卯月の花嫁
卯月の花嫁よ
誰も目覚めぬ眠れぬ時間
ひとり、婚礼衣装に袖を通す。
何もあたたかくない袖。
ぬくもりは暦に置いてきたままで、相手のことを置いてけぼりにするような儀式だけが行われる。
嫁入り道具なんてものも存在しない。
ここには、いのちの気配がしない。
鋭く冷たい風だけが、私に見送りの唄を贈ってくれた。
こんな姿、きっとひと月だけ。できればそうでありますように。祈る、祈ることしか。
爪のような白い三日月、針葉樹林、くれぐれも、誰も彼もを刺してこないように。
私はここで、祈るほかなかった。
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