合内容は大きく違えど、圧倒的な敗北と言う点では小林聡vsサムゴーとも若干被ります。
余談ですが、僕は親しくなった人でキックボクシングを殆ど見たことがない人には、まず小林聡vsテーパリットの試合を見せて、その後に小林聡vsサムゴーの試合を見せます。
この2試合は非常にわかりやすく、誰が見ても面白いので反応がいいです。
ちなみに僕の嫁はサムゴーの左ミドルを見て悲鳴上げてました。
閑話休題
この世界観が好きだったと言っても、僕はこの試合時に酒を飲み過ぎていて、メインの時にはベロベロだった為、試合後は金正日の告別式かってくらいのたうち回って号泣してました。
この後からかな。観戦時にもの凄く酒をセーブするようになったのは。
ヨードレックペットvsチャンヒョン・リー
旧KNOCKOUT最後の試合。
このトーナメントに参加した日本人は3人。重森・町田は1回戦で敗退。
エース森井も準決勝でチャンヒョンの前になすすべもなく敗退。
決勝は外国人同士の対決。
でもめちゃくちゃ面白かったですけどね。
この試合が最後ってのがなんか象徴的ですよね。
旧KNOCKOUTの理念に沿っていた試合だったと思います。
旧KNOCKOUT消滅後の森井洋介
旧KNOCKOUT時代、森井は日本人には無敗でした。
旧KNOCKOUT消滅後、3年ぶりのKNOCKOUT以外の試合で、日本人に黒星を期してしまう。しかもKO負け。
KNOCKOUT以前にも遡ると日本人に負けるのは約6年半ぶりのことになります。
相手は原口健飛。
原口は初の肘有の試合。
僕はこれは旧KNOCKOUTの敗北だと思いました。
国内肘有ライト級最強だった選手が、肘有初めての選手にKO負けしたのですから。
ただ当時も原口が勝つだろうと予想していました。
僕は現在の日本人キックボクサーのPFPは原口だと思っていて(PFPの是非はともかく)
この当時も既に上位にいたと思う。
理性ではこの世代交代は分かってはいたことなんだけど、それでも何とも言えない感情になりました。
僕は応援している選手の箪笥みたいなものが心の中にあって、このときに森井は別の引き出しに入れ替えました。端的に言うと応援の仕方が変わった。悲しいけれど。
もう1つ印象深い試合は森井洋介vs安本晴翔
僕は元々そんなに階級差はないと思っていて、今の安本相手だと結構悲惨なことになるんじゃないかと思っていたら、森井の動きは思ったよりも悪くなかった。
ただ、そのこととは裏腹にやはり長年のダメージの蓄積が見えて、効きやすくはなっているなとも思いました。
今後、それなりの相手にはまだ勝てるだろう。
ただ勝負論のある相手になると、こうやって若手の踏み台にされかねない。それは最も強かった森井を見てきたものとしては切ないっていう感想だったんだけど、結果的にはこれが最終試合になりました。
最後に
森井の引退発表をTwitterで見たときは、ああ来るべき時が来たなと思い、暫くぼーとしながら、TLを眺めていました。
すると、僕が応援している石月祐作がこんなtweetをしていた。
このtweetを見た瞬間に急に涙がボロボロ流れてきて、止まらなくなりました。
全く知らなかった。石月は森井に憧れていたのか。
それは戦わせてあげたかったなと思い、それと同時に色んなことが思い出されて、処理しきれなくなり、幼稚なnoteをまた書く羽目になってしまいました。
昔と違って、今は過去の試合はYouTubeで検索すればマトモな団体なら視聴することが出来ます。
キックボクシングの技術はどんどん進化していくし、新しい世代が旧KNOCKOUTの試合を視聴したときに色褪せて見えてしまうこともあるでしょう。
ただそのときの熱や空気はその時代を生きた人にしかわかりません。
僕らには時折思い出して、語ったりすることくらいしかできないけれど。
昔々あるところに絵空事のような理想を掲げたキック団体がありました。
短い期間だったけどね、うん。
その団体を象徴する選手がいましてね。
森井洋介っていうんだけれども。
どんな選手だったかって?
それはもう不器用だけど、強くて格好良くてね
森井の左フックといったら・・・
(了)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?