氷菓、一角獣
無性に、冷たいものが欲しくなる。そういうときって割とあると思う。
冷たい風ふく、ある日のお話。
わたしがふと、アイスを食べたいと思ったその瞬間を狙うかのように、一角獣は現れた。
どこから来たのだろうね。あなたは。
物流センターの、クール便の部屋かしら。ちょうどさっきのわたしのような、くたびれたひんやりを携えて。
でも、一角獣は、目だけはくたびれていなかった。毛並みはくたくたでも、目はタピオカまなこ。
そして何より、そのツノだ。
キリリととんがり、そしてひんやり。なぜかしら、ほんのりいちご色に染まっている。
いちご味のアイスキャンデーかな。ツノをポキッと折りましたそして口に運び、咀嚼すること約1分。知覚過敏がつらい。
思った通り、いちご味。ああ、 そういえば一角獣のツノを折ってしまった。
でも、何事も無かったかのように、ツノがまた生えていたのだ。
次は緑色のツノ。抹茶味かな。
ポキッ
次はほんのりクリーム色。バニラだといいな。
ポキッ
今度は青い? ブルーハワイか、ラムネか。
ポキッ
次は茶色。チョコだから食べられないや。
だから たった1回、ツノを折るのをやめたその瞬間。一角獣はタピオカまなこをグルリとこちらに向けた。
わたしは動けなかった。30秒くらい、一角獣と見つめあっていた。
チョコレート色のツノが、一角獣の熱で溶けていく。ツノが溶けてしまった一角獣は、もう、ツノがないから、ただの獣。
この獣は随分と繊細な性格だったらしく、自分が“ツノ”を無くしてしまったことに心が耐えきれなかったのだ。
ツノをなくした獣は咆哮した。冷たい空気をビリリと鳴らす、かなしい声だった。
あとはもう、はじけとんで消えてしまった。
チョコレート味の液体がこちらに飛び散り、わたしはチョコレートに溺れてそのまま沈んでいった。
最悪だ、最悪だなあ。 せめてさいごは海洋散骨がよかった。
一角獣は跡形もなく消えたけど、わたしは発見された時、チョコまみれの遺体だ。すごく嫌だな。
わたし、来世は一角獣になろう。
そして自分のツノで、ずっとずっとアイスキャンデーをほおばり、自分と自分の食欲をなぐさめながら生きて、生きて、生きたら、跡形もなく散るのだ。
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