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不便ばんざい

アマゾンで本を買おうとして、何をそんなに急いでるんだろう、とハッとした。
私が中学生ぐらいの時は、街の外れにある本屋さんに行って、そこになければお父さんに頼んで買ってきてもらうか、注文をして届くのを待つしかなかった。
だいたい注文してから1週間ぐらいは待たされた。
でも、待つのも楽しみだったのだ。
今日届くかな、まだかな。
届いた日には、放課後、取りに行くのを待ちきれず、掃除の時間が我慢できなくてうずうずするほど、手に入れること自体がうれしかったのだ。
今の家に引っ越してきて、行きつけの本屋さんができた。
ドラえもんのエプロンをしたおじいさんが店番をしていた。
私はちょっと日数はかかるけど、たまにそこで本を注文していた。でも別におじいさんもいつまでたってもそっけなくて、愛想もよいわけでもなく、ただ近所にあるから、という感じだった。
本のセレクトも、こだわりがあるわけでもなく、ごく普通で、ひと通り揃っているけど、足りないものも結構ある、そんな感じ。
しばらく忙しくて、その店の前を通らないでいた。
久しぶりに本でも探そうか、と出向いたらシャッターが下りていて、閉店の挨拶が張ってあった。
もう、あのおじいさんには会えないんだ。
なんだかちょっとさびしかった。
本を誰かに手渡される。
そのことが私をほんのちょっとなぐさめてきてくれてたんだ、と知った。

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