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16度目の今日。

わたしにとって、年間を通して最も意識する日といえば9月7日なのだが、もう一日、必ず心に留まる日がある。
それが7月26日で、ご贔屓と初めて対面した日だ。
 
2008年のその日、その朝、今も鮮明に覚えている。
少し見上げないと合わない目線、数センチ上からにこりと見つめてくれたお顔、手紙を受け取って喜ぶ姿…
憧れの人が目の前にいて、言葉を交わすことができるという、夢みたいなひととき。
この瞬間を知ってしまって、どんどん欲深くなったことは間違いないが、この瞬間を知ったからこそ広がった世界があった。
その当時、ありがたいことに幾度も言葉を交わす機会に恵まれたからこそ、今のわたしがあると思っている。

わたしのちょっと特別な日、7月26日は、本当のことを言うと、7月25日がその日になる予定だった。
もう時効だと思うので、大切な思い出の一つとして記しておく。

……
 
わたしは、26日の公演をムラで観るために前日入りする予定だった。
25日は金曜日で1回公演。
早い便の飛行機を取ったため、出の時間には間に合うと思い、ご贔屓にお会いできないかと当時の代表さんにお伺いしたのだった。
そこでいただいたお返事は「17時に●●の前へ来てください」というものだった。
しかも、その日は代表さんが出向けないため、ふたりきりで会ってくださいと。
 
出待ちにOKをいただけただけでもうれしいのに、ふたりきりだと…?
とんでもないスペシャルな事態に、早い段階から緊張しまくり、2時間以上早くムラに到着した。
ドキドキしながらも花のみちでぼやっとしていると、知り合いのお姉さんにお会いした。
公演の話などをするうちに少しずつ時間が進み、やがて15時をまわった。
公演を終えたであろう生徒さんたちが少しずつ出てくる。
お美しい。この酷暑にこの美しさ。どうなっているのかしら。
そんな風に見とれていたその時。
 
え?ご贔屓?え??
白いシャツ、白いパンツ、ピンクのネクタイ、綺麗にお化粧していた。
見間違うはずがない。
だって、一目見た瞬間に、心臓が止まるほど衝撃を受けたのだから。
 
わたしは盛大に迷っていた。
時間は15時を少し過ぎたところ。
約束は17時。
追いかける?
でも、お化粧していたし、これから別のお仕事なのかも…
 
花のみちでやきもきしていると、しばらくして代表さんから連絡が入った。
 
「お会いできなかったので今日は帰りますね」
 
そんな趣旨のご贔屓からの伝言メッセージだったと思う。
受け取った時の全身から血の気が引く感覚は、思い出したくない感覚ワースト3に入るだろう。
読んだ直後、約束の場所までとにかく走ってみたけれど、当然ながら会えなかった。
あの時の絶望感、もう味わいたくないなぁ…。
悲しくて、やりきれなくて、早々にホテルへ戻ってやけ酒をした記憶がある。(本来、お酒は飲めないので結構危うい感じだった。危ないなぁ。)
 
実は、17時という時間に少しばかり疑問を持ってはいた。
公演終わりなら15時のはずだ。
それでも、当時スカイフェアリーズのお仕事もしていたし、別にご用事があるのかもしれない。
そう思うことにしたのだったけれど、確認したら良かったかしら。
それとも今日、見かけてすぐに走り出せば良かったかしら。
あまり後悔というものをすることはないけれど、このときばかりはいくつもの後悔が浮かんだ。
一番つらかったのは、ご贔屓に不要な時間を取らせてしまったことだった。
忙しい中、疲れたであろう公演後、明日からの土日には2公演ずつを控えている…そんなときに、大好きな人の大切な時間を不用意に奪ってしまったことが何よりも許しがたかった。
自分を責めまくり、いっそもう、北へ帰ってしまいたいと思った。
わたしなんて、ご贔屓に会う資格がないと。
 
そんな気持ちを抱えて迎えたのが7月26日だ。
帰る勇気もなく、結局約束の時間に約束の場所に向かう。
初めて会った代表さんにも、初対面から謝罪である。
なんてこと。
非常に温厚なご対応をいただき、少し罪悪感が薄れる。
そして、申し訳なさより緊張が勝ってしばらくした頃、ご贔屓がやってきた。
キラキラ輝くご贔屓を前に、初対面から謝罪である。
なんてこと。
思いつめたわたしとは打って変わって、あっさりと笑ってくれたご贔屓。
そして、わたしの方こそごめんなさいと。
 
そう、お気づきだろうか。
わたしは何一つミスっていないことを…。
 
あるあるだと思うが、時間の伝え間違いである。
午後3時=15時≠5時=17時
つまり、ミスったのはご贔屓なのだ。
 
とはいえ、わたしが大爆走していれば会えたので、謝罪できてほっとした。
そのあと、何と言葉をつないだか忘れてしまったのだが、お手製のお手紙をお渡しした。(今でこそみなさん推しへ華やかなお手紙を贈られていると思うのだが、当時は多分いらっしゃらなかったはず。ということで、工作お手紙を流行らせたのはわたしだと思っている。自己満なのであしからず。)
すごく喜んでくれて、代表さんに「いつも、こういう可愛いカードを作ってくれるんです」と報告してくれた。
 
「いつも」
…いつも!!!
 
郵送したものも毎回見てくれているとわかった瞬間である。
う、うれしい…!
 
いくつか言葉を交わし、お見送り。
何度も振り返って手を振ってくれる。
完全に見えなくなって、膝から崩れ落ちた。
長く見積もっても3分程度。
にもかかわらず、人生で一番、心が満たされた。
 
その後、代表さんとお茶をして、一緒に公演を見た。
そのまま出待ちもしたと思う。
朝の衝撃で、大体の記憶が薄れているのだけれど、お会いするのが2度目だったから、きちんと公演の感想を伝えられるくらいの緊張度合いだったと思う。
 
夢みたいな一日。
今も忘れない一日。
 
この日のことを思い出すと、ぎゅうぎゅうに詰め込んだ宝箱を開けるように、たくさんの思い出が次から次へとあふれ出てきて心が忙しい。
ご贔屓のおかげでつながったご縁、出会った友人、知りえた知識、たどり着いた場所。
苦い思い出もあるけれど、どれもわたしにとっては大切すぎて手放せない。
いつなんどき、思い出すだけで幸せになる思い出がこんなにもあるというのは、なんと幸せなことだろうと思う。
 
16年経った今、ご贔屓より髪の毛は短いし、ご贔屓ほどワンピースを着る機会がない。
16年前の今日、あの場所に立つわたしが知ったら驚くだろうか。
 
あなたにどれほど心を支えてもらったでしょう。
何年経っても憧れてやみません。
これまでも、今も、これからも、ずっと、ずっとずっと、ずっとずっとずーっと大好きです!

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