深夜のイージューライダー、突然の奥田民生

とにかく、夜まで働いて色々なトラブルが山積みで、ひどい気分が全身をじっとりと覆ってきて、毎朝、起きるのがきつい日々だった。
気分転換するには週末まで待つしかない。
まだまだ一週間が始まったばかり、その夜、寝る前にベッドで読んでいた吉本ばななさんの下北沢を書いたエッセイに奥田民生のイージューライダーのことが書いてあった。
正確には、ばななさんの家の上に住んでいた、トータス松本さんが、お風呂でイージューライダーを歌っていて、その声が聞こえてくる、その素敵な出来事を書いたことだけど。
それを読んで、ふんふんイージューライダーってあれね、と思ってYouTubeを開いた。
久しぶりに聞いてみようと思った。
ちなみに、あれね、って思われる歌を持っているってすごいことだと思う。
私は音楽に興味がほとんどなくて、なくてもかまわないぐらい。
そんな意識の薄さを越えて入りこんできているってことだから。
ベッドの上で、携帯の小さな灯りの向こうで、若い頃の奥田民生が歌っていた。
ハーフパンツにレッドウィングのブーツ履いて、気負わない感じ。
うん、そうだったと思って見ていた。
あの時代の奥田民生。
いくえみ綾のマンガに出てくるみたいな。
ほんと似てる、あの主人公の恋の相手に。
そう思って見ていたはずなのに、あの有名なサビから、終わりに向かって歌詞がたたみかけてきたとき、私はほとんど泣くかと思った。
軽く笑えるユーモアと。
うまくやりぬくカシコーサと。
と言われたとき、すごくすごく、今ひとりでいる私を、けなげだな、と思ったのだ。
たぶん自由なんかじゃなかったんだろう。
辛いこともたっぷりあって、汗びっしょりで目覚めたりもして、消えたアイディアも、枯れるほどの虚しさもあっただろう。
でも明るいほうに向かいたかったんだろう。
切実だった自分は、同じくらい切実に歌っている奥田民生に。
どういうわけか、百パーセント確実に、この歌のことがわかったような気分になったというか、自然に納得していた。
ひとりでいるけど、この感情はひとりのものじゃない。
歯噛みするような思いでいたり、それでも広く出ていって何もかも見たくて、身ひとつで飛び出していくしかないし、またそうやっていくんだろう。
眠らない体が欲しくて、この世を味わいつくしたいんだろう。
そういう歌だった。
何年もたってから初めて聞く歌になって、そういう声に憩わせてもらった。#奥田民生