赤ウインナー

私は友達のこと、好き。こんなにも酷く惨めでどうしようもない私に、こんなにも優しい友達。
大好き。愛してる。
けどそれは全部私の生み出した妄想かもしれない。私に友達がいること、それが全部全部私の思い込みなんじゃないかって。
(もし、これが思い込みじゃなくて本当に友達がいたとしたら、私はその子たちにとても失礼なことを言っているね。最悪だね。ごめんなさい。)
落ち込んだ時、決まって私はこういう強い思い込みに脳を支配される。私は誰にも優しさを返すことが出来ていない。ごめんなさい。
布団の上や押し入れに転がるぬいぐるみたちでさえ、孤独さを埋めてはくれない。ごめんなさい。

こういう時、友達だと思えるのは赤ウインナーだけ。
どうして赤ウインナーなのかは分からない。
それは今年の正月、酔っ払った私が居酒屋で赤ウインナー焼きをもりもり食ってた時だったかもしれない。タコさんウインナーだった。
本当に特に理由はないんだけど、なんかそのタコさんウインナーをみたら、「トモダチ…。」って気持ちが自然と湧き上がったのだ。自分でも何言ってるか分からない。

赤ウインナーと何をしよう。私は友達と川に行きたい。赤ウインナーと川に行こう。
赤ウインナーの油でぬめりついた身体に、草と土がぺったり張り付く。私は赤ウインナーを食べるために草を取ろうとするけど、油で手がヌルヌルしちゃう。だからウェットティッシュ、必須。

赤ウインナーは、仕事終わりの私を迎えに来てくれる。宇宙人のツノを人に当てる仕事をしてる私を迎えに来てくれる。宇宙人のような見た目をした赤いヤツが、丸の内をうろついてるのだ。
オアゾの壁の大理石をみて、赤ウインナーは言った。
「この壁にいるアンモナイト、クラスメイトの溝口くんなんだ。」
赤ウインナーとアンモナイトの溝口くんは、2人だけの教室でとびっきりの青春時代を過ごしてたそうな。

お腹すいたら、歩きながら赤ウインナーを食べる。赤ウインナーは友達だけど、食材でもあるので、友達だけど食べる。
私だけ食べてばかりじゃ不公平だから、「私のことも食べていいよ。」って、赤ウインナーに言う。けど赤ウインナーは、人間を食べる趣味はないらしい。まあわかる、まずそうだよね。人間。
日本人は大抵、醤油かければなんでも食べちゃうけど、赤ウインナーの味覚は醤油ごときで満足出来ない。赤ウインナーはグルメだった。
だから美味しいんだ。美味しいやつは、美味しいものを食べて育ってるもんね。

私は思った。この地球で私という人間を食べようとするから、美味しく感じないんじゃないか。
美味しさの基準があやふやな、未開拓の星で食べちゃえば、美味しさも不味さも分からない。醤油はもちろん、塩すらもない星へ。

私を残らず食べてもらおうと、赤ウインナーを誘って星に行くことにした。宇宙に行ったら、赤ウインナーの美味しさは一度リセットされるんだろうけど。まあいいのよ、私、赤ウインナーよりゆで卵の方が好きだし。
お互いを食べ尽くす前に、酸欠で死んじゃうかもしれないけど、それはそれで良しとする。
こんな私の無計画な旅に付き合ってくれる友達は、きっと君だけ。赤ウインナーのことも本当は信じられない私。知らない星に丸呑みにされる日を、ずっと期待している。


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