乳白色の夢
乳白色の靄に抱かれて眠る夢。
どこか懐かしく、寂しく、切ない。
聞き覚えのある旋律。
その綺麗な歌声に呼ばれる。
遠ざかる温もり。
まだ此処にいたいのに。
もう少しだけ。
何かを思い出しそうなの。
浮かんでは儚く消える泡のような夢の断片。
貴方は、誰──
夢から醒める。
光が眩しい。
優しい空色のきれいな青、柔らかな薄い雲。
音色が途切れる。
歌っていたのは、君か。
「起こした?ごめんなさい」
「その歌は…?」
「…分からない。でも、ずっと知ってる歌…」
悲しそうに揺れる蒼い瞳。
細い白銀の睫毛がきらきらと縁取っている。
「素敵だよ」
そしてまた、睡魔に襲われる。
心地の良い風。
木々のざわめき。
鳥のさえずり。
初めて聞くはずなのに、胸が締め付けられるような旋律。
凛として、少し掠れた美しい声が歌の続きを紡いでいく。
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激しい頭痛、吐き気、目眩。
目の奥を抉られるような痛み。
耳鳴りのような、軋む金属のような不快な音。
刺激され、脳が揺さぶられる。
思わず気持ち悪くなり、嘔吐する。
嗚呼、助けてくれ。
微かにある、懐かしい歌声に縋る。
美しく穢れのない世界。
あれは、誰だ。
誰だ。
手を伸ばすが、その後ろ姿には届かない。
白銀の揺れる髪、
優しく物憂げな菫青石の瞳。
「"白い月"………-」
そうだ、彼だ。
「"誰"……だって……?」
ぐちゃり、と踏まれる吐瀉物 からは、
ツンと酸性まじりの臭いが漂う。
声の主は"彼"ではない。
「ボクがいるのに……ねぇ、主」
幼い少年
金色の瞳
金色の髪
声色は妖しく、蠱惑的
鈴の音のように澄んでいる
けれど、美しい彼の歌声には程遠い。
「あなたは捨てられたんだよ、主。どこの"星の子"か知らないけれど」
「ボクは、貴方の持つ闇が、好きだ…」
「でも、貴方はその記憶を手放そうとしないね……苦しんでる。ボクが助けてあげる…」
「だから、一緒に……」
こいつは悪魔だ
これは幻想だ
耳鳴りのせいだ
あの夢を手放してはいけない
何だ
靄だ
奇妙な紫色に
辺りが包まれる
不快
錆びた匂い
黴
埃
血
届かない
嗚呼
最期にもう一度だけ
あの歌を──
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